403:それが何を生み出すというのか

「問題は、移動か。米国行き、飛行機面倒だなぁ」


 ハッとした顔をして、片矢さんが俺を凝視している。ん? 何かした? 俺。


「……御主人様……その、瞬間移動……とかは?」


「出来ないよ」


 注:意味【次元扉】とか魔術とか錬金を上手いこと使用すれば、似たようなことは出来るかもしれないけど面倒くさいからやらないよ。


「ですよね! ええ、そうですよね。御主人様でも無理なこと、モノはございますよね」


 片矢さんがなんか、心から安心したかの様な笑顔を見せた。なんだ。そんなにうれしいのか。俺が瞬間移動出来ないのが。

 というか、いつも表情どころか、頬を緩める事もないからなぁ。


「……なんか悔しいな……瞬間移動出来る様に頑張ろうかな」


 魔術……がんばればそのうちひょっこり覚えたりしないかしら。無理か。


「あ、いえ。そんな、少しだけ……安心しただけですので……」


「そう?」


「はい、申し訳ありません」


「……本当はさ……マースは……松山さんの追悼を兼ねて……じっくりと時間をかけて、死ぬほど反省して、死ぬほど土下座させて、私はこういう罪を犯しました、反省しておりますという動画をマスコミとか動画サイトとかに公開させてから苦しませて殺そうと思ってたんだけど」


「はい」


 ぬ。ちょっとひいてる?


「まあ、それはシラザ財閥のトップにやってもらうか」


「は、はい」


 呻き、泣き、震えていた物体が黒いシミとなっていった。かなり前から、細分化され、細かく砕かれている。


「それさ、シラザ財閥の本家? っていうか、本拠地に送り届けておいてよ」


「は?」


「え? 裏の世界じゃこういう時、「次はお前だ」ってメッセージを付けて、送るんじゃないの?」


「……映画とか漫画ではありませんので」


 なんでさ。良いじゃん。震えて眠れって感じで。


「その、これだけハデにやれば、凄まじいメッセージと言いますか、伝わると言いますか」


「そっか。箒とちり取りを探そうかと思ったのに」


 片矢さんがスマホを確認する。連絡が入ったようだ。


「三沢様が、パスポートと旅券は用意できたと」


「さすが。って判るか」


「はい。以前から用意していたようで」


「どこ?」


「羽田に、プライベートジェットが待機しております」


「豪勢だね」


「御主人様が三沢様にお渡しになったダイヤ等の宝石類。国が幾つか買える程になったらしく」


 ああ。そういえば、異世界むこうに行く前に追加で渡しておいたんだった。DPを現金に変換する。何という大規模なリアルマネートレード。


 ということで……もはやこの地に用は無い。


 帰り際。この辺り一帯、区画を隔離していた【結界】を解き、極薄な「火壁」も消す。


 後に残ったのは、特殊部隊が秘密裏に「軍から」接収し、活用していた五階建てのオフィスビル……のなれの果てだった。


 綺麗なもんだ。ビルのあった区画は丸々、コンクリートでも、アスファルトでもない、砂でも石でもない、黒く硬い凝縮した「何か」で出来た更地となっていた。


 この後、米軍だけでなく日本と米国の国家機関による徹底的な調査が行われたらしいが、この跡地の石床は満足な調査が出来なかったらしい。考え得るありとあらゆる手段でサンプル採取を行おうとしたのだが、砕くことが出来なかったそうだ。


「大地操作」でとにかく圧縮ってイメージで押しつぶしただけなんだけどね。魔術恐るべし。科学技術を簡単に凌駕してくれる。


「これって結構、良い飛行機?」


「はい。最新式というだけで、凄まじい金額になっているかと」


 実質、俺用らしいジェット機は洗練された美しさで、明らかに豪華な内装が施されていた。


 羽田に直行した俺達は、VIP待遇の最短時間手続きで専用ゲートをくぐると、即渡米。


 着いてすぐ、真っ先にカリフォルニア州の外れの米軍の秘密基地を襲撃した。


 そこはシラザ財閥が全面出資して作られた、特殊部隊の訓練施設だった。


 まあ、予想通り、そこは、能力者、化者カノモノ達の研究実験施設となっていた。


 今回のメインの敵になっているシラザ財閥直属のUNKNOWN部隊は、第XX特殊部隊グループと呼ばれている実験部隊都なのだが、通常のグリーンベレーの特殊部隊群グループは1800名だか1200名だかの兵数が割り振られているハズだ。今回、日本で駆逐した数を考えると……明らかに足りてない。


 まあ、つまりは、本隊は、本国、こちらにあったのだ。日本にいたのは一部で、この基地で訓練などを行っていたのがUNKNOWN部隊の本隊。そして、ここが拠点、ということらしかった。


「人体実験はさ、やっぱりダメだよな」


「ハッ」


 この施設に連れて来られた能力者、化者カノモノ達は約二百名。順番待ちだったようで、五体満足で救出出来たのは五十二名。


 御丁寧に、生きながら頭割られ、腹裂かれ、センサーを埋め込まれ、現在進行形で実験台に打ちつけられていたのが二十名。それ以外は分解され、標本や、実験用の触媒、菌の培養器等に使用されていた。


 さすがに……この、現代版悪魔の所業には……開いた口が塞がらなかった。


 あまり喋らないが……片矢さんが凄まじく憤っているのが判る。俺ですら抑えられない何かが溢れ出てしまっているのだ。多くの知り合い、顔見知りが犠牲となり、分解され、閲覧出来るように加工されていれば……そりゃ……ねぇ。




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