434:偏り

 とりあえず、ショゴスに言われた通り、俺が良く使う棘よりも少々大きめの……さっきヤツラが撃ってきたものよりはかなり密度の高い上等な「石槍」を、言われたとおり、いつもよりも時間をかけて生成し飛ばす。


 目標は、数名が隠れている扉の脇の壁だ。その壁の裏に数名の存在を感じる。


ゴバッ!


 結構な勢いを付けた「石槍」は、扉と共に、壁を吹き飛ばした。同時に、壁の裏にいたヤツラも瓦礫の下敷きになっている。


(今の、見たか?)


(いつもの棘よりも太くして、戦端を平たくしたからか、壁が大きく崩れたな)


(そこではない)


(ん?)


(「石槍」が壁に当たる前だ。ヤツラ……が術を幾つも「石槍」に放とうとして……「間に合って」いなかった。なので、発動を取りやめて、村野……ああ、いや、サノブといや……いまはノラムか。ノラムと呼ばなければだな。そのマスクがあるときは。微妙な魔力の動きだったから気付かないのも当然だが)


 スゴいなショゴス……そんなの……椅子を一ミリズラしたよってくらいじゃないの? 


(で? えっと……えっと……それは~迎撃しようとしてたってことかな? そして真面目だな、ショゴス)


(そうではないだろうか? というか、魔術を物理現象として捉えて、火には水、水には火、土には風、風には土なんていう相克関係がある……とか?)


(ってことは、いまの「石槍」に風で攻撃しようとしていた?)


(ああ。どうせなら同じ土属性の壁の方がまだ、対抗出来そうな気がするのだが……そもそも魔力の壁だったか? そんな術を使う者が戦場には居たと思ったのだが)


 城壁と同じ様なもんだしな。判りやすいよな。ショゴスの言う通り、第十軍の敵本陣を強襲したとき、確か「対魔力障壁」という術を使ってたと思う。術として存在すると思うんだけど。


(あ。でも、さ。まあ、ショゴス。とりあえず、敵を殲滅……しちゃおうか。うん)


(そうだな。そちらが先だな)


 まあ、ヤツラがその手の術を駆使してこないというのは非常にありがたい。敵が弱いのは喜ばしいことであって、悲観すべき事ではない。


ガガガガガガ!!!


(建物に傷は付けないのではなかったのか?)


(燃やさなければ……よくない? あと吹き飛ばさなければ……よくない?)


(よいのか?)


 この辺の建物も、国の看板たる王宮だけあって結構重厚な造りだ。こちら側は……迎賓館とかそういう感じか。


(集合しつつあるぞ。次の……大広間だ)


 えーっと、ああ。あの両開きの扉の向こうか。


「風槌」


 改良版のエアーハンマーだ。破壊槌的なイメージで「風盾」をアレンジしたこの術は、結構いろんな場面で使う事が多いので、名前を付けてイメージしやすいようにした。


 弾け飛ぶ扉。空気が歪む。扉が開いた先には……三十名近い魔人。まあ、今回の軍の幹部クラス……将校大集合ってことなんだろうな。


「連動重圧」


 掛け声と共に……半数くらいの魔術士が、術を放った。


(ん?)


(戦場で報告のあった動きを遅くするという術がこれか。まあ、重圧というから重力をコントロールするのかと思ったのだが……ただ単に、気圧を下げて……いるのか?)


(あー低気圧になると頭痛するとかそういうヤツ?)


(気圧を下げつつ……三半規管とか脳に対して、何か余計な圧力をかけているような感じじゃないだろうか? 非常に小さい魔力で効果絶大だな)

 

 おお。それは確かに……魔力の少ない人族が多いこの国の人間には効きそうだな……。それなりにレベルの高い(ハズ)の松戸や森下も若干動きが鈍ったとか言ってたし。


(純粋に、多少でも魔力抵抗のある者には、なんだこれ? 程度の効き目だと思う。ましてや、ノラムレベルになると……何も感じていない様だしな)


 まあ、そうなんだよね……これ、サッパリ効果が判らない。若干でも感じれば「今、攻撃を受けている」と判断出来るんだけど、あ。いま、彼らは魔力で何かしているな~程度。


 正直、これを受けて行動が阻害される……ということは一切ない。


(問題は、この後だな。動きを鈍らせて……本命が来るぞ?)


「魔力阻害」


 あ。これ、天幕前でも受けた! ゾワゾワするヤツだ。


(大丈夫か?)


(問題無い)


「合わせ! 重風刃」


 再度掛け声と共に、俺の風刃とは少々違う風刃……なんか、無骨な風の刃が、前方……あらゆる角度から俺を狙ってきた。やるなぁ。これ、逃れる術がないだろ? 避けた先にちゃんと、次の刃が迫ってくる絶妙に計算された発動軌道だ。


 まあ、当然避けないし……別に何もしない。【結界】任せだ。


 というか、第十部隊に居た様な障壁担当の兵がここにいない……ということなんだろうか。まあ、幹部ばかりじゃな。兵種、職種は偏るよな。多分。


「あ、合わせ! 第二重風刃」


 と、余計な事を考えられるくらいの余裕はある。さらに、第二弾で敵の魔術が放たれた。


 扉周辺の壁、床、天井が大きく抉れる。


 あ~あ。この建物、流用するにしてもフルリフォームしないとだなぁ。


 粉々になった建材の粉塵や、埃等が舞い上がり……そして次第に収まっていく。


「やったか?」


 魔族の誰かが……そう叫んだ。


 うんうん。気持ちは判る。判るけどさ。それは絶対に言っちゃいけない。それでフラグが立っちゃうんだよなぁ。

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