398:火壁

In it are they that have denied righteousness. and angels of punishment chastise them and there do they kindle upon them the fire of their torment.


義に反したのは彼らであり、罰の天使は彼らを懲らしめ、そこで彼らは彼らに苦痛の火を与える


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「聖書の……黙示録からにしておきました。下手にオリジナルではない方が良い気がしましたので。後は勝手に想像するでしょう。彼らの分析班はなにせ「優秀」ですから」


「うーい。なんでも~」


 目の前で……炎が……燃えている。


 横田基地は横田軍用飛行場に併設された米空軍と航空自衛隊が共用する空軍基地を指す。在日米軍司令部があることからも、沖縄を除くと日本最大規模となっている。


 まあ、飛行場……滑走路と管制塔などの付属施設に加えて、格納庫や倉庫……だけでなく、兵士用の住居群、娯楽施設、食堂や飲み屋等の飲食施設、運動等のトレーニング施設等、一つの街を形成していると言っていい。


 目的の「本部」は米軍が基地として接収した当時の基地建造物群の中に存在していた。


 ここに着いてすぐ、最初に、それを隔離した。既に時間は深夜だ。夜通し、徹夜で会議中……ということはほぼないだろう。


 そして……その「本部」を中心に周辺の軍事基地の色濃い地域をさらに……【結界】「正式」で囲う。民間施設などは逆側だそうだ。

 この辺りは航空機や兵器の倉庫や、軍関係の施設が中心らしい。航空自衛隊の倉庫も幾つかあるようだが……まあ、仕方ない。俺的には全部どうでも良いからな~。


 というか、こちらが本気な事を伝えるためにも……その辺の……高価な備品を判りやすく、砕かせてもらう。


 片矢さんが言った様に、人間が出入り出来る程度の穴は開けておいた。「本部」にいるヤツラ以外はさっさと出て行って欲しい。そう思ったので、おもむろに火壁を一瞬、倍の高さにした。


 ブワン! っと灯りが強烈になり、一瞬熱さも倍以上になる。


【結界】「正式」の外側に五メートル程度の「火壁」が出現している。ちなみに極薄だ。囲っているのは基地の約四分の一程度とはいえ、元々かなり広い、大きいからなぁ。一周ぐるっと「火壁」で囲うとそれなりに魔力を消費する……と思ったんだけど。そこまでじゃなかった。


「火壁」を覚えているっていうのは大きいんだろうなぁ。「火壁」だけでなく「風盾」「硬化」などを名称通りの特定の使い方をする場合、操作が軽量簡略化され、消費魔力も少なくなる。

 まあ、純粋に格段に使いやすくなる。それを利用して、見せかけだけの薄い「火壁」を超広範囲に展開したわけだ。


 俺と片矢さんは……その「火壁」の内側で、事の成り行きを見守っていた。


「関係無いヤツは……ちゃんと外に出るかな?」


「凄まじい勢いで待避行動を行っているようです。ですが、深夜でしたので、基地関係者の大半は向こう側の住宅群に居たようで」


「もっとさ、こう……なんていうか、直接的に……「火壁」の外へ退避しないと死んじゃうよ? とか言わなくて良かったの?」


「……基地というある意味、地球上で最も警戒厳重な場所が炎の壁によって分断されているわけです。異常事態、非常事態といって良いでしょう。通常であれば、米軍も自衛隊も協力し合ってこの謎現象を調査し、原因を排除しなければいけないわけです」


「そうだね。普通はそんなだよね」


「現状、彼らにとって確定しているこの炎の壁には隙間があって……侵入することは出来ないけれど、退避することだけは可能なわけで。この状況で、炎の壁の内部にいる者は緊急で全員退避、以外の命令が下せる者はいないかと」


【結界】「正式」は出たり入ったりの設定は自由に出来る。「火壁」の内側に【結界】「正式」を構築しているので、熱は一切伝わって来ない。


 外側からは既に、頻繁にちょっかいを出されて……あ。いや。調査が行われている。


 ドローンが近付いて来たので、「火壁」を伸ばして一瞬で燃え尽くしておいた。


【結界】「正式」で遮光遮音しているので、どんなにドローンを飛ばしても、【結界】内を伺うことは不可能だ。


「さーてと。行こうか」


「はっ」


 おもむろに「本部」へ向かう。一番最初に「隔離」したからか、既に一騒動起こった後だからか。中のヤツラは冷静な様だ。うん。明らかに待ち構えてるね。


 片矢さんには適当に付いてきてもらうことにして、「本部」建物の正面玄関から、乗り込んでいく。


 両開きのドアを開けて、中に入る。ドア正面奥にソファやテーブルなどで構築した、簡易型のバリケードが築かれている。アレだね。ゾンビからショッピングモールを死守するために緊急で積み上げたんだね。


 と……。


ガガガガガガガガガガガガガガガッ!


 視線をそちらに向けたと同時に、凄まじい音が響き、軽機関銃の弾丸がばら撒かれる。というか、こんな近距離、しかも室内で撃つもんじゃないだろ、それ。跳弾がとんでもないことになってるし……あ。味方に被害出ただろ、今。

 

 バリケードの奥に流れた跳弾が、ヤツラの一人を削ったようだ。

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