374:【渡界資格】

「とりあえず、向こうの世界で……佐久間万里という中学生少女が行方不明になっていないか確認させてくれない? 片矢さん三沢さん辺りにお願いすればすぐに判らないかな? あ。そうか。向こうでこちらに来る前にいた場所は?」


「自宅自室だ……東京都××××……」


「だってさ」


「畏まりました。美香に確認させます」


 美香が本人がどうしても利かないので、仕事を与えてある。松戸、森下がうらやましすぎる……のだそうだ。


 俺がこうしておいて……と言ったことをシロが手紙にし、それを俺の部屋の扉の前に置いておく。それを回収し、片矢さんに連絡をする係だ。


「それと……魂の損失……というお話ですが、もしかすると、魂は……あちらの世界に存在するやもしれません。何故か肉体だけこちらに転移してしまった様ですし」


「それって確認は?」


「できません。ですが……肉体があちらの世界に戻れば、魂が身体を見つけて、元に戻る可能性はあるでしょう」


 お。つまり。


「彼女は、まだ、助かる? と?」


「あくまで仮説となります。ですが、試す価値があるレベルの確率かと」


「世界を渡る……移動するっていうのは、ヤバいことなんだな……俺は迷宮を使用すれば、ごく普通に移動出来てしまうわけだけど」


「はい……いえ……ですが……」


「なに」


「そもそも、事故や……何かがキッカケで、世界を移動した場合……何もかも残らないのが普通です。【渡界資格】が無ければ……破片だったとしても……肉体が残っているなんて……有り得ません」


「でもなぁ……現実問題として、生体的には復活してるぞ?」


「はい……ですから、それがあり得ないことかと。それを成せるのは唯一、神のみ……だと思うのですが、ご存じの通り女神は現状、休眠中ですし……」


「なら。ショゴスは女神と同等……まではいかないけど、肉体を回復できるくらいの無茶な力を持ってるってことなんじゃないかな?」


「なん……いえ……確かに……その……通りです。そして……現在その者を中心に起こっている現象から判断するのに、神敵であるのは確定事項です。私も実際に遭遇するのは初めてですが……」


 つまりは……それだけの力があるからこその……。


「はい。その様です。神敵とは、すなわち、女神と敵対することが出来るだけの力がある……ということになります」


「私は現在、稼働エネルギーの99.991241%を失っている状態だ。このような状況で戦闘行為を行うなど論理的にあり得ない。さらに、そのエネルギーを……村野の側にいることで吸収させてもらっている。つまり私の生体活動の根幹を握っているのは村野ということになる」


 まあ、そういうことだ。現状、ショゴスはギリギリで生きているということなのだろう。


「そして何よりも。私は……万里を助けたい。回復させたい。四年前、万里は私に手を差し伸べてくれたのだ。あの時も今ほどでは無いが、エネルギーを失っていた。私はその時に自我を得たのではないかと思っている。全ては彼女が与えてくれたのだ。彼女を元に戻す……という行為がもしも……「我が主」に背く行為だとしても……構わない。出来るのなら私は消失しても構わない」


「ショゴス……初めて聴いたぞ。「我が主」とは何だ?」


「判らない。だが、私は……「我が主」の手足であり、一部であり、下僕だった……気がする」


「その頃のことは覚えてないのか」


「物事を……記憶として所持しているのは、万里に触られてからだ。それ以前の事は何一つ覚えていない。その時も……何らかの事情でエネルギーの大半を失い、活動停止する寸前だったと……今から考えると思えるのだが」


「シロ。神敵だというのは理解した。その上で。俺はショゴスの言う事を信じることにする」


「は……ですが……」


「ああ、確かに危険はあるだろう。でも、その時は俺が何とか……するよ。出来るといいなぁっていう感じで、自信持って言えるようなレベルじゃ無いけど」


 何よりも……。


「万里さんを助けたいという気持ちは……嘘では無いと思うんだよな。なんか、言葉以外の何かが伝わって来たというか」


「……」


「まあ、シロがそこまでの重要案件を無視する……というのが難しいのも判る。なので、まずは、万里さんをどうにかすると言う事だけに集中しよう。彼女を……向こうの世界に連れ戻すことは可能なのかな?」


「……通常の方法でしょうか? 不可能……ではないと思いますが……神敵が女神の作ったシステムを越えられるとは思えません。そもそも、現状彼女は肉体しか「無い」状況なのですよね?」


「そうらしいよ?」


「でしたら……肉体を【倉庫】又は【収納】に納めた状態で迷宮創造主マスターが移動し、あちらで引き出す……事が可能じゃ無いでしょうか?」


「……そんなん……とりあえず【倉庫】でいいか」


 ちょっと前に追加された【収納】と違って、【倉庫】は現状非常に大きくなっている。


 レベル44で【倉庫参】のレベル07。容量的には約70tの空間収納らしい。70tって。普通に10tトラック7台分ってことだもんな。とんでもないよな。

 まあ、向こうの世界の自宅にあった、ほぼ全ての荷物が丸々収納されているし、これまでに回収、収穫した魔物からのドロップ品、素材アイテム等、戦利品も山ほど保存している。


 なので、現状、大体……2/3が埋まっている。逆に言えば、まだ20tは物が入れられる感じだ。


「そもそも……生物は入れられないんだよな?」


「はい」


 万里を……入れようとしてみる。うん、入らない。でも……。


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