394:敵対

「それが……財閥の……いや、マースの私兵として動いている……と?」


 三沢さんの顔色が再度……悪くなった。まあ、そうだよね。彼は世界最大の……軍の表も裏も知り尽くしている。


 戦争は物量だ。


 個人間、複数人の喧嘩、私闘、決闘は、まあ、別だ。


 だが三桁人数以上の……村同士、町同士レベルの……諍いが発生した場合、それが暴力を伴った闘争に移行した時点で、動かす事のできる兵力兵站の総量で全てが決定する。


 三沢さんは、無視、共闘はあっても……全面的な敵対だけは……避けたいはずだ。


「ひ、非常にイレギュラーです。元々……シラザ財閥の新兵器開発の実験部隊として動いていたPMC(民間軍事会社)を丸々組み込んだのでは無いかと。海外……特に日本で動くには、民間よりも、国所属の方が様々な手続きで安易との判断だと思うのですが」


 そりゃそうか。拳銃一丁持ち込むにしても、民間じゃ面倒だからな。日本は。その辺、一般人の銃所持が厳しい国だからこそ、か。ある意味理に適っている。既に存在するPMCを丸ごと米軍の秘密部隊に組み込んで、世界を移動する際には米軍の輸送能力を利用する。


「さらに国として圧力もかけやすいと」


「はい」


「……じゃあ何、米国は完全に敵と判断して良いのかな?」


「少なくとも、シラザ直属の部隊や……シラザの息の掛かった軍人は敵という判断で間違い無いと思われます。そして……少なくとも現大統領を含め、米国の首脳陣は……その許可を出しています」


「了解」


「さらに、南米の国々も……ほとんど押さえられているかと」


「判った」


 ああ。絶望っていう顔だ。大丈夫。全面戦争する……とは言ってないじゃん。


「大丈夫。米国大陸の住人を全消去……とかしないよ」


「……」


 いやいや。本当にしないよ? そんな面倒くさい。


「しかし三沢さん……の会社でも厳しいか。 米軍内部の情報は……片矢さん、判る?」


「はっ」


 スッ……まさに忍者が如く。沸き上がるように、いつの間にか俺の後ろに立つ片矢さん。さっきまで右手側前方に立っていたのに。


 まあ、多分、彼がどうやって移動しているのか……理解できているのは俺だけか。もの凄く能力が上がっていると思う。倉橋さんも、もう無理だろうな。


「横田基地の……そのUNKNOWN部隊の拠点の所在は?」


「そちらのアプリで……」


 お、おう。調査済みなのね。さすが。というか、米軍基地内の情報をよく入手出来たな……。


「やっぱり! やっぱりそうだった!」

 

 声が。聞こえた。


 いきなり突っ込んで来たのは……三人娘のうちの一人。若島桐子さんだ。後ろに最上美南さんか。【気配】で判っていたが、まあ、避ける事は出来ないよな……と、放置していたのだ。


 ボディガードらしき三沢さんの部下も数名一緒だ。


 若島さんは出会い頭にハグしたまま、俺から離れない。その力の入り方は、戦場で見た親子の再会を思い出させる。


 どうにも振り払えない……。


「それにしても何故、ここへ?」


 周りを見るが……彼らが俺の事を、特に彼女達に漏らすとは思えない。


「村野さんが亡くなったと聞いた頃、私たちは身の危険を避けるため、ホテル住まいでした! 気持ちも落ちてたし、本も映画も飽きて、他にすることも無く……そんな時、何となく、判ったんです。私には多少、不思議な力があるのだと。なのでもう村野さんがいない……という事も分かりました。気配が無かったので」


 どういう能力なんだ? 距離とか関係無く気配を感じるとか……気配と言ってるけど【気配】とは別物だろうな。


「ああ、すまない。どうしても行方をくらます必要があったんだ」


「そもそもの発端は私たちが襲われたせいなのでは……」


 最上さんも付いてきている。


「それは違う。あの時はもう、事態は一個人レベルの話じゃ無くなってね。どうしようもなかったんだ」


「そうなの……ですね」


「あの、確認だけ。村野さんは無差別殺人テロの犯人……ではないですよね?」


「ああ」


 無差別でテロではない。本当だ。


「松山さんの件は……申し訳なく思っている。最終的に巻き込んでしまって」


「いえ、あんな形で護衛を付けるなんて、手間とお金がどれだけかかるか……三沢さんや倉橋さんには感謝しかありません」


「先輩は……護衛され、行動を阻害されることでイロイロとストレスがたまっていたみたいで……その……襲撃された時も、もの凄く強引に買い物に出てしまって」


 三人は、定期的に拠点を変更し、現在はマンションで共同生活をしていたそうだ。


 元々は俺が死亡し、しばらくすれば、彼女達が狙われる事は無くなるハズだった。関係性的にはそんなレベルだったのだから、その予想は間違っていない。


 正直、俺もそう思っていた。だから放置してしまった。


 俺=回復薬を作ることの出来る能力者、化者カノモノは死んだのだ。諸外国の調査員にはそういう結論が広まった……ハズだ。


 偽装は完璧だったと聞いた。片矢さんが言うのだからそうなのだろう。


 あらゆる手がかりなども、俺の研究所ごと吹っ飛んだ……となった。あそこに手掛かりは残っていなかった。念のため、俺も自分の能力で確認したから間違いない。


 だが、様々な組織、まあ、当時は判明していなかったが、特にシラザ財閥の関係組織は執拗に関係者、特に彼女達をつけ回し、チャンスがあれば拉致監禁を試みてきたという。


 護衛の方針、手段、期間、場所。全てにおいてその場その場で判断に迫られた事だろう。


 さっきはちょっと言い過ぎたかもしれんと反省した。




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