389:緊急帰郷

 いつの間にか。屋敷の執務室に帰還してた。シロの言ってた事も……細かい所はあまり覚えてない。


「御主人様……」


 目の前に顔色の悪い、美香が……立っている。


「詳しい状況を」


「は、はっ……事件は今から5時間前の……午後1時に発生しました。犯人……襲撃者と思える者は……身元不明の外国籍。どのような因果、どのような経緯、理由があったかは現在捜査中ですが、結果として、銀座のブランドショップの店頭で爆発が発生しました。その爆発での死亡者は12名。重症者5名。軽傷者は50名を超える様です」


「その……死亡者の中に、松山さんが?」


「はい……一般的にこの事件は「大規模無差別爆破テロ事件」と発表されていますが、我々の調査によると……松山詩織さん襲撃事件と確信しております。護衛として付いていた星沢警備会社の者、二名が爆発ではなく、真っ先に「殺されて」おりますので」


「敵は……そんなことをして何がしたかった?」


「……これは当主からの伝言となります。敵は松山さんを誘拐、拉致監禁して情報を得ようとしていた可能性が高い様です。その際に……何らかの横槍……組織内でのパワーバランスの崩壊、陰謀、暴走、さらに重大なミスがあったのではないか……と」


 片矢さんからの報告……か。なら、まあ、そうなんだろう。それこそ、爆発した……という部分は下手したら事故かもしれない。


 だが、問題はそこに爆弾を持ち込んでいた事実だ。


 彼女たちには……一度の襲撃であれば確実に防ぐことができるアイテムを渡してあった。


 つまりは。


 松山詩織さんが死亡したということは。


 二度殺された……ということになる。


 一度派手に襲われ……それを防いだ後に……大規模な爆発に巻き込まれたと考えるのが順当な所だろう。


「そうか」


「御主人……様……あの……」


 ん? まあ、そんなに怯えなくて良いと思うよ。美香。君は……敵じゃない。


「あ、あの、み、三沢様と、倉橋様……が、その……こちらに伺いたいと……」


「いやぁ。いいよ。こちらから行くよ。ここまで大規模に……ここまで「命」というこれ以上のない代償を支払ってまでお誘いいただけたんだ。それ相応のお返しをしなくちゃいけないからね」


「あ……ぁ……」


 美香が……既に漏らしていたのであろう、床に水溜まりが出来ている……のの上に、糸が切れるかのように倒れ込んだ。


 まあ、うん、彼女の面倒は側用人の……ってドアの所で二人とも倒れている。こちらもオンザ水たまりだ。


「御……主人、様……その……これは……」


 まあ、姪っ子がオシッコ漏らしてその上に倒れてたらビビるか。側用人の二人も同じ感じだしね。


「ああ、片矢さん。良いところに帰ってきた。最新情報は?」


「現状、未だ……前もって美香に伝えておいた情報が最新となります」


「なら確認だ。松山詩織さんは……亡くなった。しかも爆弾による爆破で。遺体の損傷度……は?」


「か、彼女は爆弾の比較的近くにいた……らしく、五体が吹き飛び……各所が千切れ……バラバラの状態で発見されました。それは……私が確認いたし……ま……し……」


 そうか。片矢さん自ら確認してくれたのか。なら……確定だ。さすがにその状態の人間を復元して再生し、生き返らせることは……不可能だ。俺のレベル……錬金術だろうか? が、もっともっと上がっていればどうにかなったのかもしれないが……。今は確実に無理だ。


「なら……行くよ。情報収集は……東京でも出来るよね?」


「は、はっ!」


「三沢さんと倉橋さんにはそう伝えて」


 片矢さんも……辛そうだ。そうかな? そんなに俺は「撒き散らかして」しまっているのかな?


「えっと櫻井さんだっけかな?」


 美香の側用人の……片矢さんの所のおばさんと言うにはためらうくらいの年齢のお姉さんに……弱めの魔力で……意識を取り戻すことを……なんとなく強要する。


ビクッ! 


 という反応と共に、彼女が身を起こした。


「起きた?」


「は、はい!」


「美香とか……後片付けは頼む」


 そう言い残すと……片矢さんと共に、屋敷を飛び出した。


 こないだのダンジョン行きでも思ったが、本気で走ったら、以前よりも遙かにスピードが出る様になっている。


 幾ら【隠形】していても、派手に動けば気付く人は出てくる。だが。まあ、良い。今回は多少の露出は別に構わない。


 ……片矢さんも付いて来れなかった……か。まあ、行き先は伝えてある。そのうち来るだろう。


 あっという間に、星沢警備会社の……工場の様な社屋に辿り付いた。


 仕様は以前と全く変わっていない。というか、ここに結界とか配置しちゃったからね。動けなくなった感じかもね。


 正面から普通にドアを開けて入る。


「何か最新情報は手に入った?」


「む、村野……様……ぐう……い、いえ……ただ、仕掛けて来た実働部隊は、大陸の中国黒社会とは別の新興勢力……中国マフィアの「牙頭ファントウ」の様です……」


「その牙頭の……日本での拠点は?」


「お、押さえてあります……が。なぜか、現在の緊急事態に人数を終結させているようで……目黒の……やつらが拠点にしているビルに、二百人近く集まっている……よう……で……」


「む、むらの様、その……な、何を……」


「そのビル……監視してる? 連絡取れるかな? 間違えると不味いからさ」


「そ、それは……な、なに……を……」


 ドサ……


 人が倒れた音がした。位置的に……エミさん……か。そりゃそうだよな。今、ちょっと漏れたもん。


「何って。そりゃさ。そりゃやり返さないと……だよ。一旦は退いた。譲歩した。どんなに悪党であっても、関係無い者の命を奪うのはさすがに心苦しいからね」


 うん。まあ、こちらの世界への興味が薄くなってたのもあるんだけどね。


「でも……ダメだ。もうダメだ。君たちがもっと強硬にやってくれれば良かったのに。八つ当たりなのは判っているけど、三沢さんも師匠も、倉橋さんもそうしなかったって時点で……もうダメだ。少なくとも……何も言わせないよ?」


「は、はい……住所は……スマホのMAPアプリに……」


「ああ、うん。判った。ここね。うん。何となくわかるな……とりあえず、今教わったヤツラをやったら、ここに戻るよ。倉橋さん辺りが何か言ってきたら、待たせておいて。ここに」


 頷く三沢さん。汗びっしょりだ。


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