431:質量×速さ

(魔術による周辺感知を常に行って、遊兵を始末している様だ。各個撃破の障害になる情報封鎖も役割として担っているのだろう)


 んじゃまあ。このまま……突っ込んでみようか。


ガガガガ!


 思い切り……二十名くらいが固まっている所に、駆け込んでみた。薙倒される魔術士達。衝撃破が発生しているわけではないが、【結界】「正式」によって俺の身を守っている障壁がそのまま……質量兵器となる。その凄まじい衝撃に色々と引き千切れてる。


 ん? なんでそんなに強烈な威力を……。


(魔術障壁を張っているヤツは居なかった様だな)


 舐めてる~。


 それにしてもスゴイ威力だな……。通常時は、外部に影響が出ないように慎重に進んでるし、風の魔術で色々と障害を排除したりもしている。ぶつけようと思って突っ込んだのは……始めてか。


「乱風風刃」


 自分の周りに風刃が乱れ飛ぶ。広がる距離はそこまで大きくないが、足元から……二メートルくらいの高さ……で発動した。


 絶叫と共に……血が舞い上がる。


(残りは?)


(分散している。位置を指示する)


【石棘】でピンポイントで狙っていく。あまり距離が離れていないのでほぼ一斉にターゲットして、術を発射する。


(ゾンビ化は?)


(無いな。完全に息絶えた)


(んじゃ先を急ごう。本隊は、各都市には少数の斥候部隊を派遣しつつ先へ進んでいる感じか)


(ああ。あと、「魔力感知」を使った、敵の連絡兵を徹底的に潰すやり方は、非常に賢いと思う)


 ん?


「サノブ……様か?」


 おうおう。イケテルババア忍者メイドのシグノさん……か。


「いま……何か良からぬ事を考えられましたか?」


 ギクッ! さすが年の功……やばい。読まれる。


「さらに……」


「ど、ドノバン様によろしく言っておいて。カンパルラは若干の被害はあれど無事と。あと、もう、連絡兵も普通に行き来出来るハズ」


「……は。では、早速、ディーベルス様に手の者をやります」


「あと、倒れてて、トドメがさせてないヤツラは任せて良い?」


「はい。聞きたいことは山ほどございますし」


「んじゃ。先を急ぐんで。詳細はそのうち」


 はっとした顔をするシグノさん。まあ、メイドではないよね。うちの人達の様に戦場ではメイド服じゃないし。黒いツナギみたいな服を着ている。


「サノブ様は……ど、どこに」


「ちょっとこいつらの本隊を潰しに」


 駆け出す。スピードアップしながら……【結界】や魔術を複数使用していく。


 以前の様に、街道脇の森の中を……面倒なので生い茂る木々をお構い無しで薙倒しながら駆け抜ける。通常ならもう少し丁寧に、太く大きな木を避けて走って行くんだけどね。


 その後、街道沿いの都市に近付くたびに、ショゴスさん探知機を発動させていたのだが、既に敵の姿は無く、さらに尽く……半壊状態になっていた。

 大規模な魔術を放たれたのだろう。城壁はほぼ崩れ、都市も半分以上を崩壊させられていた。同時に騎士団などの戦力も奪われているのだろう。


(これは……適当にぶん殴られた感じじゃないだろうか)


(適当?)


(ああ。本当に適当に……大規模魔術数発で城壁を破壊。さらに、都市中央部付近にさらに魔術を数発。直接向かってきた騎士団や守備隊も範囲魔術で殲滅。といったところか。領都リドリス以降は、やり口が全部同じだ)


 ちっ。こっちが魔術に対して何も対策出来ていないことに気付いたんだろうな。舐めくさってやがる。


(九千の軍が……王都へ移動しながら、適当に攻撃。そんなところだろう。九千という束になると……魔術はスゴいな。というか、各個撃破しなくても脅威に当たらないという判断だろう)


(だろうな……この国なんて脅威じゃない……よな。ここまで大胆に魔術を使いこなす軍隊は……戦国の世に初めて登場した鉄砲隊みたいなもんだろうし。いや……機関銃かな。それに向かって無謀な突撃を仕掛け続けたなんてのもあったな。そんな状況だろう。これ)


(どちらかというと、空爆の始まりに近いのではないだろうか? 投げ落としたのが手榴弾では無く、高性能な爆弾っていうだけで)


 おお~そうだね。うん。そう。さすがショゴス。


 よく見て、被害を確認して……とやりながら進んでしまうと、今にも死にそうな者達に手を差し伸べたくなってしまう。【収納】には特製ポーションもまだあるわけだしね。


 なのでとにかく急いだ。脇目を振らず。


「王都が……」


 予定通り、約五時間後。王都に到着……したのだが。


「陥落……ってやつ?」


 撃ち崩された城壁の辺りに、魔族軍、ハーシャリス閥軍の姿が散見出来る……辺り、余裕ぶっこき状態、現在、あれか。王都で蛮行実行中か。


(そうだな……陥落している様だ。パッと探知した限り、王国側の戦力と言えるような存在……騎士や戦士、冒険者が見当たらない。隠れているのか……ゲリラ戦を仕掛けているのか)


(というか……現在も絶賛略奪中ということは、陥落したのは昨日とか……か?)


(ああ。現在確認出来る魔族は8462名。九千名で移動してきた……のが判るな。被害は思いのほか少ないだろうし。現在は……半数が王都中に分散して略奪中だな。半数は反対側で待機……中なのかな? 被害は多々出ているが……魔族の目的の一つが奴隷の確保だからか、一般市民は、ほぼ生かされている様だ。面白半分で殺されている様な者はいない。既に……占領されてから数日経過している様だ)


 なかなか、シビアな略奪行為の実際をご存じですな。ショゴスさん。


(万里は純粋に戦記物も好きだったし、史書も読んでいたからな)


 ほほう……。


 

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