421:元から絶たなきゃダメ

 ああ……なんてことだ。正直、ちょっと甘く見ていた。


 松戸、森下、アーリィ、エルフ達……。全員、ギリギリだ。


 目視出来る位置まで来るとその疲労度が良く判る。特に松戸、森下、アーリィの三人は……敵の攻撃を一手に引き受けている。


 四肢を失ったりはしていない……が。マズイな……いつ、潰されてもおかしく無い状況のようだ。


 もう少し、一日でも早くこちら側に来れていれば……。


(ショゴス。細かい作戦はもう、ヤメだ。とにかく……このまま突っ込む。細かいコトはクソ共を蹴散らして……彼女達を下がらせてからだ)


(判った。頑張れ)


 ショゴスは思考し返事をするくらいには回復しているが、何かをやろうというのは、まだまだ厳しい様だ。仮にとはいえ、ダンジョンシステムの制御が出来ている時点で俺的にはありがたい。


(ここからだと……背後から襲いかかるか。まずは後衛を潰そう。ん? なんか、ゾンビみたいなのいるな)


(斬り刻まれ……血を失った個体が……再生して、術者の言いなりに動く様だ。命令はかなり簡単なモノしか受け付けない仕様らしい)


 思いの他苦戦しているのはそういうことか。確か死霊術だったか……その使い手がいる? 


(一度死んだ者の意志は……無いよな)


(蠢いている姿から考えて、意志や意識は死と共に失ったとみて良いだろう。純粋に戦え……止まれ程度の命令しか動けないと思う。複雑な魔術の経路を感じない)


 確かに……俺も【魔力感知】で同じ様な事は出来るが、時間がかかるし、これだけ多くの者が動いている状況で、キチンと区分けして……というのは無理だ。ショゴス……凄いな。分析者として優秀すぎだろ……。


 なので、俺が調べるよりも、聞いた方が早い。


(その使い手はどこにいる?)


(あちらの……森の中、二㎞ほど行った場所だ)


 まずはそれを潰すか。でないとキリが無い。


 森の中……若干切り拓かれた広場の様な場所に、天幕が張ってあった。その周囲はなかなか警戒が厳重だ。


「な、何者だっ!」


 ……あれ? そう言えば言葉は一緒なのか。魔人、魔族って文化交流的なものがなかったんだよな? 確か。大陸を分断されてて。

 額の目の上の左右にボタンの様な突起が二つ。これが魔族である特徴だそうだ。まあ【魔力感知】だと明らかに、違うからすぐに判るんだけどな。


 魔族は……俺がこれまで接してきた異世界の人族に比べて遥かに魔力が多い。正直、エルフ族よりも若干多いのではないだろうか? ハイエルフはもっとスゴかったらしいけど。……AIくらいしか知らないから、あまり大した事が無い印象しか持てん。


 本来なら、自分で色々と調べてそれから……にしたいところだけれど。これ、戦争みたいだしね。うちの人たちが疲れてる感じだったしね。


 まあでも……。


「この場で一番偉い人、いるよね?」


「何者だっ!」


「うーん。誰でもいいよ。まかり通るよ」


 無詠唱で「風刃乱風」を繰り出す。


「なっ! 対魔力障壁!」


 瞬時だ。さすが。戦争中。というか、さすが魔族ってことかな。魔力に対する対応が……こちらと大違いだ。


 瞬時にして、魔力による壁が構築された。ああ。こういう術もあるんだな……なんか、俺の知ってる魔術とちょっと違うな。それにしてもスゴイ練度だな。


 ああ。複数人で魔術を発動させてるのか。だから、魔術士が隊として固まってるのか。


(……明らかに別系統……別システムではないかと思う。魔力の運用が大きく異なっている。根本の所は一緒なのだが……うーん。これはなんと言えばいいのか……)


(ショゴスが迷うとか珍しいな)


(ああ、そうか。万里の従兄弟の律子さんの生んだ双子の慶太くんと湊人くんの様な感じか)


(ぷっ。なんだよそれ)


 思わず。ショゴスから伝わってきたほのぼの双子の赤ちゃん育児日記的なイメージに噴き出してしまった。


「なっ!」


 ほら。魔族の人達がいきなり笑う俺を訝しんじゃってるじゃないか。


「相手は魔術士だ! 妨害も同時に行え!」


「魔力阻害」


 俺も大概ネーミングセンスが無いと思うけど、そんな直接的な名前の……。


グッ……


 お、おう。これは……超低音の波動……の様な。内臓の底から……というか、魔力を揺らす……のか。ああ、これは確かに、魔力を整えにくい。というか、魔術が使えなくなる可能性が高いな。


 あ。でも。なんか、正直、くすぐったいな。慣れてくると……低周波治療器的な……全身を震わされている感覚というか。ある意味、魔力による痙攣による、マッサージというか。


 痒なった。


 やめやめ。


【結界】「正式」の強度を上げる。やはり、断絶できるか。


「まあ、その天幕の中だよね。うん。そりゃ」


 無詠唱で……今度は「爆裂火球」を瞬時にばら撒く。「爆裂」を強めにすると、火も飛び散るので燃え上がったりしにくいのが便利だよね。純粋にダイナマイト的な使い方が出来ると、俺に好評です。


 鼓膜が破れる勢いで凄まじい爆裂音が発生する。もうもうと煙が発生し、浅いクレーターが幾つも生じている。


「魔力障壁」……あまり効果無かったのかな? あ。いや、でも、天幕は維持されているな。あの布にもの凄い付与とかされてるのかな? スゲーな。


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