406:逃走中追跡中

 米国に入国して既に一カ月程度経過した。


 米国内の軍基地に存在する、シラザの施設は尽く潰し、UNKNOWN部隊の大半を消去。既に中身の無い、文字通り、アンノウンとなってもらった。


 そして。


 シラザの本拠、ロードアイランド州ニューポート校外に辿り着いたのだが。まあ、予想通り、そこはもぬけの殻となっていた。

 価値のある情報や人的資材は何一つ残されていなかったが、米国の裏を仕切っていた大財閥によって所有されていた残骸は、非常に規模が大きかった。広大な所有地に幾つもの施設、それこそ、巨大な本家の屋敷も存在していた。


 それらは全部潰した。


 特に地下施設が多く、シェルター等の避難施設以外に、カジノなどの娯楽施設、会議室や司令所の様な会社施設も存在していた。

 核戦争いざというとき影響下用の避難所、施設として使用する予定だったのだろう。


 全部潰した。


 終わった頃には、広大な森と、点在する更地しか残っていなかった。更地部分の地下は、当然、全て、圧縮されている。ここから何かしようとするのなら、一からのスタートとなる。


「足取りは?」


「全て掴めております。が。我々……私と、私の部下の力の低下が深刻になって参りまして。ここまでローテーションでなんとか回しておりましたが、これ以上のお役目は、御主人様の足かせになるかと、三沢様に引継ぎをお願い致しました」


 そう。これが、日本の権力者達が化者カノモノを使って世界侵略を行わなかった最大の理由。さらに世界から無視されていた最大の理由でもあった。


 通常の能力者の力は、日本の台地から離れると、数日~一週間程度で低下し、それ以上滞在し続けると各種基礎能力まで低下してしまうのだ。

 研究施設で入手した各種レポートでも、この能力の低下に関する報告が非常に多かった。彼らにしてみれば、実験材料が刻一刻とその価値を低下させていくのが許せなかったのだろう。


 これのあらましは倉橋さんから聞いていたのだが、ここまで劇的だとは思わなかった。


 現状、片矢さんは、元々自分の部下だった者達以外に、三沢さんの所に居た鏑木さんの一族も取り込んで動かしている。その人達が既に、尽くリタイアしているのだ。


 それこそ、今回の騒動の大元、米国に、破気弾の技術を売り渡した「気炎散弾」の猪戸家は当主を含めて全て、日本の極秘施設で生活していたのを倉橋さんに押さえられている。それもこれも、日本にいたシラザのUNKNOWN部隊が壊滅した事から動きやすくなった結果だそうだ。


 むしろ、一カ月程度こうして俺と共に行動出来ていた片矢さんが「おかしい」らしい。彼の部下は約五日経過すると、日本に戻るシステムになっているというしね。


 とはいえ、そんな片矢さんですら、既に能力のほとんどが使えなくなっており、それこそ、俺ですら気付けないレベルの【隠形】等も見る影も無い。


 その辺のこちらの手の内、弱点はバレバレだったからこそ……なんだろうな。


 正直、建国以来、米国の裏を牛耳っていた様な大財閥、大組織を相手に、彼らの国、つまりは庭で俺が思うがままに行動出来たのも、ヤツラが油断しまくっていたのも大きい。


「裏の世界では……日本の能力者は国外での活動が不可能……という事実が非常に有名でしたから。日本が海外で非常に弱い立場にあったのはそういうワケです」


 そのため、UNKNOWN部隊は、警戒を怠り、俺に良いようにやられたということになる。


「主に化者カノモノの案件だからね……出来れば関係者でもある片矢さんに事の顛末を見ておいて欲しかっただけで。お目付役に倉橋さんを~っていうのはなんか違うからさ」


「はっ。御主人様の力を……倉橋様とはいえ、詳細を知られるのは……何かと不具合があるかと」


「そうかな?」


「はい。念には念を、で」


「判った」


「そもそも……倉橋様は日本を離れることは不可能なのですが」


「ん? 何故? ここまで好き勝手に能力者を弄ばれたんだ。自分の手でヤツラを……と思ってないのかな?」


「思っているかと。日本に送り返した仲間達の惨状を目の当たりにし、その治療に奔走されている様ですが。というか、メッセージは……毎日数件入っております」


「そか。って、あ、そうか。倉橋さんって御高齢なんだっけ?」


「はっ。まあ、年齢だけで無く……彼の方は以前から、少々無茶が過ぎております。もしも日本の地を離れ、能力が低下した場合……生命の維持が難しい状況になる可能性が」


「そか」


「じゃあ、まあ、止めを刺すのは三沢さん立ち会いって事で」


「お疲れ様です。足手まといかと思いますが……」


「そんなこと無いでしょう。もう、財閥幹部、全ての隠遁地は囲んでいるって聞いたよ?」


 これまで日本で各種情報の整理を行っていた三沢さんが、合流した。片矢さんは入替で日本に戻り……療養するそうだ。一般生活を行えるようになるまでに数週間。能力が以前と同じレベルで使える様になるまで一カ月はかかるという。


「少々無理を致しました」


「少々じゃないよね? それ」


 片矢さんは何時もの表情の乏しい涼しい顔でそう答えた。


 というか、今、ここでこうして背筋を伸ばして立っているだけで厳しいんだと思う。全身から力が抜けて……純粋に筋力などが低下してしまうんだそうだ。

 なんていうか、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を思いだすが、こちらは能力が関係しているわけで……根本的に別物なんだろうな。


 三沢さんの部下達に連れられて、片矢さんがドナドナされていった。


「では、参りましょうか……。片矢さん程上手く案内できるとは思っていませんが」


「逃がさないのが一番だよ」


「欧州に五。米国に三……最終目的地は多分、アラスカ……になるかと」


「寒いね」


「一番最後にするのですよね?」


「ああ。当主がそこに?」


「はい。現当主のリチャード・シラザがそこに。凄まじい隠蔽工作の上で造営された……地下シェルターがそこに」


「……シェルター好きだね、シラザの人。ここにも沢山あったし」


「その様です。整形して街中に紛れられた方が何かと難しかったのですがね……影武者はそうしているようですし……」

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