435:真のボスの名は

「こんなもんか?」


 本音が……つい……口から溢れてしまった。


「だ、第三重風刃」


 まあ、もうそれはいいよ。同じのばっかり。


 これまでと同じ様に、「風刃」が俺の「周囲」を抉る。


(仮定なのだが……ひょっとして、今敵対している魔族? 魔人は魔力は多いが、使用出来る術はもの凄く限定されているのではないか?)


(俺の知ってる魔術とは違うってこと?)


(ああ。前から、ヤツラの使用する魔術は、ノラムの使う魔術と微妙に違うと言っていたと思うんだが)


 そういえば……言ってたね。なんだっけ、赤ちゃん可愛いみたいな。


(私からの言葉は全てイメージで伝わるからな……そういう情報が同時に伝わったのは確かだが、大事なのは「万里の従兄弟の律子さんの生んだ双子の慶太くんと湊人くんの様な感じ」という文字面の方だ)


(ぷっ。ショゴスはその双子が可愛くてしょうがないんだろ?)


(う、うるさい。今はそこじゃなく)


 うん。ごめん。


(もの凄く似ているのだけれど、明確に別モノというところだ)


(ああ。だから、俺の知っている魔術と名称や使われている結果が似ているからと言って、同一人物、同じではないっていうことだよな、紛らわしいけど)


(そうだな。紛らわしい。そもそも、魔族と、言語が同じって時点でおかしいしな)


 そうなんだよな……おかしいよな。やはり。着ている服のデザイン等から考えても、明らかに文化が異なっている。距離も離れているし、一切交流も無かったのだから、当然なんだけど。


(そうか……確かに、一人の術士が覚えられる呪文が限定されている説はあるかもしれない。でも、それこそ、俺の知っている魔術士も通常は、一つの属性のみ、使える呪文は二つでも多い方だったりするぞ)


(そうなのか? ノラムは多様な呪文を使いこなしているから、それが当たり前なのかと思っていた)


(ああ、すまん。その手の話はして無かったな。俺、全属性の適性があるからさ。地水火風:5555だったかな? 5が最高値ね。で、一般的な適性は、地水火風:3--1とかそんな感じ。適性が3あれば、かなり良い方で、大地の魔術士を名乗る感じかな。ぶっちゃけ、適性が1あれば、魔術を使える。その時点で魔術士だな)


(そうなのか……そうか……今気付いたのだが……ノラムいや、村野は異世界転移チート主人公ってヤツなのだな?)


 それは恥ずかしいよ……。主人公ではないと思うんだけどなぁ。でも、チートはちと否定出来ないか。肝心な時にずっとお休み中とはいえ、女神様から色々とよくしてもらってるもんな。


(納得した。では、魔術士に関する常識を訂正した。一人の魔術師につき、四種類程度の術を使える時点でエリートということか。ならば、この場に存在する魔族はほぼ、エリートと言えるか。先ほど「火属性は使うな」と命令が出ている……ということは、ここにいる者達はそれを使えるということになる。その上で、先ほどから、重圧の呪文とか、風の呪文とかで攻撃してくるからな)


(そうだな。エリートだ。そんなエリートだけど、何一つ……俺の【結界】を突破出来てないからなぁ……)


「キサマは……何者だ」


「ん?」


(……多分、指揮官……または実力ナンバーワンの武将、将官、将軍と言った所だ。ヤツの魔力がこの中でいちばん大きく強い)


「……」


 どこかで見たことあるな。あいつ。魔族は基本、濃い茶の軍服……の様な揃いの衣装を着ている。偉いヤツはその肩や胸に、飾りを付けている。

 ああ……アレだ……肩の飾りで思い出した。天幕に居た「寝台君」に似てるのか。


「名乗る名も無いか。蛮族が」


「ああ、お前似てるな。戦場にいるにも関わらず、寝台で寝てた馬鹿に」


「……それをどこで……」


 額にあるボタンの様な角の痕? 以外は、顔付きとか基本人族と変わらない。指揮官らしき男の驚愕の表情も人族とそう変わらない。


「どうでも良いだろう? お前らはここで消えるのだから」


「デリフィア様が……術を行使する際に寝台に横になるのは……我々も閥軍の中でも幹部以上で無ければ知らぬハズ」


 言ってるじゃん……ってそうか、ここに居るのは幹部以上ってことか。


 というか、どういうこと? 「寝台君」に様を付けた? あれ? 総司令官とか総指揮官は……「寝台君」だったってこと?


「お前達。何をしている。蛮族などに何を時間をかけている。狩れ!」


 うんうん。再度、発破をかけられて、術が殺到する。まあ、でも、俺ももう、飽きちゃったからね。潰して行くかね。


 どういう方法が一番楽かな……。建物を傷付けない様に……ってああ、そうか。敵の集団……に向かって、範囲で【結界】「正式」を指定する。うん。部屋の壁とか、家具には傷付かないように出来る……な。よし。


「乱風風刃」


 一斉に……呻き声、叫び声が響く。復活は……しないようだ。というか、ある程度覚悟してたんだけどなぁ。ゾンビ兵。


(確かに、同じ術を使うヤツが本隊にもいるだろうと予想していたのだが……カンパルラでノラムが倒した「寝台君」が唯一の存在なのだろうか? もしかして……あの術は、継承者限定とか、一子相伝の術とか?)


 ああ~確かに、そういうこともあるわな。相変わらず、論理的思考、分析解析のスピードが異常だよ。ショゴス。


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