390:またもビル
アプリに従って……移動し、ビルの側に移動すると、面している国道から少し離れた場所に白いワンボックスカーが止まっているのに気がついた。
アプリに表示されている矢印が指し示しているのは、その車だ。
いきなり、ドアを開けた。
「!」
さすがプロ。声を上げる者は居なかった。が、戦闘警戒して構える所までは行かなかったようだ。
「む、村野……様……?」
ワンボックスカーに乗っていたのは三人。誰もが戦士の目をしている。ああ、確か……えーっと。ヤガンさん……だったか。
「アイさんは元気?」
「は、ははっ! 元気であります」
いや、そんないきなり敬礼とかしなくていいから。威圧……魔力による威圧だと思うんだけど、そんなに漏れてないと思うんだけどな。三沢さんの所へ行った時より、かなり押さえてるし。
「あの、斜め後ろの青いビル。間違いない?」
「は、はい。出入りは裏口からしているようで、正面は閉鎖されてます。そ、そちらも、監視はしていますので、現在、ビルには約、186人程度……」
「判った。まあ、監視を続けて」
「あ、ああ、む、むら……」
ドアを閉める。外装が青いビルの横。一気に距離を詰めると、「大地操作」で斜め下に穴を空ける。コンクリートもお構いなしで、地下の……ボイラー室に降り立った。
牧野興産よりはかなり小さめの雑居ビルだ。最初の……チンピラが占拠してたビルよりは大きいか。
空いた穴は一応土で埋めておく。
お。【気配】と「魔力感知」の合わせ技に、様々な反応が表示される。
雑魚が地下……か。で、幹部は上、と。一緒だよな。大抵。
まあ、取りあえず、いま、集まっている奴らは逃がさない。
何か思ったよりも大人数が地下に居る気がするけど……「正式」で隔離する。地下を隔離。
上も。地上階を、地下と同じ様に隔離する。多分このビル以外にも、まだ、関係者がいるだろうけど。取りあえず。取りあえずだ。
エレベーターで、気配のある六階まで上がった。
「いい加減にしろよ。おっさん、今日から牙頭は俺が仕切る」
「何をふざけたこ」
タンッ
エレベーターホールからオフィスっぽい部屋に出るドアの前で、強い口調での怒鳴り合いが聞こえてきた。そして、さらに……乾いた音が響いた。
ああ、そうか。異和感があったのは。
俺が理解し、しゃべれるのは、日本語、英語。大体判って片言で意思疎通できるのが、アラビア語、ロシア語位だった。
奴らは中国語……広東語か北京語かわからないが、で話している。なのに、俺が理解出来ているのは【言語理解】のおかげか。
つまり、俺は今後、言葉で困ることはないのだな。スキル便利だな。ちくしょう。
「きさまーっ」
タンッタタンタンッ
リズミカルに、拳銃を撃つ音が響く。このビルは九階まであるのだが、この六階にほとんどの人が集まっている。七、八、九階にいるのは数名。あ。逃げようとしてるのか? どういうじょ……。
「ああ? 何言ってんだ? さっさと上がってこい! 薬のやり過ぎだ!」
ん? ああ、下のヤツラと話してるのか。そうか……意識したことなかったけど、電波って遮断出来ないのかな? っていうか、出来るよな? うん。外部に連絡されると面倒だから遮断しておこう。
タン! タタタン! タン!
あ。銃撃戦が始まっちゃった。いいから。そういうの。内輪揉め……まあ、組織内抗争って感じかな。
これか。三沢さんたちが……彼女を守り切れなかった要素は……これか。こいつらの……こいつらのプライドとか、執着心とか、金銭欲とか、欲望の塊が。
「まったくくだらない。くだらない。くだらない」
銃撃戦の……騒音の隙間に……比較的大きな声を挟み込む。
「そんな。そんなことのために」
「なんだ、キサマ!」
「彼女は。彼女は」
タン!
ああ、目の前に……赤い髪の男が……アイツが反乱軍の頭か。で、それと対峙して、事務机の影にしゃがんでいるのが旧来の勢力だろう。……オッサンばかりだ。
赤髪の方は……四人か? オッサン勢力は七~八人いるけれど、拳銃を持っていないのもいる。隠れているだけだ。
「い、いま弾が……」
ああ、そういうのもどうでもいい。とりあえず、赤髪……か。そして、オッサン勢は……奥で拳銃を撃っているハゲ……でいいか。まあ、こちら勢のトップはさっき逃げようとしてたヤツだろうけど。
【結界】「ブロック」で……拘束する。十二名……を透明のブロックで包み込んだ。以前の様に冷蔵庫の様な長方体の箱で、ではなく……頭、腕、胴、脚……部位毎に囲んだ。
成長してるんだけどな……でもな……確かにな。こちらの世界全般のこと、特に関係のあった人達の事を……常に考えていたかと言われると痛い。
よく考えてみれば、こっちの世界のことは全部……三沢さんや倉橋さんに丸投げしたっきりだったもんな……。まあ、表向き死んじゃった以上、出歩けなかったっていう理由はあるけれど。
そんなの、俺が自分で「行く」と行動していれば、どうにでもなったはずだ。今ココに居るしな。
牧野興産の後始末に始まり、陰陽寮との小競り合い。美香……時詠みの巫を奪取した時にそのまま綺麗に消してしまおうと思ったけれど、無難に収めたいと言われて……というか、あの時全部やっちゃえば……海外勢力の介入もここまでではなく、こんなことにはならなかったのか。彼女は死ななかったのか。
決断……ミスか。
そもそも、三人娘からの好意に気付いていたにも関わらず、いまいち盛り上がれなかった、俺の性格的な問題か、種族的な問題か。
結局は結果だ。生死に関しては……結果が全てだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます