409:帰国

 後始末は。正直、興味が無かった。


 それこそ……日本政府は完全に米国の言われるがままだったようだし、米国以外の大手組織……からの防壁にもならなかった。


 当然、今回も、米国……まあ、シラザ=米軍の勢力が一気に手を引いたことで、各国……欧州、ロシア、中東、アジア各国……それこそ、東南アジア系の裏組織はこぞって手を伸ばして来た様だ。


 その数たるや、とんでもないことになったらしいんだけど。


 片矢さんによれば、倉橋さんを主軸とした新たな陰陽寮が起動することで、全てをクリアしたという。


 特に最大の障害であったシラザ、そして米軍の関与を一切排除した状態になったため、物理的な圧迫がかからなくなった。その時点で、そちらに向けていた戦力を全て、国内から「異物」を排除する作業に向けることが出来たらしい。


 物の数にも入らない状態だったそうだ。まあ、ね。そりゃそうだよね。数が減ったとはいえ、日本でなら、能力者は一騎当千だもんなぁ……。


 で。まあ、見事に、それこそ、俺がアラスカで決着を着ける以前に、倉橋さんは武力的には日本を取り戻した。そうなると、湧いてくるのが……頭の中が空っぽの平和主義者的な気狂い共だ。日本には……正直、理解出来ないくらいそっち方面で会話の成立しないヤツラが多数生息を許されているからね……。残念な事に。

 

 まあ、それこそ、余りにも五月蠅い気狂いは、物理的に排除したそうだ。うん。迅速に事を進めるにはそれしかないよね。病死、事故死……能力者の本気は、現状の世界のシステムではどうにもできない。


 結果。名前を聞けばそれなりの死体が出来上がったらしい。


 なんていう、大断行を行ったにもかかわらず……それでも、グダグダ言う者は後を絶たず。


 それだけ陰陽寮の権威というのは凄まじかったということなのだろう。

 陰陽寮も形骸化し、様々な施設も閉鎖され……実務を司る家だけが残った形となった。


 残されていたのは。


倉橋家 現存する唯一の化者派。


鴻巣家 壊滅。残されていた家の中で最大勢力を誇っていた。総領十二家時代の大家。


奉宗院ほうそういん家 壊滅。


椎堂しどう家 壊滅。


不動家 壊滅。元々数が少なく、質も低下していた。「原初の御三家」。


草薙家 壊滅。陰陽寮に分家が使われて、所属していた。今回実験材料にされたのはこの家。


光埜みつの家 壊滅。というか、全滅。今回のシラザの暴挙の元凶でもある破気弾を生み出した「気炎散弾」の猪戸、その家はこの光埜みつの家の分家となる。


 とまあ……活動出来る能力者は倉橋さんの手の者しかいなくなったと。

 米国から帰還した五十二名もいるのだが、精神的に不安定な者も多いし、さらに体力的にも現状ではリハビリ状態で使い物にはならないそうだ。

 

 これまで七つの家が微妙な対立を行いながら、牽制していた現場が一つの家の元にまとまり、振り下ろされる攻撃力が格段に上がっているにも関わらず。


 死んでから理解するタイプが多い様だった。


 が。


 陰陽寮の……元々の上の上の上。文字通り、今回「初めて」事の真相、次第を知った殿上の御方によって、全てはまとめられたという。


 倉橋さんを筆頭に新しい陰陽寮が活動を開始し、これまでのお役目を踏襲していくこととなったそうだ。当然……能力者達は化者カノモノではなく、全員が、日本国民として手続きが行われたという。


「当然ですが、御主人様の容疑も全て……撤回されました。被疑者死亡として処理されていた何もかもが」


「判った。まあ、うん、全部倉橋さんにお任せで。俺はどうでもいいよ……というかさ。片矢さん、しばらく動けないしヤバかったんじゃなかったっけ?」


 プライベートジェットで日本に戻り、迎えに来ていた車に乗り込むと……運転していたのは片矢さんだった……。


「今回は特に申し訳ありませんでした。既に体調は復活しております。能力に関しては若干不安を覚えますが、現状国内には敵らしい敵は存在しませんので……御主人様の側使えとして、車の運転等の日常のお世話をすることに問題ありません」


 ……まだなんか調子悪そうなんだけどな……。


「まあ、休めって言っても……聞いてくれなさそうだから、いいけどさ」


「はっ。申し訳ありません」


 まあ、確かに、俺が隠れていた屋敷の所在地をキチンと把握しているのは、倉橋さんと三沢さんと片矢さんの三人くらいだったしな。今後は隠れなくていいんだろうけど……。


「御自宅……に入られますか?」


「いや、いいよ。長期保存で【結界】をかけてあるからね。行った所で中には入れない。入ったら再度仕掛けるのがスゲー勿体ない。あと10年位は大丈夫なやつを施してあるもの」


 現状、自宅には、必要な荷物は何一つ残されていない。帰ったところで……なのだ。


 なので、空港から、屋敷に直行してもらう。


 実は、日本に降り立ってからずっと感じていたのだが……何かおかしい。かつて無い感覚に、何がどうなっているのか判らないが、どこか違和感が拭えない。

 

 車が、疎開先の山の中の屋敷に近づいて行けば行くほど……。その異和感は大きくなって行った。



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