430:単独行

 というか、今回の件、俺がキッカケを生み出したのかも? って時点で、もの凄く腹が立ってくる。

 だって俺も……それこそ、情報をくれたシロも悪くないと思うわけですよ。最近の深淵の森の詳細って、無かったしね。


 深淵の森の中層……だからこそ、そこで繁殖しつつある魔物を大規模掃討するのは、狂乱敗走スタンピード対策にもなると思って、はっちゃけてたワケだしね。

 ドラゴンがあまりに美味しい錬金素材を落とすからついつい狩りすぎちゃった……のだって、しょうがないでしょう? 人として。


 つまり、深淵の森から魔物が減った! やった! 西域へ軍を派遣して、侵攻できるぞ! と俺の力を利用する様に攻めてきた魔族に腹が立つ。ドラゴンを放置し続けていたくせに。あのデカい蟲も放置してたくせに。


「私達も……」


 森下も頷いている。


「……松戸、森下、アーリィは引き続きカンパルラの防衛に尽力して欲しい。あと、エルフのヤツラを斥候に戻して、これまで以上に探索させて欲しい。シロが居ないせいで情報を持ち帰るのが難しいとは思うけれど、もう、口伝を繰り返す、人海戦術しかないよな……」


「はい……」


「森下は俺が居なくなるとまた喋れなくなりそうだから、連れて行きたいところだけど……残り九千……なんだよな。あのハーシャリス閥軍って。純粋に何かあったらなぁって」


「何かあっても構いません」


「俺が構うんだよ」


 愛とかその辺はともかく。確実に情はある。正直、俺の関係者、関わった者達を失うのはもの凄く不愉快だ。

 ……とか考えてたら、日本大丈夫だろうな……とか不安になってきてしまった。様々な検討事案は片矢さんと潰したつもりだけど……。エネルギーが溜まって転移出来るようになったらすぐに確認に行こう。そうしよう。


「とりあえず、本気で走ると……面倒見きれないってのもあるからさ。今回は、大人しく留守番……というか、カンパルラの守り神やってて。まだ何かあるかもしれないから」


「はい……」


「……」


 渋々だな、マジで。


「んじゃちと、行ってくるわ」


「はい。御健闘お祈りしております」


「いってらっしゃいませ」


「あ。アーリィによろしく言っておいて」


「……」


 え? ヤバいの?


「泣きますね……」


「泣きます」


「マイアも泣きますね」


「泣く」


「我々も可愛がってもらってません」


「もらってない。えーん」


 そんなこと言われても。


「す、すぐ帰る……予定……もっと性能の良いポーション開発の為に秘密工房に籠もってる……ってことにしておいて」


「九千対一でその御言葉。さすがでございます」


「さすごしゅ」


 なんていうか、じとっとした二人の目線を振り切るように、地下通路を利用して外に出る。

 帰ってきたばかりの商人のサノブさんが、またすぐに行商に行くのはちょっとね。行き先は秘密工房だし。


 風が心地良い。


 魔力を使用した身体強化、そして【結界】を使用した空気の衝撃の緩和。さらに風の魔術を自分の使用してのスピードアップ。


 というか、よく考えなくても、飛行タイプのゴーレムに搭乗用の設備を加えたヤツを作っておけば良かった。乗り物の方が楽だよな。


 王都までの距離の話が出てきた時に思ったんだけど、2800㎞を五時間ちょいってことは、時速500㎞/h以上は出てるんだよな。俺の脚力。

 音速が1200㎞/hくらいだから、その半分は出せるわけで。だから、こっちの方が楽っていうか。簡単だからあまり考えて無かったけど。

 確か向こうで乗った飛行機、旅客機が800㎞/hくらい出るんだから、それを目指せば……運転するだけならそっちの方が楽だよな。体力も消耗しないし。


 今回は急いで向かって、即戦闘突入……パターンも有り得るわけで。後悔が多いよ。本当に。


 って、走り始めてしばらくすると。なんだっけ、あの……その……えーっと。ラクガキした……あ。「回復君」か。その御一行に遭遇した。あれ? まだ、こんな所に居るの? って感じだったが、ヤツラ疲労困憊だったか。一人は完全にお荷物だしね。


 あ~折角施した嫌がらせな仕掛けだけど……「回復君」ってそんなに偉く無さそうだったし、面倒だから斬り刻んで埋めちゃおう。本隊のトップにラクガキして帰国してもらうか。


「乱風風刃」。そして「大地操作」で落とし穴、埋葬。うむ。ごめんな。遊んじゃって。


 立ち止まったついでに、念のため……と思って、領都リドリスも寄ってみた。


 燃えてた。というか、城壁とかが思い切り崩れている。しかも……おいおい。敵兵は……三十名程度か?


(ショゴス、寝てるとこすまん、急ぎで指示を頼む)


(問題無い。敵は約三十。離れて二十……は奴隷による兵糧運搬だな。とにかく、戦闘集団は三十。本来は偵察、斥候部隊の様な感じではないだろうか? そんな先行集団によって、リドリスは既に壊滅状態の様だ。リドリスの……騎士団も守備隊……も壊滅状態を確認。装備的に生き残りの戦士達がまとまっている……な。特攻でも仕掛けそうだ)


(ドノバン様は……生き残ってるか。たった三十に、王国最高戦力の一人が率いている領騎士団が壊滅とか。どんだけ魔術に弱いんだよ……この国)

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