396:オフィス&商業施設複合型高層ビル

 スマホの地図アプリの指定された場所は丸の内の……高層オフィスビル。結構どころか、かなり有名なオシャレビルだった。なんとなく名前を聞いたことがあると思ったワケだ。


 オランス総合商事は二十七フロア。独占。毎月の賃借料、スゴイ高いだろうに。


「あの医者……マースだっけ。が、あそこを?」


「はっ。UNKNOWN部隊の一部を私兵として、ボディガードにし、共に寝起きしている様です。さらに数人……化者カノモノ……我々の良く知る者達もそこに」


「オフィスビルで居住ってさ……面倒なんじゃ無い? 逆に」


「それらの設備を設置した様で……三沢様に確認してもらったところ、警護という事を考えると、かなり有用だそうです。あのビル、様々なオフィスや商店が入居しておりまして、「関係の無い一般人」が24時間入れ替わり立ち替わりで働いているようです。人目が多ければ狙われる可能性も下がる……とでも思っているのでしょうか」


 まあ、そうかもね……しかしオフィスビルで……水回りの改造とかとんでもなくお金掛かるのに。


「それだけの資金を引き出している……ということか。陰陽寮とかが溜込んでた資金は接収してるだろうけどさ。そんな大した事無いよね、多分。にも拘らず、シラザ財閥は、未だに活動資金から、権力の行使まで……融通を効かせている」


「はい……」


「その理由は?」


「申し訳ございません。さすがに日本を離れて活動するには人手不足でして……詳細のほどは……」


 まあ、そりゃそうか。片矢さんに甘えすぎだよな。


 異世界に夢中で投げ出したのは自分なのだ。


「んじゃ、ここにマースはいるの? 現在の所在は?」


「それも、申し訳ございません。私が……御主人様の御帰還に馳せ参じてしまっていた関係で、少々……監視順位の命令伝達に齟齬が生じてしまいまして……。私の不手際でございます」


 ああ、そんな頭を下げなくていいから。


「前触れもなく、いきなり戻ってきて色々と頼んでいるのは俺なんだからさ。事前に先回りして色々と調べてくれてあっただけでもありがたいよ。だから、不手際とか考えなくていい」


 見上げるビルは……多分、五十階程度はあるだろう。高層ビルだ。


「直接聞けばいいか」


 既に時間は21時。三沢さんの会社に長居してしまった。特に若島さんが何故か離してくれなかったのだ。ここまで接触欲求の大きかった娘だったろうか。


 面倒なので……このビルへの電源供給元、予備電源としての自家発電装置、それらからの主電源供給ラインの存在する地下施設部分を【結界】「正式」で隔離し……これまでに何度か使用している「乱風」「風刃」の発展系、「微塵改」を発動させて、細かく砕いてしまう。

 主電源への電力供給ケーブル……らしき部分はコンクリートの先まで抉って、そこを「大地操作」で埋めて硬化させてしまった。


【結界】を解除すると、さらさらと、粉々になった施設機器が床に積もった。


「正式」で隔離した時点で、既に電源供給は止まっている。誰かがスマホで管理会社に連絡をし、修理担当者が緊急で向かってきたとしても、電源供給機器、施設自体が無くなってしまっていたら、しばらくは何も出来ない。近隣……にあるか判らないが、電気会社の施設から直接電気を供給しようとしても、接続するべき接続先……は既に「粉」だ。


 幾ら日本の工事関係者が優秀でも、一カ月以上は復旧不可能だろう。まあ、念のためだ。折角電気を含めたライフラインを止めたのに、即復旧されてしまっては残念だからね。


 まあ、ここまで電気の切断に気を使う理由は、ビル内のあらゆる場所に配置されているであろう監視カメラなどの映像に俺の姿を残さないためだ。


 最近の高層ビルの例に漏れず、このビルも、ビル建物自体の周囲は緑地帯、公園などが設置されている。周辺ビルなどから撮影している監視カメラもアルかもだけど、それは以前よりも強化された【隠形】でどうにか出来るハズだ。


 なんていうか、覚えた当初の【隠形】は自分の姿を、気配をぼかすだけだったんだと思う。なので、電子機器、カメラには丸写りだったのが……いまや、物理的、光学的にぼやけて見えるところまで来ている。

 つまり、人間の目のみを誤魔化していたのが、今や、機械すら誤魔化すことも可能になっているのだ。


 とはいえ……それこそ、能力のある人間が見れば、映像に若干の乱れ、歪みが生じていることに気付いてしまうだろう。


 念には念を入れて。


 なんてったって、これから戦う相手は、世界最大の暴力を所持する組織なのだから。


 電源切断直後に、対象の二十七階層……いや、フロアか。ダンジョン癖が抜けん……を、【結界】「正式」で隔離する。


 まあもう夜だしな。普通にあそこに居るのは「住んでいる」ヤツラだけだろう。


 ……五名……か。


「あのフロアに居るの、五人だけだね……マースは居ないかな。今日はここに」


「五名……ですか。はい。マースの護衛や取り巻きは常に、二十名弱居りましたので。その五名が小隊単位で交代要員かと思われます」


「最低限の情報は得られそうかな~」



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