388:装飾付き迷宮

 豪華なゲートをくぐり、地下へ進む。基本はグノン、御近所と同じ様な石造りだ。この辺り一帯、ご当地で違いが出るとかそういうのがあるんだろうか? なんだっけ、「古代迷宮:石棺」だっけかな? このエリアはそのイメージで構築設定されているのかな?


 ただ、中は……グノンのダンジョン、そして近日中に消え去る予定の御近所ダンジョンよりも確実に豪華だった。


 通路の石畳もなんか種類があるし、装飾もされている。床の石畳も色違いの石が使われているのが判る。


 古い……気はする。


 だが、埃が積もっている……感じではない。これはダンジョンだからなんだろうか。そういえば、自分のダンジョンで埃っぽいと思った記憶が無いな。エリアを作成したばかりだからだと思っていたが……。


 こんな、何十年、何百年? も前から放置されていた地下建造物にも関わらず、空気も淀んでいないし、足を踏み入れて歩いても、埃は立たない。


 すげーな。ダンジョン。


 ちなみに、このダンジョン内は普通に明るい。


 グノンも、御近所も、ここも……多分、「古代迷宮:石棺」のダンジョンは、普通に明るい仕様らしい。

 明るさは俺のダンジョンと同じくらいだと思う。というか、俺、自分のダンジョンの明るさを設定した覚えが無いから、デフォルトがこれなんじゃないかな。


 まあ、シロが、本来はダンジョンや階層次第で設定できると言っていた。


 当然、常に漆黒の闇で、松明必須な所もあるらしいし、仄かに明るいとか、月明かりの夜に似た感じとか、夕焼けの時間帯なんて感じで、明度は様々だそうだ。


 自分のダンジョンに戻ったら、今度色々やってみよう。そういえば……森林の階層……あそこ昼夜があった気がするぞ? アレは特別だったのかな? その辺もシロに聞けば教えてくれそうだ。


(ショゴス、ちょっと離れてくれる?)


(判った。無効範囲の外に出ればいいか?)


(ああ。頼む)


 ショゴスが、女神のシステム、まあ、アンテナチップ情報網=シロとの連絡を阻害できるのは、彼の周囲半径、約100メートル程度だ。

 グノンのダンジョンはアンテナチップ情報網の範囲外だったが、ここは若干カンパルラに近い。シロに通じないかな……と思ったのだが。


(無理か)


 ジェスチャーで手招きする。どこでどう見ているのか良く判らないが、あっという間にショゴスが、定位置の肩に載った。

 

(君がいなくても、ここはまだ、範囲外だった)


(そうか。もう少し領都リドリスに近付かなければ通じないのだな)


(うーん。多分、街道沿いに広がってるんだと思うんだよな。シロの連絡網は。だから、こういう……山中、さらに外れた場所はまだまだ届かないんだろう)


(そうか)


(このダンジョンの豪華な装飾とか……明るさの設定のこととか、確認したかったんだけどな)


(確かに……ここは、入口や階段周り、壁の一部……全てに追加装備、装飾が施されてるな。豪華だ)


 豪華……ってことは、もしかするとかなり拡張されている可能性もある。未発見の……寂れたダンジョンなのに? 


 まあ、その辺は後でまとめて聞くとして。これまでと同じ様に、敵を殲滅しながら、下層へと向かう。

 

 なんてことはない……第十階層までは普通……というか、出現する敵はグノンと御近所のダンジョンとほぼ同じ構成だった。


 変化したのは十一階層。御近所ダンジョンは

 

第九階層

レベル30 ストーンゴーレム亜種


第十階層

レベル33 アイアンゴーレム


守護魔物階層

レベル15 デスホーク亜種

レベル35 ヒポグリフ亜種


 と、第十一階層が守護魔物、ボス部屋だった。 


 ところが。ここは……第十階層の次も、第十階層と全く同じMAPが待ち構えていた。というか、第十階層は、第九階層と同じ構成だ。


 えーっと、第九階層、第十階層、第十一階層……と全く同じMAPの階層が続いている。そして、登場するのは、


レベル30 ストーンゴーレム

レベル30 ストーンゴーレム亜種

レベル33 アイアンゴーレム


 ストーンゴーレム、ストーンゴーレム亜種、アイアンゴーレムが広間に並んでいる。規則的で整然として……密度はそれほどではない。


 綺麗だけど、俺が創るモンスターハウス広間に比べれば……スッカスカだ。


 やっぱ、俺のやっていたことはおかしかったのか……でもなぁ。効率を考えればなぁ……。なんか悔しいな。


(それにしても……繰り返しだな……)


 そう。既に……多分、俺の数え間違いで無ければ、二十八階層に到達していた。同じ……だ。全部同じ。ここまで一緒。なんていうか手抜きだよな。この仕様。


 他に出来る事も無かったので、黙々と……作業的に……幾つもの広間でゴー-レムを倒し、下層への階段を降りる……を繰り返す。


(さすがに飽きるよな)


 攻略開始から、既に……四時間は経過していた。階層数は既に……四十九階層目だ。


 これまでの二つのダンジョン攻略が順調すぎた……のか。一時間チョイでクリアしてきたからなぁ。


(飽きる……が、良く判らないが、時間がかかるな)


 ショゴスにとっては全てが新鮮で楽しいらしい。

 

 それにしても、判を押したかのように同じゴーレム部屋。繰り返し。心の平穏を保つためにも、話相手、ショゴスがいてくれて良かった。気が楽だ。


 ダンジョンに誰も訪れず、変化が起きず、蓄積されていた魔力を消費し続けるだけのハズなのに……この階層数の多さはどういうことなんだろうか。


 で。この繰り返しは唐突に終了する。


 第四十九階層。この階層には、これまでと同じ場所には階段が無かった。このままだと次の階層へは進めない。何か仕掛けがあるんだろうか。


(階段が無いな)


(広間の下に……ダンジョンコアがある……気がする)


 お。ってことは、ここが最終階層なんだろうか? 


「大地操作」で床に穴を開けて……確かに、床下に空間が存在した。階段を生成する。


 グノン、御近所と同じだ。ダンジョンコアが石灯籠で輝いている。


(ここがなんで、こんな風に進化したのか。確認するためにも「確保」じゃなくて、「掌握」するわ)


 掌握すると、総操作室への接続などで魔力が消費されるので、最終的にダンジョンコアを奪取してしまうのであれば、直で確保してしまうのが効率が良いそうだ。


 このダンジョンも多分、ダンジョンコアを奪取、確保して……まあ、ショゴスにあげることになるのかな?

 位置的にグノンのダンジョンの内側、さらに北に外れているので、移動用としては意味が無いし。


 だけど、直で確保してしまうと、ここが俺のダンジョンにならないので、シロとの会話ができない。もどかしい。


「掌握」


迷宮創造主マスター。緊急事態です)


 接続した瞬間に、シロからの緊急連絡が……かなり強いトーンで響いた。緊急にして重要案件ってことか。


(どした?)


(大至急……あちらの世界へお戻りになられる必要があるかと)


(だから何が)


(冷静に聞いて下さることを懇願します。東京で……大規模な襲撃事件が発生しました。死亡者の中に……松山詩織さん、ファーベル受付三人娘のうちの一人の御名前が)



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