429:局地制圧

「ちっ。森下。本隊は今頃どこだと思う?」


「……ヤツラの行軍はかなり速いですからね。最初の際も、気付いたときには、深淵の森を抜けておりましたし。本隊が進軍を再開して既に十日になりますから……」


「あ。俺、昔計算したことあるな……。カンパルラから王都まで……確か……日本横断よりもちょい短いくらいだった気がする」


「日本列島ですか? えっと、約3000㎞とかそんなでしたか?」


「ああ。それより短かったから……2800㎞くらいだったと思う。」


「……つまり、通常の行軍であれば……陸自が20~25㎞。レンジャーで30㎞ですから……普通に「歩いて」移動であれば、2800÷30で93日ちょいですから……まだまだローレシア王国を縦断中ということになります」


「特殊な……移動手段、能力ってあるよな」


「あるでしょうね。森を移動してきた形跡がありましたから、瞬間移動は難しいとしても、身体強化による高速歩行は絶対に所有しているかと」


「うん。俺や、お前達が出来るんだから、もの凄い昔から魔術が得意で、研究してきたアイツらが出来ないはずがない」


 確か……俺は、王都まで五時間だったかな? マール馬車の超特急便で二日で行けるって聞いた気がするな。そういえば。


「馬車の超特急便だともの凄くお金がかかるけれど、三日とかで王都へ行けるって聞いた様な」


「あ。俺は二日って聞いたな」


「それは、有力な貴族や王族レベルが二日で、普通の人は三日とか……そんな感じじゃないでしょうか。超特急でなくても、マール馬車は時速50㎞は出てます。ですが、行軍で使えるようなモノでは……」


 マール馬車を使わなくても、十日も経ってれば、既に王都を急襲している可能性も高いのか。


 ん? 


「リドリスの領都は?」


「……そういえば。斥候や連絡兵が戻らないので情報が少ないと、領主様がおっしゃっていたような」


「エルフ達は……そうか、全員ここにいるのか!」


「はい。シロメイド長との連絡が取れなくなった時点で、異常を感知し、全員が自主的に帰還しております」


「まあ、そうか。こういう時ほど、散らばっていて欲しかったんだが」


「ですが、そのおかげで弓による精密射撃に厚みが持たせられましたので」


 クソっ。まあ、そうだよな。ギリギリだったわけだし。


「領都……辺境伯補佐閣下はもう厳しいか」


「……」


「いえ。一概にはそう言えないかと。今日までの戦闘中、「こんなちっぽけな都市などにここまで時間をかけてしまうとは」とか「この地方最大都市をさっさと制圧しなければ」「本隊も各種情報を必要としているはずだ」などと言っていましたので……ハーシャリス閥軍第十部隊は、この地方討伐の命と、森のこちら側の戦力分析の命を同時に受けていたのではないでしょうか? 正直、大規模魔術に耐性のない他の都市なら、あっという間に蹂躙できそうな気がします。さらに、ゾンビ兵が居ますから、数が減りませんし」


 確かに。その可能性はある。あれ?


「こっちの兵は、ゾンビ化しなかったんだ?」


「はい、生き返るのは魔族のみでした」


「そういう能力なんだろうな。で。森下、その辺の話は……領主閣下には……」


「当然してないです。御主人様が戻られるまで、正直、何一つしゃべる気がしませんでしたから……」


 まあ、ずっと……口調が、敬語関係がグチャグチャになってるしな。もうちょっと砕けた感じでしゃべってなかったっけ? 森下は。


「よし。なら、本隊はある程度進んで、情報待ちになっている可能性は……いや無いか。カンパルラには君らがいた。さらに、大規模魔術を俺の適当にかけておいた【結界】が防いでくれた様だ。他の都市が同じ様な状況になっている可能性は……低いか」


「……その様ですね。正直、カンパルラは御主人様がいましたが、他の領の他の都市には……御主人様がいません。あの攻撃を……もしもゾンビ兵がいなかったとしても、防ぐことは不可能では無いかと」


(ショゴス……休んでいるところ悪い)


(ん?)


 ショゴスは省エネなんだと思うが、大人しくしている。俺が一人きりだったときは結構話して……ひょっとして気を使ってたのか? マジかぁ……大人だな……。


(もしも、あの第十部隊とやらの攻撃を前に、うちの人達やエルフ、さらに【結界】が無かった場合。他の城砦都市はどれくらい戦えると思う?)


(戦いにならんと思う。正直、あの軍の後方から放たれていたタイミング合わせ詠唱魔術は、村野の【結界】や魔術的な障壁、付与魔術などが施されていない都市城壁など、一撃で大規模に破壊可能だ。初撃で城壁の大半を消失。そして、同時に、騎士団でも守備隊でも殲滅。生き残っている残存兵を前衛の部隊が動きが重くなる魔術を使用しながら殲滅。それなりの戦争になる可能性が見えてこない。予想として手順を研究しながらの攻略で二日。慣れてくれば半日でカンパルラと同規模の都市であれば、戦闘機能を失う)


「ショゴスが言うには……慣れるまででも二日。慣れてきたら半日で攻略可能だってさ。魔族」


「でしょうね……。残念ながら事実かと」


「十日……か。王都を攻略中か……次の国へ手を伸ばすのか。局地制圧に成功しているんだろうな。魔術を上手く使ってるのかもしれない。ここまで正直、情報が少なすぎる。斥候や伝令が戻らない届かないって状況なんだろうけど。どっちにしろ、行ってみるわ」


 立ち上がった。


 まあ、今から? って気もするけど、そこまで疲れてないし、温泉も入ったしな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る