369:接触
「どうしたんです?」
「……なんていうか……ダンジョンの一階層奥に……ちょっと変な魔力を持っている……ヤツがいる」
「どういうことです? それ。あの、あまり話はしてませんけど、あの靴の持ち主を探して……ここまで来たんですよね? 多分、小、中学生の女の子。当然ですけど非常に危険な状況が予想されるから、そのケアのために私もお供しているわけで」
その通りだ。助けるだけでいいのなら、俺一人でここに来た方が……それこそ、移動時間は半分になっていたはずだ。
靴の持ち主がいつからこの世界にいるのかは判らないが、女児だろうが男児だろうが、子供にとってここは、非常に危険度が高い。
奴隷制度が存在し、人身売買が普通に行われているのだから、庇護者の存在しない子供なんて、飛んで火に入るなんとやらよりも遥かに安易だ。イージーすぎる。
「俺もそう思ってたよ。でもなぁ……うーん。とりあえず、近くまで行こう」
ダンジョン内を歩いて行く。このフロア、階層は石造りになっている。俺が一番最初にブロックで作成した廊下の様なダンジョンに似ている。
俺が作るダンジョンに比べて、通路が複雑に入り組んでいて、広間に繋がる扉は幾つも用意されている。迷宮と呼ばれるに相応しい作りをしているのが、なかなか小憎らしい。
パーツ流用で構成されているわけでは無く、自然物……と変わらない感じで、ワンオフ、一点物で構成されている様だ。汎用性が下がるから、さすがに全部取り入れたくはないが、構成の仕方とかをちょっと見習おう……。
と。このフロアの中でも……人が近寄りそうにない隅の方からおかしな魔力を感じる。
この奥……と目線で合図する。良く出来たもので、森下はそれだけでキチンと最適解を取る。
部屋のドアに張り付き、取っ手をひねり開ける。念のため、透明な【結界】「ブロック」を緊急展開させている。
……何も。反応が無かった。
ゆっくりと足を踏み入れていく。
ああ。いるね。……怯えているのか? 小部屋の中は、木製の樽が置いてあった。細かい作りだな……。なんていうか、ワイン醸造所の地下倉庫……ってイメージだろうか? それほど多くは無いが、少なくも無い樽が、積み重なっている。
「そこに居るのは判っている。怯えなくてもいい。出てきてくれないか」
よろよろと……少々危なげに樽の後ろから出てきたのは、ボロボロの黒のマントを頭から被った小柄な姿……だった。
身長は150センチちょい……だろうか。二足歩行。手足がある事を確認。陰になっていて良く見えないが、マントのフード部分から目が覗いている。人間型なのは間違い無いだろう。
マントから唯一見えている足には……この世界のモノらしい靴を履いているのが見える。
履き替えた……という体だろうか。
「わ、わた、わたし……は。怪しい……その、者ではありま……せん」
少女……の声。だけどわざと低い声を発しているのか。精一杯の偽装というところか。冒険者達はこんなごまかしでも、餓鬼と言って居たからな。薄暗いダンジョンであれば、それくらいは可能だったのか? まあ、それよりも問題は言葉。
俺にはスキル【言語理解】があるのでこちらの世界の言葉も、向こうの世界の言葉もどちらも同じ様に理解出来る。
だが、今、目の前の女の子は……間違い無く日本語で話している。向こうが日本人であるというのは確定……だと思う。
しかしどういうことだ? チャズという冒険者と交渉したと聞いている。彼女にもスキルがあるのか?
そう言えば、ステータスを見れないから詳細は分からないが、松戸、森下……もこちらの世界の言葉を「日本語」として使用出来るんだよな。
「君は……日本人……でいいのかな?」
「!」
ビクッと大きく反応した。
同時に……【鑑定】を使用する──反応が無い。松戸、森下と一緒……か。
「に、日本……地球の方……ですか?」
「ああ。俺の名前は村野久伸。サラリーマン……をしていた。日本人だ。そちらは?」
「あ、あの。わた、私は……私立史央中学一年の
女の子なのはまあ、そうだよな。で。やはり。異和感が大きくなる。
「とりあえず、現時点では違うな。多分……君が冒険者に売ったスニーカーを手に入れた。明らかに向こうの世界の物だ。どう考えても「困っている」様にしか思えない。そこで、手がかりを集めて「保護」または「協力」出来ることがあればと思って、慌ててここまで来た……感じかな」
「……ボランティア……ということでしょうか」
「あの靴はどう見ても子供向けだった。子供に手を差し伸べるのは、年長者、いや、大人の義務だ。さらに言えば、向こうの世界からこちらへは……そう簡単に渡れるものじゃない。なので、何が起こったのか……を調査するのも目的だ」
「すいません……疑ってしまって。日本語を話せている時点で……信用すべきなのに」
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