425:食卓
戻ってきた。というか、帰ってきた。さっき、都市内にいたんだけど。まあでも、なんとなく、今の方が凱旋感が強い。
なぜなら。
仮面を被った怪しい風体のノラムさんであるにも関わらず、カンパルラの住人にもの凄く大歓迎されているからだ。
特に城壁の上から見ていた守備隊のヤツラや、辺境騎士団のヤツラがね。見てたからね。一部始終。
一週間苦戦していた相手を、現れて一瞬で掃討しちゃったら……そらまあ、英雄視されてしかたないか。面倒だけど、これはまあ、仕方ない。
「お疲れ様です。ノラム様」
「ノラム、御苦労だった」
まあ、そのもっともたるものが……これだ。領主様直々に東門の広場でお出迎えだ。
集っている者達は……男も女も、どこか痛んでいる。戦争だ……亡くなった者も多いだろう……。だが、みんな笑顔だった。
ああ、良かった。ここは間に合って。
ん? ああ、姫様も……そりゃいるか。辺境騎士団の騎士団長だもんな。現場の戦闘指揮官のトップだよな。そりゃ。
「ディーベルス閣下……我が主人、サノブの命により、先行して馳せ参じました。主人は明日には戻るかと思います。私は今から、その護衛に戻らさせていただきます」
「あ、おお。そうか……いやだが、今回の経緯や報奨を……」
「全ては主人と……お願い致します」
「……そう……だったな。了解した」
「では、誠に失礼でありますが……」
そう言い残して、ディーベルス様、姫様の脇から建物に入り、気配を隠す。
「消え、消えた」
申し訳ないが、英雄視される様な……期待には答えられない。
ならば、姿を眩ますなら早い方が良い。大衆に注目を浴びている最中でも、ほんのちょっとタイミングを外せば、姿を眩ますことは難しく無い。まあでも、そんなの面倒だから、建物の中、多くの視界から隠れた瞬間に姿を消しておいた。
この辺は監視カメラばかりの向こうの世界での活動が非常に役に立っている。周囲を探るのも上手くなってる気がする。
で、そのまま一度外に出て……再度……西門からカンパルラに入る。西門はギリギリ、警戒態勢を緩めたところだった。とはいえ、まだしばらくは戦時警備だ。俺自身のギルド証だけでなく、リドリス家の紋章メダル、ディーベルス様からの認可状とかでやっと通してもらった。
仕方ない事だけど、まあ、面倒くさい。
あ~それにしても、なんか疲れた。家に帰ろう。やっと正規のルートで家に帰れる。
(だが、まだ……)
(そうだな)
(何故こうなったのか……)
(一番気になる事が……解決していないしな……)
(ああ。私も知りたい)
ショゴスの言う通りだ。城砦都市内部は、思ったよりも人の流れを取り戻し始めていた。避難していた人達が家に戻り始めている。
まあ、そこまで気にすることはないだろうけど……工房には誰にも気付かれずに入る。
「ふう……ただいま~」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
ああ、もう、一風呂浴びて、着替えも済ませたのだろう。いつも通り、綺麗に調ったメイド服に着替えた、松戸と森下が出迎えてくれた。
「怪我は?」
「ポーションのおかげで皆無かと。擦り傷なども治療された後です」
「そか。森下は?」
「正直、最初は戦場の空気に飲まれましたが、それ以外は特に」
「話せてる……」
……これはどういうことだ? まあ、森下の謎は後だ。
「とりあえず、風呂に入る。温泉は変わらずなんだよな?」
「はい。大丈夫です」
「なら話は後だ。食べ物は?」
「多分ですが、そろそろ、避難していたマイアも戻るかと思われます。食材はまだまだ、十分に」
まあ、そうだよね。都市に供出とかしてなければあるよね。溜込んでおいたからさ。ってでも、ちょい待ち。
「冷蔵庫、冷凍庫に入っていた分だけ?」
【倉庫】は使えないんだから……そもそも、システムが生きていないんだから。
「はい、そうなります。ですが、我々とマイア、そしてエルフの者達が数人でしたので」
「そか。エルフの方は?」
「あちらは見つからなかった様で、問題ございません」
「そか」
風呂に入る。というか、米国とか海外を巡ってたからか、無性に大きな風呂に入りたかったんだよね。足が伸ばせる湯船、最高!
一人でじっくりと入りたいと言っておいたので、お背中流します攻撃はないだろう。まあ、その辺のシリアス具合はちゃんと慮れるからなぁ。彼女達。大人だよな。
(ショゴス。ダンジョンシステムのエネルギーってどうなってる?)
(ん? ああ、戻ってきているが……未だ、システムの起動は難しいな……)
(俺がここで生活していればいつかは?)
(ああ。いつかは……だと思うが……システムの一部を使用しようとすると、とんでもなくエネルギーを消費する。これは、私が介入しているからではないかと予測する。なので、一度きちんと正規のやり方でシステムを起ち上げてしまわないと……いつまで経っても復活できない」
(シロが回復しないと詳細は分からないからな)
(そういうことだ)
十二分に温泉を満喫し、風呂から出ると、マイアが戻ってきてた。
「サノブ様! 良かった……良かったです……」
マイアは駆け寄ってくるとしがみついてわんわんと声を上げて泣き崩れた。
まあ、不安だったのだろう。戦争なんて……初めてだろうし。
「えーと、腹が減っているんだ。何でも良い、作ってくれないか」
「あ、は、い~」
「全員で一緒に食事をしよう。な。マイアも一緒に」
「あ、あい~」
松戸と森下も、微笑みながら、頷いた。
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