391:達磨落とし

「う、動けねぇ……」


「なんだこれは……」


 うん、まあ、もういいや。


 ……右脚。


「ぐぎゃあああ!」


「ががががが!」


 もの凄い音量で……一斉に呻き声、叫び声が上がる。


 赤髪とハゲは……何もしていない。拘束のみだ。


 首を回すことも出来ないから、赤髪は自分の手下がどうなってるかは判らない。

 が、オッサン達の右脚が……ブロックを引き合わせることで、太腿の先が全部潰れて赤い塊になったのが見えているだろう。


 ハゲは後ろから、見えているハズだ。


 ……左腕。


グショ


 押し潰されて弾け飛ぶ左腕。一斉に。なんていうか……ここまで同時だとそれなりに綺麗というか、シンクロ演技というか俺がやってるというか。


 汚い……叫び声が場を埋め尽くす中、訳がわからないなりに立ち直った様だ。


「てめぇ……何者だ?」


「……これは……お前が?」


 赤髪とハゲ。二人が……自分たちだけが何もされていないことを理解して……探るように話しかけてくる。

 当然、顔は俺の方を向けることが出来ないので、目線だけだ。どうにかして俺を認識しようと必死なんだろうけど……まあ、【隠形】は効いているのでハッキリとは判らないハズだ。別に……ここで隠すつもありはないけどさ。


 牧野興産ビルに乗り込んだときと同じ様に、携帯の電波、各種防犯カメラ、電話、WIFI等の導線は切断してある。繋がってるのは外部からのLAN回線のみだ。ああ、俺が動きやすいように、照明や各種電源も生かしてあるか。

 幸い、あのビルより小さいので、雇われの警備員もいないようだ。というか、今日は特別なのかもしれない。下の雑魚共を、できるだけ誰にも見つからないように連れ込まないといけなかったわけで。


「……お前……村野……か?」


「村野だと?!


 おお。赤髪。さすが下剋上をやらかそうとしてるだけのことはある。


【結界】「ブロック」の……音を遮断する。叫び声、呻き声が一斉にミュートされた。


「銀座の襲撃&爆破事件。お前達の仕業だよな?」


 赤髪とハゲ……両方に反応があった。まあ、そうだよな。片矢さん、三沢さんの情報が間違いで在るはずが無い。


「郭! キサマのせいで!」


「うるせぇ! てめえら老害が仕切ってたんじゃ、牙頭ファントウはデカくなれねぇんだよ!」


 赤髪が叫んだ。郭は「ぐおぅ」って読むのな。【言語理解】が無ければ漢字に結びつかないな……。多分。


「ああ、そういうのはいい。ということで、松山詩織さんが死んだのはお前達の仕業ということでいいな?」


「わ、我々は、ら……身柄を……殺さずに拘束しろと言われただけだ。それをコイツが……」


 ハゲは保身に走った様だ。まあ、傷付けるつもりは無かったとはいえ、強引に拉致する気満々だったろうし。罪が軽減されるわけが無いんだけどな。


「誰に言われ……依頼された」


「……」


ギシャ


 全員の……手首から先……を潰す。


 そして。赤髪とハゲも痛みを感じてもらった方が良いだろう。


「「ギヤッ! ぐはっ!」」


 二人の足の先端……指の辺りを……潰した。


「次は指が潰れる。依頼主は誰だ」


「……」

 

 ハゲは汗ダラダラで堪えている。赤髪は……ヤラレ慣れてないな、こいつ。


「……大佐……とだけ名乗っていた。西洋人……だ。大陸で接触してきた……らしい」


「大佐。名は?」


「し、しらん……資金と武器を渡され、東を自分たちの縄張りにしたいと思わないか……と持ちかけられた」


 ハゲも告白した。


 二人とも……足の指が無くなったくらいで、情けねぇな。


「そいつの正体は?」


「……当然……調査したが、何一つ得られる者が無かった……」


「ちっ……な、情けねぇな」


 大佐か。西洋人。中国……ではないな。普通に考えて米国……いや、欧州ってことも有り得る。


「そもそも、お前らが火薬など持ち込まなければ! あんなことには……」


「うるせぇよ。良いように阻止されてたじゃネェか! あの日の襲撃だって、俺が強引に火薬を投げ込まなかったら、これまで通りにやられて終了だ」


「あんな、無差別は全部を敵に回す!」


「黙れ……」


 魔力を伝播させる。押さえ付けるように。【結界】「ブロック」で囲まれているとはいえ、その中にまで届くように……調節する。それにしてもこっちの世界は魔力が薄い。


「お前らの……いらない勢力争い……内部抗争で……彼女が死んだという事は良く判った。ということで、判ったよ」


 スマホが……震えた。


「データ抽出完了」


 メッセージアプリに三沢さんから一言。これは、このビルの……データベースというか、パソコンにハッキングしてデータの確保が完了したということだ。どうせ大した情報はないだろうけどな。今までのの物言いじゃ。


「まあ、もういい。潰していくか。全部」


 まずは……地下を潰す。


 かなりの数の……赤髪の配下が居たようだが、お構いなしに潰した。その下を……「大地操作」で大きく深く抉り……そこに、潰した諸々を落とし込む。


 このビルの地下には地下通路とか、地下鉄とかは配置されたりはしていない様だ。


 配管関係も一気に切断する。照明が消えた。


「!」


 ゴゴゴゴゴゴ……震動と地鳴りと共に……階層毎に……沈んでいく。倒れたりしないように……ゆっくりと……まずは地下を掘り下げて、そこにこのビルを落とし込む。そして落とし込んだ階層から【結界】で囲んで潰して行く。


 音は外に漏れていない……と思う。震動はどうなんだろうな。結構揺れてる気がするけど。


 これを繰り返し……手順を間違わなければ……このビルは跡形も無くなり、あっという間に、綺麗な更地になるはずだ。


「あ……あああああ……」


 ハゲが何かワケの判らない声を上げた。


「な、なあ、俺を使わないか? そ、それなりに役に立つぞ」


 ……完全に【結界】に抑え込まれていてよく偉そうな事を言える。


「ああ。赤髪……は特に、念入りに刻んでいこうと思う」


「な! なぜ」


「なぜ? お前、俺がなんでここに居ると思っている?」


 なんだ、こいつ……本当に判っていなかったのか? 馬鹿なんだな。


「お前の持ち込んだ爆発物で亡くなった松山詩織さんのためだ。オマエらは……彼女一人のために全滅する」


「なっ!」


「そんな馬鹿な!」


「安心していいぞ。お前らは既に崩れ始めてる。時間を掛けて削ってやるから」


 赤髪には……既に……「風刃」で削り始めている。既に潰れている足先からなので、まだ気付けていなかっただけだ。


「う、うう……」


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