420:死霊術

「千切れとんだ敵兵は……未だ動きを止めておりません」


 アレだけ刻まれて、生きている? 死んでいない? だと? 


 だから……死体に対して剣を……。


「敵方に……死兵を操る者がいるようです」


「……なん、だと?」


 マツドが……当たり前の様にそう言った。


「死兵を……操る?」


「死霊術という魔術があるとのことです」


 そんな術が……一度死んだ……兵が? 蘇って戦える? のか?


「西の方~帝国とかだと~結構有名な昔話で~「嘆きの王デォーラ」という物語があるんだそうですが~そこに死霊術士という天職が登場するそうです~」


「そうなの……か」


「今、見ていると……死兵はそこまで強力ではないですし~色々な枷があるようです~。けれど~一度死んだ兵が蘇る。これは戦力が二倍……よりも大きい効果でしょう~」


「バラバラにしてもくっつく」


 モリシ……が初めてしゃべった、か。


 彼女は……大概おかしい。ここに帰ってくれば……鎧も着けていない、「背の高い」ただの側仕え……にしか見えない。背負っている……凄まじく大きく分厚い両手剣をあれだけ軽々と操る戦士を初めて見た。


 というか……こうして見ると……マツド、モリシ、アーリィ。全員……身長が高い。大きいな。うらやましい。結婚ということのみを考えれば、大女というだけで敬遠されるなんて事もあるようだが……彼女達の様な凄まじい能力があれば……その大きさが丸々武器になる。特に戦場ではその膂力は……憧れでしか無い。


 ずるい……。


「それにしても……何かあると思っていましたが……死霊術ですか」


「……いくつかの~パターンの中で一番最悪です~」


 いくつか? パターン? というか、アーリィ、なぜ死霊術を知っている? お前が優秀な近衛、現場指揮官、事務官なのは知ってるが、魔術に関しては私と同じレベルの知識しか無かっただったハズだ……。


「様子を見るに……多分、今日は……これ以上攻めてくることは無いと思います。少々休憩させていただいた方がいいでしょう」


 私は頷いた。


「エルフの弓兵は城砦に待機させました。アーリィ、ここからしばらくはお任せします」


「判りました~。マツド。お任せを~」


 マツド達が出て行った。


「やつら……強い。気をつけて」


 去り際に、モリシがアーリィに声を掛けた。仲が……良いのだな。と思った。

 私も彼女とは、アーリィとは仲が良いと思っていた。近衛として一年中、長い年月一緒にいたのだ。だが、空気が……違う気がした。


「仲が……良いのだな……」


「ええ。姫様~遅れて申し訳ありませんでした……」


「いや、理由があるのだろうから、怒るも何もないのだが」


「もう少し早く駆けつけられれば~ギルドマスター御夫婦を失わずに済んだのではと~」


「ああ、それはそうなのだがな……」


 戦力として非常に重要な二人だったのは確かだ。だが……それを悔やんでも今は意味が無い。


 現場は警戒状態だが、指揮を任せ、騎士団詰め所に戻る。


「それよりも、あんな……バケモノの様な兵を相手にどうすればいいのか……」


「ええ。そうですね」


「兵糧備蓄は都市住人の分を含めて、数カ月は大丈夫ですが……」


 ディーベルスとマートマンズも一緒に、指揮所に戻ってきている。二人とも……あれだけの武威を見た後にも関わらず、顔色は良くない。


「それはこちらの騎士の数、兵数が少ないというだけだな……」


「はっ」


「それでも~姫様~。手持ちのカードでどうにかしないとなのです~。籠城は援軍が来ることを前提に戦う戦略です~。それを~待ちましょう~」


 サノブ……か。いや……。


「ノラム……は……そのサノブと一緒なのだろう?」


 ああ、私もノラムを、ノラム殿と言いそうになってなってしまった。そうか。ディーベルスもこういう感覚か。


「はい~。そうです~なので、もしも~サノブ様がカンパルラの危機に気付いたとしたら~多分、ノラムが先行して帰還するんじゃないかとか~そんな気も~」


 そうか……彼が……来てくれる……のか。


「ですがそれもこれも~希望でしか~ありません~」


「判ってる」


 敵は……五百は削れた……と思うのだが、そのうちの半分、二百五十以上が死霊術とやらで、蘇っている。


「魔族……いや、魔人はあの様な……馬鹿げた軍を構成するのが当たり前なのか?」


「そうでも~ない様ですよ~。私達も、移動中に遭遇した魔族の斥候を捕らえて尋問したのですが~この遠征軍を率いているのが~え~と~」


「ハーシャリス閥か?」


「ええ~そうです~そのハーシャリス閥という貴族の血統魔術というのが~その~死霊術なんだそうで~なので~使われる可能性があると言ってましたが~」


 そうなのか。さすがアーリィ。副官時代は捕虜尋問なども全部任せていたからな……。


「ともあれ~援軍がいつくるのか~正直目処も立っておりません~。なので、とにかく消耗しないように戦って行くしか無いでしょう~」


「ああ、そうだな……。城壁……のアレは、魔術なのか? アレはどれくらい持つのだ?」


「【結界】ですね~。我が主人、サノブ様の術ですから……かなり持つとは思うのですが~ですが~数百人規模の魔術士の一斉攻撃術を想定してるかと言うと~」


「それは想定していないだろうな……」


「それでもちゃんと耐えているのがスゴイのですけれど~」


「そうだな、サノブならそれ位は……と思えるが、過信は禁物だな」


 領主である、ディーベルスが理解しているのならいいのか。それにしてもサノブ……への信頼が厚いな……。あの側仕えの格好をした二人と、アーリィは……まあ当然とはいえ。


 というか、アーリィはいつの間に、そこまで……サノブと縁を結んだ? 我が主人と言ったぞ……。そういえば……私は姫様とは呼ばれていたが、主人なんて言われたことが無い。なんでだ? 

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