414:工房主の帰還
スマホによれば、俺がこの操作室に転移してきてから三日が経過している。とりあえず、なるべくジッとしているしかない。
とはいえ、ショゴスと話をし、エネルギー消費がほぼ無い様に、ダンジョンシステムになんとか介入出来ないかを探っている。だが、どうあっても、最初の電源がオンにならないと基礎的なシステムすら使えないということは良く判った。
が。
(いけそうだ……第一段階のOSが起動するかもしれない)
(おお……頼む)
とりあえず、ダンジョンコアは、操作室の方に持って来た。現在は、俺の作業机の上に置いてある。
既に、エネルギーはそれなりに回復している。まあ、光の量が確実に増えているのでそういうことなのだろう。
ショゴスは何度も次のシステムの起動を試みているが、未だ成功していない。起動にそれだけのエネルギーが必要で……維持するのにどれだけ必要なのだろうか?
(ちっ……ダメだ。まだ……足りないのか……)
失敗した様だ。
(現状としては、一度工房に繋がって、さらにここへ帰って来れるだけ溜まれば……って感じだな。それさえできれば、状況は把握出来るし、戻って来れれば、ダンジョンコアにエネルギーを充填出来る)
(判った。とりあえず、まずは……同世界内の【次元扉】への移動を二回分だな)
さらに一日が経過し……。
(……メインシステムの起動はまだ難しいのだが……今あるエネルギーで扉の行き先を指定できそうだ)
(本当か?)
(ああ。あの扉を移動する……次元移動ではない、同位世界内、ダンジョン内での転移による移動は、私も何度も経験しているからな。あの感じを再現出来る……と思う。さらに……一度起動出来れば、戻るのは……それまでよりも遥かに少ないエネルギーで行使可能だ。これも間違い無い)
(つまり……最初の命題だった、転移二回分は確保出来たということだな?)
(ああ、そうなる)
(よし……なら、頼む。まずは工房の地下の【次元扉】へ跳ぶぞ)
(判った)
思いながら……ドアノブを掴み、開ける。あちら側も暗闇だ。
【周辺視】が状況を報告してくる。
足を踏み出し……移動する。ここまで慎重になって扉をくぐったのは初めてだと思う。
「よし……」
思わず声が出た。ショゴスは俺の首元に……いつもの位置に移動している。
(よし)
ショゴスからも意志が伝わる。やっとだ。
ここは俺が造った地下二階。工房の地下のクローゼット&地下道への扉ターミナル部屋……の下だ。
いつも通り、「大地操作」で天井に穴を開けて、階段を作成する。慣れたもんだ。
工房……俺の部屋。執務室。窓、鎧戸は閉まっている。外は明るい……様だ。
奥の寝室。こちらも鎧戸が閉まっている。いや……空気に動きを感じない。これは……工房自体が締め切られている?
スッ……と、窓の桟を指でなぞる。うん。埃は付かない。ということは、つい最近までここは使用されていたのだろう。
鎧戸を開ける。窓ガラスなど無い。錬金術で作れるのだが、この工房だけそんなことしてたら、悪目立ちしてしょうがない。
見えないところならなんでもありなのだ。温泉や脱衣所には鏡とか、ガラスとか、サッシとかで施行しちゃってるからね……。
工房の窓から日が入ってこない。今の時間は……朝か。日の角度から考えて朝方……。
ドガッ! ゴガガガガガガ!
その開けた窓から、何かが爆発する音……と共に、激しい破壊音が飛び込んできた。
くっ。アレは……アレは。窓から見えるのは森。慌てて、鎧戸を閉める。
(村野、今のは……)
(ああ。よく知ってる。俺は今の音をよーく知ってる。というか、俺が向こうで一番奏でた音だ)
急ぎ……玄関から外へ出る。まあ、壁を抜ける必要もあるまい。朝日が降り注いでいる。よくある……この工房で良くあった光景だ。
扉の鍵を閉める。俺のカギはちゃんと、判りやすく執務室に置いてあった。
この工房からすぐの門は西門。ああ、やはり。ここには兵が配備されている。
(って……そうか……こいつはヤバいな)
(どうした?)
(俺は……どこからカンパルラに戻ってきた?)
(工房……いやそうか。異世界から帰還したというのは、現地人は誰も知らないのだな)
よかった。早めに気付いて。
急ぎ、工房に戻った。
(明らかに……平時ではない空気だったな……)
(平時?)
(ああ。戦時と平時。それにしても戦争が始まった? 王国内での内紛か? さっきの音は……都市の東側だ。つまり、敵は東から攻めて……東は深淵の森だろう? 魔物が溢れ出るっていう
このまま、カンパルラ内を彷徨い、森下や松戸、ディーベル様を探すのはとんでもなく危険だった。
現在、この城砦都市は何かと戦っているのだ。多分、各門には守備隊の兵や、冒険者も配備されているかもしれない。
そもそも、門の開閉は行われていない可能性も高い。にも関わらず「門を経由せず」にいきなり都市内に出現したら、どう考えても不審者だし、奇襲した敵兵、もしくは敵対勢力に組みしたとして、捕らえられてもおかしく無い。
慌てて、地下に入り、地下通路を歩く。まずは現状を知って、状況を整理しないとだろう。情報だ。情報が欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます