404:倍返しでもヌルい

 いにしえ……といかなくても、それこそ200年くらい前には世界レベルで様々な心理的、精神的な要素が科学的な分析に入り込み、人間の為すべき事、為さねばならぬ事の基準は曖昧で。人間は蛮行と言われるような愚かな行為を何度も何度も繰り返して来た。


 そして、それこそ第二次大戦の時代くらいまでは……その残滓は深く残り続け、科学的な根拠に対して、様々な神秘的な現象が食い込んでいたのは間違い無いだろう。


 まあ、だからといって許されることでは無いが、暗闇に怯え、そこにいないモノを敬う、科学的論理に発展途上な部分が合ったことは間違い無い。


 少なくとも現代よりも倫理感に対して信仰やそれに伴う妄想、妄言などが悪魔の所業を正当化させていたのではないかと思う。


 たった二千年前には「自分の妻を捧げてその肉を客人をもてなす」なんて事が物語になったりしていたのだから。……例えそれが作り話だとしても、生き物として最大の禁忌であろう、同族食いの歴史は様々な資料から分析するに事実で、完全に消す事は出来ないだろう。


 倫理感なんて、時代毎に移ろってしまうものだという事なのが良く判る。


 だが。


 論理的でなくても、生理的に許せない……生物として凄まじい嫌悪感を感じてしまうのであれば、それはもう、避けられない。


 この基地に駐屯していた兵士、それを成した研究官は狂うまで、細分化、「癒水」やポーションで治癒を繰り返した。


 ナイフを突き立てられ、刺しこまれ、動かす端から治癒していく自分の腹を強制的に見つめさせられる。


 当然強力な痛みを伴う部位を集中的に抉ったので、泣きさけび、身体中の穴から水や汚物を漏らし続けた。それらの汚物は強制的に体内に戻される。口から。

 自分でやっておいてなんだが、その辺の詳細は見るのも嫌だったので、システムを遮光遮音の【結界】「正式」で構築して、そのまま放置しただけだ。


 まあ、順番にそれを為していったら、数日で全員おかしくなったので、それまで撮影していた動画と、彼らが記録していた動画、全てを様々な動画サイトにまとめて……分類整理してアップロードする。


 動画はわざと、一見すると身元が分からないように加工し、非常に荒いCGによる修正も施した。


 現地にあったパソコンに超有名な動画作成ソフトがインストールされていたので、制作余裕でした。一時期……まあ、戦地から帰ってきて二年ほど、腫れ物扱いで、契約していた会社の販路拡張用動画を無駄に作らされていたのが役に立った。

 急ぐのなら、三沢さんの所の専門家……スーパーハッカーに任せては? ということだったが、元の映像には正直、あまり人に見せたくない映像が多々含まれていた。種族的に人間では無い俺でさえ……気持ち悪くなるのに、耐えられるのだろうか? と。ちなみに、片矢さんですら数日戻し続けて、食事を摂れなかった。


 で、そんな素人編集の動画だが。拡散は早かった。その辺はスーパーハッカーの本領発揮だったらしく、あっという間に世界に広まった、バズった、らしい。

 そして、動画にホンの少し残しておいた雑多な「事実」から、世界中の人々の様々な妄想想像が溢れ出た様だ。撮影場所である施設の片隅に描かれた型番や、文字が分析される。


 当然の様に……「それが米国で行われている、いた」という考察検証動画がアップロードされ……様々な陰謀論、現象に結びつけられていく。

 

 当初は、あまりの内容、酷さに、かなり昔の動画……過去の……それこそ大戦期の動画だと断定されかけたらしいが、素材の画素数やその制作ソフト、電子透かし、さらに丁寧に刻まれたタイムスタンプ等のおかげでここ半年以内に行われた説が確定したという。


 ここで真実の動画、ノーカット版をアップロードすれば……まあ、国家レベルに致命傷……とはいかなくても、大ダメージを与えることが可能だろう。

 

 やらんけど。


 米国には今後、おかしくなった彼らを死ぬまで面倒をみてもらわないとだしね。薬殺処分等の「投げ出し」は許さない。


 この基地を襲撃して一週間程度経過していたが、その間、何度か砲撃を含め、結構な部隊が「極秘」で攻撃を仕掛けて来ていた。


 が。当然の様に基地を覆った【結界】「正式」を傷一つ付けることが出来なかった。


 というか……大きめの砲弾等には適用されていなかったが、仕掛けて来た部隊の携帯していたアサルトライフルは破気弾を使用していたのに。

 ちょっと気合入れて生成した【結界】「正式」は傷一つ着かなかった様だ。レベルが上がって、強度が高まったのだろうか?


 まあ、仕掛けて来た部隊は尽く、「乱風」「風刃」の餌食になってもらった。超弩級の局所型タイフーンだ。ここが秘密基地で、周りが無人の荒野で良かった。


 攻め込まれてなんなんだけど、少しだけ感謝している。


 遠慮無く適当に、苛つくままに、派手にぶちかましでもしなかったら……心が折れてしまうような作業が、基地内では続いていたのだから。

 

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