415:索敵

(ちっ)


 自らの意志でアンテナチップに魔術的なアクセスが出来ないかと……まずは魔力感知で、チップの場所を識別しようとしたのだが、あいにくそれは不可能な様だった。


 アレ、俺が作ったのにな。


 例えシロのように多数を操作できなくても、単品ならどうにかアクセスできるように設計、作成しておくべきだった。小さくするのに簡略化しちゃったんだよな。


(シロが起動していないからな……情報収集が非常に難しくなっているようだな。すまん。せめて基本的なシステムが稼働できれば……なんだ、あの小さい偵察虫に直接アクセスできたかもしれないのだが……)


 アンテナチップな。


(問題無い。ショゴスのおかげで、こうして……ここに戻って来れた。それだけで十分だ)


 俺の作った地下通路から、ディーベルス邸の隠し通路に繋がる。ここから……フジャ肉の煮込み亭にも行ける。ハルバスさんはどう考えても非戦闘員だが……うーん。どうしているか。

 兵隊への糧食を提供する調理員とか、避難所での調理……と普通に活躍している可能性が高いな。


 ディーベルス様の屋敷の書斎……っていうか執務室か。ここも、俺の工房と同じ様にもぬけの殻だった。そもそも屋敷に人の気配がない。


 まあ、自分の屋敷を司令室にはしないか。となると……ディーベルス様は領主。領主は当然……城か。


 あ。そうか。


 アンテナチップじゃなくていいじゃん……。


「拡散くん試作壱号」じゃないや。スカートリング、略して「スカート」と命名した、アンテナチップをばら撒くだけの浮遊型ゴーレムが存在する。これだ。


 というか俺が作ったその辺のゴーレムは……。


 当然の様に、【倉庫】に大量に納められていた。幾つかを引っ張り出す。だがこのままだとシロが操作することに特化しているため、俺が操作できない。


 まずは、とりあえず「スカート」を改良してしまおう。


 と、実際にやろうとしてから気がついた。


 俺は……今……魔術士だ。錬金術士ではないのだ。


 ポーション程度であればどうにかなるかもしれないが……さすがに各種ゴーレムはどうにもできない。改良程度だとしても非常に難しい。


 レベルアップのシステムもそうだが、転職システムが使えないのは厳しいな。

 

(……直接行くか)


 衣装を……替える。サノブではなく、ノラムの物にして、黒のマスクを着ける。


 工房の地下から、城壁の地下を抜けて、西の森へ通じる通路から外へ出る。


(走るぞ)


(判った)


 なんとなく、ショゴスを振り落としてしまうかもしれない……と思ったので、声を掛けた。


 ああ、サノブではなくノラムの方が絶対にいいな。もしもポーションが大量に必要な状況に直面したら、サノブで戻ってしまったら、非常に困ったことになっていた……ってアレ? 


 その辺のコト判ってるのは、シロ以外だと、森下、松戸、ディーベルス様くらいか。しかもディーベルス様は、転職などの詳細に付いては知らないハズだしって、森下松戸も詳しくは知らないか。そういえば。


 作り置きは【収納】に結構入ってるしな。


 っていうか、俺の詳細……ダンジョンシステムなんて、誰にも明かして無かったか。


 しばらく走ったその先……森の切れ目から、叫声が響いてくる。アレは……何だ?


 魔物……ではない。


 見えているのは……黒いマントを身に纏った戦士……革鎧の様な防具を身につけているが、実際には魔術士か。手には短めの錫杖の様な武器を構えている。


 それにしても、あの魔力の高さは……何だ? あそこにいる兵、ほぼ全員から、帝国の臭い炎の……七神将の一人だったか、アイツくらいの力を感じる。


 数百……いや、千はいるだろうか? それが……多分、カンパルラ側の守備隊の兵士や、冒険者と戦っている。


 よく見ると、黒いマントの縁取りやちょっとした柄が違う。前で戦っているのは、剣と盾を持っているし、後方に位置しているヤツラは、軽装だ。


 そして……多分、指揮官は……。


 ん? 一番、魔力の高いヤツが……戦場の真ん中で……絶賛戦闘中だな。指揮官は後方か。シンプルだな……。なんで兵をあんなに集中運用してるんだろうか。分散して……ああ、そうか、元々大きな規模の軍団の一部隊って感じか。


 こんな……明らかに少ない敵対戦力に対してまで、その陣形を維持して戦おうとするなんて。


 戦車なんかの車両とか、砲兵とか……近代軍隊の兵種は見当たらない。そもそも……騎兵すらいないのか。


 ん……アレは輿か。神輿の上の部分に椅子が付いているヤツ。それを運んでいるのはまあ……そうな。奴隷か。って明らかに奴隷と思われる者達……ああ。着ている物が明らかに違う。みすぼらしい貫頭衣だ。判りやすい。

 魔族以外の種族……ん? 主に人族だが、あれ、エルフとかドワーフもいるんじゃないか? 


 というか……奴隷が存在するにも関わらず、戦争は自分たちが行うのか。

 これは……馬鹿なのかな。多分、くだらないプライドとかで、ガチガチなんだろうな。


 ん……というかそんな変な軍隊に対峙しているのは……知ってるぞ、あの魔力。というか、武力。


 松戸。森下。アーリィ。現場で指揮しているのはアーリィか? そして……ああ、点在しているのは冒険者として地方に派遣していたエルフ達か。さらに、城壁にはエルフの弓兵も控えている様だ。


 ということは、マイアやハルバスさんも無事……の可能性は高いな。


 よし。


(ショゴス……うちの人達が戦ってる様だ)


(ああ。確認した。協力出来る様な力が無いのが残念だ)


(くくく。そうか。ショゴスはちゃんとしてるよな)


(そうだろうか? であれば、万里がちゃんとしていたのだと思う。私の全ては彼女で出来ているからな)


(そうか。うん)


 さてさて。とりあえず、状況は粗方判った。


 じゃあ……蹴散らそうか。


 我が家に何してくれるんや。


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