402:理解力すら無い

「なら何故ここに!」


「マジか……。これは……本当にかなりおかしくなってる感じかな?」


「そのようです。既に、こちらの意見や行動を予想出来ないのでしょう。ああいった精神構造に変質した者ならよく見ましたので」


「自分の意志で、脳がパンパンってこと?」


「はい」


「狂人相手にイチイチ理由を付けるのは面倒になってきたな……」


「はっ……」


 銃を構えるマースに向き直る。


「お前を殺す……ためにここに来たに決まっているだろう?」


「なっ! ならば! 奪い取るまで! 持って来ていないのであれば、丁度良い! 死ね」


バスバスバスバスバス! ガガガガガガガ


 これまでの破気弾とは大きく違う音が響いた。


 これは……強化版……といった所だろうか。アサルトライフルに着いている変なパーツもそうだけど、弾丸自体も……二重構造になってるのか……。


 俺の周りの【結界】「正式」はこのフロアに立ってから、常に五重に稼働している。これくらいは余裕だ。もしもビルが自壊して瓦礫がのしかかってきても、どうにか出来る様にと厚めに展開してある。


「そんなもんか?」


「なっ! 最新の破気弾が! なぜ!」


「……本質を理解していない、お前らに、俺を傷付けることは出来んよ……」


ドゴン……


 マースの口から、「はがっ!」という音が漏れ響く。大きめの「石棘」の先端を平らにして、石槌を造り、それで、思い切りヤツを殴り飛ばした。壁に、背中から叩きつけられ、一瞬、磔状態になった。


 それが落ちるのを防ぐように、【結界】「ブロック」で両手、両足を壁に縫い止め、脇の下、股の間にも支えを入れてやる。


「これは」


 自分がこれから何をされるのかが少しだけ判った様だ。


「わ、私を殺せば、エリクサーからは遠ざかるぞ! それこそ、人類の損失、人類延命の手段を一つ失うのだ。人類の叡智を自ら投げ捨てるなど、言語道断!」


「あいつ元気だな……結構派手に押しつけたのに。壁に」


「とっさに脱力……した様です。さすが長年、三沢様の元で働いていただけのことはある……といった所でしょうか」


「はやく、私に、けんきゅ……グガッ! ガガガガガガガ!!」


 まあ、とりあえず、足先……五センチ程度を「風刃」ゆっくりと削る。なんていうか、大根おろしで削るイメージ……いや、グラインダーで削るイメージで。


「痛い痛い痛い痛い!」


 五月蠅いので口を塞ぐ。完全に遮音してしまうと……音が聞こえないと加減が判らなくなりそうなので、口に【結界】「ブロック」を詰めて、呻き声は聞こえる様にする。


 結構面倒くさい。


「それで? 入手したデータから判ったのは?」


「シラザ財閥は米国、そして米軍中枢に入り込んでいます。それこそ……今回の件で各種調査のデータが上がっても、大統領に届く前に、彼らの良いようにデータが書き換えられてしまう。米国が御主人様を敵として認識しているのはそれが大きいかと」


「んじゃなに? シラザ財閥をぶっ潰せば問題は解決する?」


「根幹の解決は不可能かと思いますが……とりあえず、今回の件に関する事であれば、シラザの影響下のある……米軍関係者、私設部隊も、でしょうか」


「そもそもさ、能力者が誘拐……拉致監禁されてるの?」


「は。米国の一部基地施設に分散して……囚われている様です。これらも、この横田と同じ様に、米軍の主筋は一切知らないハズです」


 囚われてても……人としての扱いは受けてない気がする……けど。まあでも、それでも。最悪でも、安らかに眠ることが出来る様にしてあげないとだと思う。


「ムゴゴゴゴゴゴ!」


 足先が終わったので、今度は指先……両掌の中心部くらいまでを削っていく。


「なんでコイツの妄言をシラザの……誰だか知らないけど、シラザ財閥は「信じた」んだろうか」


「その辺に関しては……」


「なあ、なんで、キサマの様な気狂いの言葉をシラザのトップは受け容れて金を出した?」


「おがぁあああああ!」


「黙れ」


 手首から先を落とす。血は【結界】で止める。


「あああ、お、俺の手、手が、神の手、手が……ポーションで、ポーションで直せ! 直せるんだよな? なあ! もっガガガガガガ……」


 口を、【結界】で遮音し直す。


「……五月蠅い。ダメだな。コイツから理由は聞けそうに無いし、聞いたところで狂人の妄想でしかないだろう」


「はっ。その……シラザのトップに聞いてみるのが早いかと」


 ん? どういう意味だろう?


「正直……御主人様の御力を……見誤って……いえ、知ってはいましたし、信じておりましたが……ここまで強大にして苛烈、膨大……ええ、膨大だとは……我々と比較して、桁ハズレだとは……正直、この目で見た今ですら……未だ信じられておらず……」


「んで?」


「は、あ、いえ、申し訳ありません。その、少々……いえ、頭の悪い……脳筋能力者の様でアレなのですが……御主人様であれば、敵本拠に正面から乗り込んで、その御力で押し潰し……押さえ付けて、その口から直接聞いてしまうのが最も手早く、効果的なやり方ではないかと」


 あーまあねぇ~それは俺も思ってた。


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