423:仮面着けてます。

 臭い匂いを元から絶った……とはいえ。事件は現場で起きているので、何がどうなってるか判らない。


 気になるのは、うちの人たちが、怪我はそこまでじゃなさそうだったけど、かなりくたびれていたことだ。なので、最初は絶体絶命レベルなのか……と思ってしまった。


 まあ、籠城ってことになってたんだろうけど……どれくらいの戦力差で、どれくらいの日数耐えていたのか。


 ああ、それと、居るんだよな~あと一人。さっきのえーっと。「寝台で寝てたよ君」と同等の魔力持ちが。アイツが大将だとして、副将的なヤツ。

「寝台君」は多分あれだ、死霊術だかを行使するのに、あそこで横になって頑張ってたんだろう。なので、デスクワーク、内勤組だ。


 で。主に外で現場で働くタイプのヤツが……戦場で踏ん張っている。それはまあ、ちょい厄介だろうな。


 ダッシュで森を抜ける。おお。なんか、もの凄い戦場が広くなってるな。アレか。今まで、ゾンビが蠢いてたからか。それが居なくなったからガラーンとした感じなのか。


 残っている敵は……二百程度……かな? で。松戸と森下が対峙しているのが副将的なヤツ。か。


 それ以外の味方は? え? 退却してんの? え? どういう? アーリィが殿を押さえながら……っていうか、松戸と森下はそのフォローまでしてんのかよ。どういう戦争なんだこれ。


 主戦力、うちの人たちばかり? むむむ。


 アーリィはなんとか、味方を退却させて、自分も城壁内へ移動出来た様だ。


 よし。なら、まあ、いいか。あの二人なら……ほら。避けろよ~。


 何の予告も無く。さっきと同じくらいの強さで四重の「風刃」を前方……160度くらいに放った。


 スッ……と松戸、森下はちゃんと避ける。


 全部はフォローできないよな。なので、撃ちもらしも当然あるんだけどね。


 バタバタと……敵兵が倒れる。


 って、お? 副将はちゃんと耐えたじゃん。四重なのに。


 今回はちゃんと奇襲だ。さっき既に、誰何に対して反応して、相手がどんな感じなのか確認したからな。答えなかったけど。

 容赦なくいけるね。シロに聞いていた通りの相手だったしな。うん。本当に居るんだな、ああいう差別主義? の種族?


「御……ノラム様!」


「……」


 松戸と森下が俺に駆け寄ってきた。うん。いま、御主人様って言おうとしてたろ……。


「ごめん、ごめん、戻ってくるのに思ったよりも時間が掛かった。これでも最速で来たんだけどさ」


「さすがです。普通では無理では無いかと聞いておりましたので……信じておりましたが。良かった……いえ、お疲れ様でございました。大変な道中でしたかと」


 ぬ。松戸、森下両者共に……近くで見ればやはり……メイド服がボロボロじゃん……。


「すまん……何日目……これ、始まってから」


「開戦は七日前、我々が参加してまだ四日です。ノラム様。問題ございません。さすがに本日は敵が大きく仕掛けて参りまして。そのため服装は若干傷みましたが……」


「問題……なし」


 ん? 森下がなんか、前の口調に戻ってないか? どういうことだ?


「お前達のその格好と疲労度で、問題無いんだとしたら、どんな場合が問題有りなんだよ」


 まあいいや。


「怪我は?」


「ポーションのおかげで、かすり傷程度でございます」


 森下も頷く。まあ、身体の傷は無いかもだけど、結構服に切れ込み入ってるぞ? ボロボロってほどじゃないけど。


「ならとりあえず、下がれ。風呂入って寝ろ」


「い、いえ、露払いを」


「まだいける」


「まあ、大丈夫。あそこにいるやつらくらい、鼻くそレベルだから」


 ガーンという顔をする二人。まあ、鼻くそは言い過ぎか。ちょっと大きく、野ぐそくらいか。


(排泄物としては大きい方がやっかいだな)


 ですよねぇ。


「くくく。まあ、いい。後は掃討するので……うーん。捕虜にするって?」


 既に一部は消しちゃったけど。


「いえ……そこまでの施設、管理者、そして余裕が無いそうです」


「なら全滅?」


「はい……。人質交換や身代金による身柄変換の意味が無いそうなので。彼らが言うには、我々は、根が奴隷なので「交渉」する価値を認められないんだそうで。会話する価値を見出せないと」


「へーじゃあ、こちらも同じ扱いでいくしかないよな」


「はい……ですが……あの。結構厄介な……」


「判ってる。アイツな。なんか、自己治癒能力でもある感じかな?」


「……さすが……。はい。ダメージを与えても尽く無効化されるので非常に厄介で」


「アイツらもそう思ってるんじゃない? ポーションで尽く治るってさ」


「ああ……そういえば」


「ということで、先に戻って、風呂入って休んでいていいよ」


「は、はい、畏まりました」


「判りました」


 うーん。


「森下、どうしたの?」


「なんというか……御主人様と離れたら、日に日に言葉数が少なくなりまして」


「なんか蓋が閉まった。です。でも、また開く気がすます。御主人様いと。良かった」


 お。既に、さっきよりも喋ってるか。


「まあ、いいや、ホラ行け。そろそろ動こうとしてるぞ。あいつ」


 目の前で、治癒していたと思われる敵が……ゆっくりと立ち上がった。


「キサマだな……。死兵を地に帰したのは……。デリフィア様をどうしたっ!」


「え? うーん。消した……かな?」


「何を……」


「この世界から消した。一ミリの肉片すら残さずに、消した。ヤツはそれだけの事をしたよ。死者を愚弄しすぎだ」


「何を……生まれついての奴隷が、何を口にしているのか理解しているのか?」


「くくく。なんだっけ、あの若ハゲっぽい、おでこピッカリくんな。泣き叫んでたぞ? 弱いんだからもう少し、謙虚な気持ちを教えないと。強い人に出会ったら、媚びて、泣きながら土下座して謝らないとって」


「き、きさ……」


 おー。怒ってる、怒ってる。まあ、それに付き合わされる雑兵も可哀想だよな……と思ったら、ヤツに同意して、怒ゲージを上げている感じか。というか、逆にちゃんと教育はされているということか。


(間違いを間違いと気付けない教育は……不幸しか呼び込まない気がするな)


(そ、そうだな……)


(教育TVの『ほらほらさんといっしょ』でホラホラさんが言ってた)


(そうか……)


「治った?」


「な、何を……」


「折角待ってやったんだから……次はもうちょい早めに戦闘可能になった方がいいよ。もう、終わらせたいし。うちの人達心配するから」


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