373:神敵

 とにかく急ぎでカンパルラに入った。リドリスでチェックインしたのが既に夕方になりかけだったので、ギリギリ明るいうちに着いたといった感じだ。


 俺は万里(ショゴス)を抱えているので、当然の様に門を通過しなかった。うん。元々、お構いなしで、地下から城壁を越えているからね。急ぎだったし。


「お帰りなさいませ。迷宮創造主マスター。それは……危険です」


 出迎えたシロの第一声はまあ、ああそうなのか……な緊急警戒状態発令な感じだった。


「シロ。いい。イロイロと動かないで……あ。いや。そうか、シロしか知らない部分も多々あるのか。これ、そんなに危険?」


「私の所持しているあらゆる情報から導き出されるのは、それが女神の唯一の敵。全ての元凶、排除すべき異物。ええ、ええ。文字通り、世界の敵であります」


「……そうなの? うーん。でも、正直、今コイツ、何も出来ないぞ? エネルギー不足で」


「つまりはエネルギーが補充されれば、即座に敵対行動を取るモノと予測されます。速やかに排除を要請します」


 シロがかなり強固に主張してくる。というか、それだけシリアスってことだろうか。


「シロ。シロ。判った。お前を信用していないわけじゃ無い。だが、いきなり全て飲み込まれて殺される……ということには為らないハズだ。現実問題、俺の【結界】で隔離できるのは検証した」


 抱き上げた状態で【結界】「正式」で包み、それをショゴスが乗り越えられるかどうかを検証したのだ。


「なので、ちょっと落ち着け。まず確認したいのは、ここにいる少女だ。シロが敵だと言っているのは、彼女の中にいるショゴスと名付けられた不定形生命体だろう? 現在、この少女の肉体は、その敵であるショゴスによって維持されている。どういう事なのか判らないが、ヤツが放棄した瞬間にこの少女の肉体は崩壊を始めそうだ……との事だ」


「……了解しました。迷宮創造主マスター。私は迷宮創造主補助機構附属多方向対応支援妖精ですので、基本的な能力、所有している情報は迷宮に関する事に特化されております。「唯一の敵」に関してもそれほど詳細な情報を与えられているわけではありません。ですが……私の持つ全能力が、それを脅威と……「怯えて」おります」


「そこまで……か」


「現実問題……それの周囲二十メートルで……球形の消失地域が形成されいます」


「……どういうこと?」


「その少女と中の者を中点にした球形の内部には……私の力、いえ、女神の力が及びません」


 え? そうなの? あ。だから。


「だから、リドリスでシロに連絡できなかったし、帰路で何度連絡しても反応が無かったのか」


「はい。そのようです。正直、先ほど迷宮創造主マスターが帰還されるまで、リドリスよりも西の、アンテナチップ受信可能範囲外で活動されていらっしゃると思っておりました」


 そうなのか……。


「私はその「敵」に対する詳細な情報を保持しているワケではございません。なので、判別方法もそれほど所有していないのです。ですが、唯一無二の特徴「その存在が女神の力を消失させる」……というのは制御情報の基礎に含まれている重要案件です」


「アレ? 現時点で……シロもショゴスの範囲にいると思うんだが……動いてるよね?」


「実体化している私であれば、強引に割り込むことが可能です。ですが、この球の中に出現することは出来ません」


「今みたいに歩いて入って来ることはできても、いつもみたいに虚空から出現することは不可能ってことか」


「はい。それで……迷宮創造主マスターは……敵をどうなさるおつもりでしょう?」


「ああ。まずは相談だ。この少女は佐久間万里さん。中学一年生なんだが……いきなりこちらの世界に跳ばされて……一度肉塊と化したらしい……で……」


「……」


 とりあえず、現時点でショゴスから聞いて判っている事を説明した。シロの顔が徐々に驚愕を示す。彼女は基本、感情を表に出さない。にも関わらずその表情は……。


「どうだろうか? こんな事は……例として過去に起こったりしているのだろうか?」


「……私の持つ情報ではございません。異世界転移に関する諸情報は全て、女神に関係する非常にレベルの高い秘匿情報であり、過去に事故などが発生したという報告もございません。実行された事例が極端に少ないのです。そもそも……女神の御力とは関係無く、こちらの世界、異世界に関わることは不可能なハズです」


 まあ、そうだよな……。


「ちなみに古来よりよく言われている神隠しなどの事例は、ほとんどが人間の手による誘拐案件となります」


「つまり……俺以前に、こちらの世界を訪れた、日本人なんていう存在は居ないと?


「はい。私の知る、持っている情報上では、ですが」


「にも関わらず、彼女と女神の敵であるショゴスはこちらの世界に転移した。……あまり考えたくないけれど、世界が他にもある可能性は?」


「女神の全く関与しない別世界……並行世界ということでしょうか。それは……少々、荒唐無稽過ぎる可能性、低確率なお話かと」


 今の俺も十分荒唐無稽なんだけどさ。


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