371:復元

「魂か……しかし……肉体の復元なんて……よく出来たな」


「私もなぜそんなことが出来たのか判らない。自分にそんな能力があった事も知らなかったしな。彼女が……私を寄生させてくれたから……それまで長年、自分の肉体でもあったから可能だった気がする。必死だったしな。だが、その力も失われようとしている。この身体を維持するのは……思ったよりもエネルギーを必要とする」


 さっきから感じる言葉。彼女の口から出てくるけれど、違う言葉。異和感があるのに、異和感を感じない。


 何となくだけれど。嘘は無い気がしていた。言葉だけでなく、魔力……そしてホンの少しの気力だろうか? いや、もしかしたら全く違う力かもしれない。それが、直接、俺に訴えかけてきている。


 どちらかといえば、割り切れないその不可視の力の方に異和感を感じるが……ヤツの言葉からは嘘を感じない。


 これが第六感とか、五感で感じるとかそういう事なのだろうか?


「なので、村野から、エネルギーをいただきたい。お前からは……なんというか、混ざり合っている何かを感じる」


 え? そうなの? そんな匂いさせてるの? エネルギー? 魔力とか気力とかじゃなくて? なんだそれ。


「万里から得られるエネルギーは非常に少なかった。それに比べて……村野からは何十倍の力を感じる。このダンジョンに入ってきた辺りからそれがハッキリと判った」


 ……魔力の過多……ではないよな。そうじゃないよな。きっと。


「とりあえず。まずは……佐久間万里という彼女の肉体から……離れる、分離することは可能か? それが第一段階だ」


「ああ、可能だ。判った……だが、少々時間がかかる……し、できればベッドで寝ている状態で離れたい」


「判った。離れる準備をしておいてくれ」


「ただ、ほんの一瞬だけだ。現在、万里の肉体の諸管理は私が担っている。私が離れた瞬間に……全てが止まる……と思う」


 ちっ。どういうことだ? 


 彼女は……異世界転移に失敗して肉塊になった。それをこいつ、ネンドロンが治療というか、復元した。復元は出来たが、彼女は意志を取り戻していない。←今ココ。


 実は今の彼女は完全に生きていない……のか? 生物として存在していないのか? なんだ? 


「判った。とりあえず、現状動けるのか?」


「それほど早くなければ。ゆっくりと……だが」


 そう言って、彼女は一歩前に出た。ああ。動けているが……どこかおかしい。正直、厳しいな。


「森下、背負えるか?」


「は、はい……多分。彼女……長時間ダンジョンに居た割に臭くないですし」


「ああ。この汚れは目立たぬようにワザと付けたものだ。汚れや匂いの元になる成分は全て排除している」


 なんだその、細かいコントロール……。というか、本当にこの娘の身体を……細胞単位で維持しているってことか? 出来るのか? そんなこと……。


 森下が……何の予備動作もなく、彼女に近づいていった。


くんくん……


 匂いをかいでいるのか……というか、勇気あるな。


「ダンジョンの匂いや、どこからともなくしている、染みついた、この小部屋に発生する魔物の匂い……そっちの方が臭いです。それ以外は一切しませんね。というか、不自然なくらい、彼女の匂いがしないです」


「判った。抱き上げられるか?」


「重さを感じないレベルです。問題ありません」


 森下が、少女の身体を持ち上げて、お姫様抱っこで懐に収める。

 って、客観的に見ると……。メイド服で少女を抱っこ……はさすがに目立ちすぎるな。


 というか、そもそも、森下は魔術が使えない。彼女を抱いて高速で移動、走ったら……息が出来なくなるとかそういう感じか?


「森下。彼女を抱いたまま走れるか?」


「……いえ……正直あまり自信が。高速で走った際に自分の身体を保護するのは「なんとなく」出来ていますが……誰かを抱いて走る際にどうなるかは……正直予想もできません」


「判った。彼女の意志があった場合、俺よりも森下の方が良いと思ったんだが……今なら関係無いか」


 森下から、少女を受け取る。ああ、確かに軽いな。


「森下。このマントを」


 俺が出した大きめのマントを森下が装備させてくれる。抱き上げている姿は完全に判らないだろう。その上、【隠形】なんかも効いてくれるハズだ。


「あまり人に見られたくない。ダンジョンから出たら、まずはリドリスへ向かい宿を取ろう」


「畏まりました」


「ネンドロン、それでいいか?」


「……ああ、構わない。……ネンドロンは出会った頃の名前だ。今は万里に付けてもらった名前……ショゴスと呼ばれている。なんでも、不定形の怪物の名前だそうだ」


 おう……。


 中学一年生にして良い趣味してんな……。俺がゲームの影響でクトゥルフを読んだのって高校三年くらいだった気がするぞ。

 というか、ショゴスって……クトゥルフの最強ボスの召使い、使い魔じゃなかったか? 


「やはり……村野から発するエネルギーは非常に吸収しやすいようだ。補充してもかまわないだろうか?」


「それをされることで、俺に何か影響は生じる?」


「同化して吸収するわけではないからな。純粋に、村野が放出し、捨て置かれる物を吸収という事になる」


 俺ってそんなに……何かを発してるのか? 魔力とか放出のコントロールとか出来てるのに。実際、こないだそれで威圧とかしたしな。



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