397:次、行ってみよう

「ま、マース様……は、ほ、本部に定期報告をし、に……」


 目の前の……屈強な男がそう答えた。


「状況判断が遅い。無理だと思ったら即、喋ればよかったのに」


「な、なら、これを解いて……」


「まあ、みんなと一緒で死ぬんだけどね」


 絶望という顔。既に……彼の同僚は全員命を落としている。


「片矢さん、この場合本部っていうのは、基地?」


「はい。横田基地の、UNKNOWN部隊が本拠に使っている建物を指しているかと思われます」


「うーい。んじゃ……」


【微塵改】で粉々に砕く。そして、【結界】「正式」を解除する。


ズバジャ……


 非常に細かい砂のような何かが……液体の様になって床に落ちた。細かくするとこんな感じになるんだな……。明るい所で、こんな風に注視したことが無かったから判らなかった。


 あ。電源を潰したので、当然ビルは完全停電状態のままだ。灯りは、魔道具を使用している。

 アンテナチップのノウハウを生かした自走追尾式で、俺の周囲を明るく照らしている。自分用に創ったので非常に高性能だ。

 まあ、こんなの……使ってダンジョン攻略とかしていたら、目立って敵に狙われ放題なんだが、便利だから仕方ない。ぶっちゃけ【気配】に「魔力感知」【周辺視】もあるから、大丈夫だしね。


 そもそも、いま現在、このフロアは俺の【結界】「正式」で囲われている。遮光遮音も完璧なので中の様子が外に漏れることは無い。


「片矢さん……今。俺は五名殺したよな?」


「ええ」


「なのに……何も心が動かないんだ。人として……終わってしまったということなんだろうか?」


「いえ。大丈夫です。御主人様。「私」も既にこの程度では心は何一つ動きません。御主人様はヤツラを拘束し、一応尋問してから……自らの罪を告白させて、確認してから息の根を止めてます。正直、それがここまで……心の負担を軽くするものだとは思いませんでした。あ。いえ、私の為にやって下さっているのでしたら……申し訳ありません。感謝いたします。私だけならこうはいきません。問答無用で息の根を止めていたでしょうから」


 まあ、半分くらいは俺自身のためだけどね。片矢さんがこの場にいるので気を使ったのも確かだ。


 こちらの世界で……本気の俺を誰かに見られるのはこれが始めてだ。なんとなく……ドンびきされたら悲しいなと思ったというか。


「これが真の強者の余裕というものかと……嘘か誠か判りませんが、ヤツラの最後の告白があれば……余計な思いを抱え込まなくて済みます」


「ならよかった」


 五名、マースの部下でさらに多くの人を殺してきた戦争屋を細かく砕いた。拘束した後……ヤツラに「これまでで最大の自分の罪」を告白させた。


 酷い話だった。


 スマホが世界に普及した現代。最近の戦争では、非常に目立たなくなって来ている。だが、一昔前。十年ちょい前の紛争等では確実に、当たり前の様に戦場での略奪行為、強姦などの暴力行為は「当たり前」の様に行われていた。

 

 まあ、俺自身、自分の目で見たのだから事実だ。他国間の戦争よりも、民族紛争、宗教紛争の方が、その傾向が強いというのもその時聞いた。

 逃げ惑う市民、それを遊びのように拳銃で撃ち殺す兵士。女とみれば足を撃ち抜いて、動けなくして犯す……なんていう事も当たり前の様に行われていた。

 

 それをまとめて、圧縮して、煮詰めて、豪華版にしたかのような話が、五人の口から語られた。一人は数え切れない子供を……と言い出した時点で、つい、右腕を砕いてしまった。


「データは?」


「大したものはございませんでした。多分、本拠はここではなく……文字通り「本部」なのでしょう。極秘事項を隠すのなら。世界最強軍の基地内……それ以上はないですし」


「んじゃ……ここまでは誤魔化してきたけどさ。ちょっと派手に行こうか」


「……は、派手に……でしょうか。あの……その、御主人様の……その……ちょっと……というのがどの程度の……なのか……その……」


「いやさ~もう、シラザは潰すじゃない? その場合、米国も敵になるみたいだしさ。アレでしょ? 一見無関係だけどさ、俺が知ってる巨大財閥、全部手を組んでるわけでしょ?」


「……それは、はい。今回特にシラザが素早く動いたため、他財閥は絶賛観察中ですが……もしも何らかの成功を収めようものなら、確実にその利権に群がってくることでしょう。万が一にも……抑止しようなんていう動きは無いかと」


「だからさ。そんな尊大な彼らに……見せつけてやろうかと思って」


「……お聞きしてよろしいでしょうか?」


「何?」


「警告は……してもよろしいでしょうか?」


「どういうこと?」


「……これから……その……ここにいたら神の鉄槌が振り下ろされるぞ……的な……その……」


「俺、恐怖の大王?」


 というか、災害レベル……か。派手にやると。


「……」


「こいつらの本部を……押さえてからならいいよ」


「はっ」


「でもさ、米軍基地……まあ、軍隊なんだからさ……死んでも仕方なくないかな? 兵士は」


「はい。その通りです。ですが……基地内の……UNKNOWN部隊に属していない、シラザ関係者でない兵士に、天変地異に正面から立ち向かえというのは……。それでも仕掛けてきた者に関しては、一切の遠慮はいらないと思いますが」


 まあ、うん、三沢さんならちょっと甘い……となるかもだけど、片矢さんがそう言うのなら……多分、そうなんだろう。


「判った。そうだな……炎の壁……かな……基地のフェンスの内側、囲うように……高さ30メートルくらいの炎の壁を発生させようか」


「ほ、本当に、そんなことが……?」


「うん、だから、それを確認したら、退避勧告だろうね」


「その……逃げ場は……」


「正面玄関……いや、正門? は火が回らないようにすればいいでしょ?」


「はっ」

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