401:都合の良いことだけ見えるタイプ

「今いる、ここが旧三階か」


「は。低くなりました。このフロアとこの上……の旧四階は、兵隊の宿舎兼、データ資料室の様です」


 ほら。片矢さんが俺の【気配】をすり抜けて、いつの間にか左斜め後ろに立っていた。「魔術感知」でギリギリ擦ってるから驚かないというか、動きが判るけど……。


 スゴいな。隠密行動に関してはもう、世界で誰にも……それこそ電子機器にすら、捉えられないんじゃ無いだろうか?

 俺は……既に自分がこちらの世界だとぶっ壊れた性能、チート人間、あ。いや、ハイエルフだからしょうがないのか。チートな存在なのを自覚している。じゃなきゃ、世界最大の軍に喧嘩売ろうとか思わないし。

 エリートな特殊部隊一群だろうが、化者カノモノだろうが……例え不意打ち、遠距離からの狙撃なんかでも、勝てる自信がある。それこそ……なんだっけ……衛星軌道から金属製の槍を降らせて、狙撃する神の槍だっけ? 杖だっけかな? 杖か。

 そんな質量兵器で狙われたとしても……周辺に被害は出てしまうかもしれないが、俺は生き残れるだろう。


 そんなチート野郎が一瞬でも見失う存在。片矢さんにその力を十全に発揮されて背後を取られたら……ダメージを受けたりすることもあるかもしれないな。


「……普通……基地って、兵員は住居地区に宿舎があって、あっちの方で生活するんじゃないの?」


 この基地は日本本土で最も大きい。基地施設と、兵員の居住区、商業区等が各区画毎、キチンと分かれている。それこそ、何らかの祭りを行う際には、区画毎に日本人にも開放されるそうだ。


「そうだと思いますが……ここは改装されたようで……」


「実用的……というかさ、これはマースの趣味じゃないかな。明らかに星沢警備会社イズムだよね? 三沢さんの会社社屋もこんな感じの作りだったし」


「は。……そう言われてもみれば」


 片矢さんが今気がついたという典型的な顔でこちらも見る。


「ああ、そうですね。……そういえば、三沢様の組織ではあの社屋、アレは砦をイメージしているそうです。なのであそこで兵が寝泊まりするのは当然だし、依頼人警護の最終拠点としても使用出来ると。マースはかなり昔から三沢様と行動を共にしていた様ですし……」


「そんなヤツがなんで……まあ、理由はあるんだろうけどな」


「はっ」


「俺には関係無いけどさ。で。この三階、四階は……いる? いらない?」


「……必要無いかと」


ズン……。


「あいよ」


「爆裂火球」一つ。重低音。爆発音は【結界】でイイ感じに音量を下げてある。こちら側なら鼓膜が破れることもない。


ドンドンドンドンドンドン。


 あまり派手にやると、煙が酷いことになったので、今回は、抑えめに、かつ、フロアの一切を破壊するレベルの「爆裂火球」を撃ち出し……爆発させた。


 そして、一階層、落ちる。全部が崩れてもちょっと面倒なので、抑えめに【結界】でカバーしながら。


「というかさ。指揮官に何か聞かないといけないよな。ちゃんと喋れるレベルなのかな?」


「多分ですが、ヤツは就寝中だった様で、ベッドの上にいたと思われますので……」


「ああ、そうか。天井が崩れてはいないし、天蓋付きのベッドでも無い限り、怪我している可能性は少ないか」


 さらに……同じ事をもう一回。こちらも丁寧な仕事で、上階が壊れないように抑えながら砕き……落とした。


 最上階。元五階が目の前に落ちてきた。濛々とした煙、埃が徐々に収まってくる。


 今、吹き飛んだ三階、四階は宿舎兼用だったから……ベッドも多かったはずだ。生き残っていた者も多かったろうけど……うーん。この本部に詰めている兵隊はなぁ。許せないしな……。


 元最上階、五階エリアは幾つかの会議室と指揮官の執務室。そして、生活空間となる高級マンション的な設備の部屋で構成されてた……様だ。


 まあ、もう、既に、見る影も無い。ぐちゃぐちゃだ。


「や、やはり! 死ぬわけがないと思ったんだ。あんなふざけた薬を持つ者が、簡単に、簡単に死ぬなんて。社長がDNA偽装出来る事くらいよく知ってたしな!」


 こいつ……興奮してくると、こういう、キンキンした耳障りな声になるのか。既にうぜぇ……。


「エリクサーを! いや、エリクサーの元となる、ポーションをよこせ! 私がアレを研究すれば、いつか人は死から開放される! 人間が! 偉大なる私の手で、死を超越する存在となるのだ!」


 右の瓦礫の影から……マース……が立ち上がった。隠れていたのだろう。就寝用なのかジャージ姿だ。アサルトライフル……えっとHK416を構えている。ん? さっき下の階層で見たのとは違って……なんか変なカスタマイズされてる気がするな。


「ああ、良かった。この手のクズで。欲が湧き出た所から、人格すら変化したタイプかな……」


「そうかもしれません。不老不死……の狂信ですか。我々能力者ですら、はるか昔に諦めたものを……」


「よこせ! でなければ、この新型弾丸が、お前の身体を貫く!」


「……しかし……この状況を鑑みて、未だにああいう戯言を言えるというのは……既に、まともな会話は出来ますまい」


「マース。お前のエリクサー計画はシラザの総帥も認めたという事か」


「くくく。私の偉大な計画は当然、偉大な総帥ならば、理解して当然! たった数頁のレポートで、全面的なバックアップをしてくださっている!」


「そうか。なら。責任を取ってもらうか」


「は、はやくポーションを! ポーションを!」


「馬鹿か……持って来ているわけが無いし、そもそも、なんでここまで届けなければならないんだよ。デリバリーか」


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