436:指揮官

「正式」の中で暴れた「乱風風刃」は尽く……魔族の命を奪っていった。


 壁とか家具には一切傷を付けていない。さらに、密封状態になるため、効果も高い。まあもの凄く色々とイメージしないといけない「微塵」に比べると遥かに魔力消費は低い。コスパ最高だ。まあ、さらに一工夫すると、魔力消費増加だが「微塵改」になるんだけど。


「な、なんという……」


 しかし、魔族の軍は……士官ばかりだからか、もの凄く規律正しい。偉いヤツしかしゃべてっていない。これ、結構大変だよな。呻き声とか叫び声みたいのもあまり上げないし。


(結構即死が多いからだと思うが……)


 一瞬で半分くらいの部下を失ったのがショックだったのか。俺の術に驚いたのか? 


 まあ、軍の現場トップがその顔は不味いんじゃないの? 士気がだだ下がりよ?


「ほら。お前も死んだ兵を蘇らせればいいのに」


「くっ!」


(出来ないな、こりゃ)


(ああ、出来ないな)


 さらに……反対側の敵を……「正式」で捕らえる。ああ、そうか、この中だったら。昨日……一瞬の発動で辺り一面を硝子質のクレーター化した超高温の「火球」。いけるか?


「火球」


 うん、日和った。幾ら【結界】が完璧だからといっても、費やされる魔力……あれ? スキルで使う力って魔力じゃ無いんだっけ? の消費が激しくなる可能性は否めない。

 なので、普通の……これまで想像していた蝋燭とか松明の火の青い部分を抽出した「火球」を放った。


 燃える士官達。うーん。ピカッとした一瞬で影も形も無くなってしまう太陽「火球」の方が敵にはやさしいんじゃないだろうか? どうなんだろう。


「蒼い……炎……お、お前は……お前は何者だ! なぜ、このような人族の魔術後進国にお前のような特級魔術士が!」


 残しておいた。うん。本当は、士官全員を生かしておいて、あの磔用の槍に串刺しにして晒しながら、王都にいる魔族の兵に絶望を感じてもらって、その最中に殺そうと思ってたんだけど。


 コイツだけでいいか。


「調べたみたいだけどな。足りなかったんじゃね?」


「くっ。ま、まだ、この都市には我が軍が蹂躙したのだぞ!」


「そうだな。で。そのお前らの軍は俺一人に蹂躙されたわけだ」


 見事なほどに。


「くっ!」


 無造作に。近づいて行く。既に、彼の周りには誰も残っていない。


「重風刃!」


 うーん、それはもう、どうにもこうにもだよ。案の定、発動した風刃モドキが俺の目の前で消えた。


「よし。お前は「寝台君」と同じ感じにしてあげよう」


 おもむろに、両腕を掴む。そのまま、「魔力」で身体強化を施してある自分の力を思い切り……振るう。


ゴギャッ!


「ゲハッ」


 壁に、思い切りぶつけていく。あ。こいつも、物理耐性はそこそこな障壁付きか。って、お守りとか、護符とか……そんなのかな?


(ああ、そうだな。指輪だ。幾つも付けているアレのうち、一つが発動している)


 おお。さすが。


 まあ、うん、いい。まあ、いい。


グチャッ! ゴギ


 投げ出された足を掴んで、再度、壁にぶつける。壁とか壊さない程度に力を抜くのが結構難しいな……これ。

 それにしても、士官達は全員、コイツの命令に従って、戦闘に参加していたようだ。王宮には既に動く者がいない。


「ぐう……」


 まあ、ズタズタになった「指揮官君」を引き摺って、王宮を歩く。まあ、このまま……王都のえっと……。


(軍が駐屯しているのは、この王宮から出て、左、西の方角だな)


(都市に広がっている兵の掃討は……面倒だな自分たちにやらせるか)


 ズタボロになっている指揮官に、ポーションをぶっかけて回復させる。


 王宮の門……が開きっぱなしなのはマズイか。


「大地操作」で石壁を生成し「硬化」で固める。ついでに王宮を囲んでいる塀も強化しておく。姫様って王都にくるのかな? というか、近隣の領を治める貴族とかってどうなってるんだろうか?


 んで。


「起きた? 今すぐ、殺してもいいんだけど、残ってる兵卒が面倒だからさ。命令するように」


「何を、言っ!」


ゴキッ


 身体強化を発動したままで、思い切り、今、生成した王宮の壁に顔面を食い込ませた。あ。やべ。ちょっと力が入りすぎた。こりゃ放っておけば死ぬな。

 特製ポーションを再度振りかける。うん。治るね~あっという間に治るね~。我ながら中々スゴイと思う。


「お前は俺の言葉に従えば良い。理解したか?」


「指揮官君」が弱々しく、頷く。


「よし。なら、駐屯してる辺りへ行くか」


 肉体は回復するんだけどね。ポーションで。でも、服がボロボロなのはどうにも出来ないか。まあ、いいや。


カチャ


 隷属の首輪を付ける。


「な、なななぁ! これ、これはっ」


「隷属の首輪だ。ああ、お前らも大量に持って来てるだろ? 全員付けてもらうか。生きてる魔族は全員」


 よほどショックだったのか、言葉が無い様だ。


「ということで、お前は俺の言う事に絶対服従だ。判るな?」


「な、なに……ぐあっ!」


 おお。隷属の首輪をしたまま、主人の命令に抗おうとすると、こうなるのか。命令に逆らえない=激痛が走るとかそんなような事を言っていた気がするし。


 額にこちらの文字で「奴隷」とマジックで大きく書いて、「回復君」の時の様に、固定させる。判りやすい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る