424:ラクガキ王国

 さて。戦場には……パッと見……(生きている)味方はいない。


(魔族以外で生き残ってる味方は?)


(……ここに残っているのは死体のみだな……残念な事に)


(そか)


「乱風風刃」


 ごく当たり前の様に……術を発動した。しかも、「乱風」のおかげで「風刃」が乱れ飛んでいる所に……重ねて……追加していく。


「ひとつ……ふたつ……みっつ……」


「な、これはこれ、ぐあっ!」


「舐めすぎだよ、魔族」


 斬り刻む。今の三つ目はかなり魔力を篭めてみた。最近、判ってきたんだけど、魔術はイメージと、そこに消費する篭める魔力量で性能が変わる。


 今の「乱風風刃」は「風刃」に単純に魔力を篭めることで、固く強くなったモノだ。こっちはある意味簡単。ごり押しみたいな感じだろう。


 もう一方のイメージは、結構難しい。自分の中である程度、見本になる「何か」、比較対象になる幾つかの同類項がないと上手く行かない気がする。

 俺は当初、「火球」の炎は蝋燭じゃ弱いから、ガスバーナーかなぁ~程度の想像で、考えていた。それでも青い炎を想定すると、通常の赤い炎よりも激しい「火球」を放つことが出来た。

 が。跡形も無くモノを燃やしたい……何ていうときに、もっと温度を上げたい……と考えていたら、炎は、燃えるモノや状況等によって、温度が変化するということを思い出した。あ~そういえば……ってヤツだ。理科とか科学で習ったことなんて、ちゃんと覚えていないからなぁ……社会人。


 なので、さっき本陣を焼失させた「火球」は最新式だ。


 元々オレが使っていた蝋燭の炎やガスバーナーの炎を忘れる。


 そこで~ほんの一瞬、太陽周辺のプラズマを絡み合わせて、プロミネンス形状なのに、そこにフレアとかコロナとかその辺をこう、凝縮した形にしたら、なんか青い炎が見えた……気がしたので、それを具現化する……と考えてみた。


 一瞬は文字通り刹那で、指を鳴らすのを一秒として、その60分の一秒。だっけかな? そんな瞬間でも、アレだけの効果だ。


(発見した。ヤツラの弁によれば奴隷らしい……人族やエルフ族だと思う。本陣とは逆側の森の中にまとめられている様だ)


 よし。ありがとう。んじゃ。


「捕虜の交渉や、対話を必要としないんだよな?」


「ど、奴隷と対等に話を交わす事などありえぬ!」


 息も絶え絶えなのに……ある意味スゴイね。覚悟は。


「では消えろ」


「火球」

 

 先ほどよりもこの戦場は広い。倍……はいらないか。1.6倍程度の魔力でイメージする。


 ビシッ!


 あっ! あれ? やべっ。ちょっとかかっちゃったか……。


 とりあえず、俺の計算通り、千切れ飛んだゾンビの肉片と、敵兵のほとんどが消え去った。


 戦場になっていた荒野が、一瞬で綺麗な浅いクレーターに変化した。

 そこまではいいんだけど。同時に、後方で、俺が狂乱敗走スタンピード用に設定しておいた、カンパルラの城壁用の【結界】が弾け飛んだ!

 うん、ちょっとカンパルラに近い所まで伸びちゃっただけ。うん、それだけ。被害は……無さそうだし。城壁も崩れてないし。バッチリだな。


「ということで、お前達はこの現状を本国に伝えるといい。わざわざ生かしておいたんだ。それくらいは役に立ってくれよ」


 近付くと。そこには「回復君」が投げ出されていた。手と足の先は消失している。そこはわざと【結界】で外したのだ。ああ、あと、頭頂部も。髪の毛は完全に燃え落ち……多分、頭の皮も火傷で毛根死んだと思うので、見事なカッパハゲとして今後は生きていって欲しい。実はこれの調整が一番難しかった。


 彼の「回復能力」は大きな欠損は修復出来ない様だ。手先、足先は既に燃え落ち、塵となった。


「普通に歩けないから。輿で運んでもらうといいよ。そのために、何人か生かしてある」


 燃えてない兵士は四名かな。うん。まあ、彼らには上に報告してもらわないとだからなぁ~。ガンバって欲しい。帰れるか判らないけど。


「お前は今後、お前が亜人と呼ぶ劣等人種に、為す術無くやられ、ションベンを漏らし、その姿が余りに面白かったため、命を助けられた者という名前で生きて行くコトになる」


「書いとくね~」


 ビリビリ。上半身裸。


【収納】に入れてあった黒マジックで顔から胸そしてまた顔にって感じで「私は亜人に為す術無くやられ、負けて、情けをかけられて生き延びました。ションベン漏らし」と書いて、それを【結界】で消えないように保護する。ショゴスにアドバイスをもらいながら、こいつ自身の魔力を使用して維持するようにするのが面倒だった。まあ、アレだね、死んだら消せる。俺、頑張った。


 天職が錬金術士で、魔道具とか作れればなぁ~もうちょい簡単だったのに。


 はい。出来上がり~。これで服を着ても、顔の部分にある「私は亜人」とか「ションベン漏らし」は常に表示される。あらやだ。恥ずかしい。

 

 いいね。この仕置き。野蛮人らしくてステキ。がんばって生きて欲しい。「寝台君」もこの刑に処しておけば良かった。殺さないで。


 雑兵に輿を取りに行かせると同時に、奴隷達を連れてきた。まあ、雑兵は「回復君」を輿に載せて「帰れ!」と出発させる。


 奴隷……は人族が63名。エルフ族が32名。ドワーフ族? が8名。


 初めて見たドワーフ族は毛深くて髭、背が小さく、がっしりとした種族で、主に輿を運ぶ役割を強要されるらしい。鍛冶が得意で武具のメンテナンスも担当していたらしい。

 ちなみに、人族はモノを運ぶポーターが主な役割。エルフ族は貴人の身の回りの世話だそうだ。


 奴隷は闘争という神に捧げる行為に相応しくない、汚らわしいので、戦場から離してまとめられていたらしい。




 

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