368:火急に。速やかに。

「ええ。まあ、それじゃ、ガセ……なのでしょうか」


「ん、少し待て。ファルダー。見慣れない子供の姿……記憶にあるか?」


 受付の職員が、奥で事務作業を行っていた職員に話しかける。この支部は男性率が高いようだ。というか、この村の雰囲気だと普通のギルドの様に、受付のメインが女性だったらそれだけで問題が発生しそうか……。


「そういえば……チャズのヤツが……ダンジョンで餓鬼から良い靴を買ったと自慢していた様な……」


「その話、詳しく」


 受付の男に銀貨を二枚握らせる。受付は奥から来た男、ファルダーか。彼に一枚を渡した。慣れてるな。


「確か……十日位前だと思うんだが……、身隠しのチャズっていう冒険者が見慣れない鮮やかな色の靴を手に入れて、浮かれていてな。この靴があれば、もっとデカいダンジョンに挑戦できるとか言って、カンパルラに向かったんだが……それを手に入れたのは餓鬼からだ……と言っていた気がするな」


「おお。ありがたい。それは有望な情報だ。ダンジョンで餓鬼と取引した……という冒険者がいたのですね?」


「ああ。確かにそう言っていた……気がする。チャズはソロで潜ってたからな。死体剥ぎや横取りもする何でもありのヤツだったから、パーティも組んでいなかったし、仲間も居なかった。普通に敵を倒して宝箱からアイテムを入手するなんて不可能だと思う。あんな珍しい色の靴……ダンジョンの宝箱から以外で入手できるハズがない。だから怪しんでいたんだが……すぐにここを出たのか見かけなくなってしまってな」


「そうですか……話を聞くことはできませんか……それは残念です」


「残念だが、多分、嘘だと思うぞ。誰か……宝箱を開けて死んだ冒険者の荷物を漁ったとか、そういう感じじゃないかと思う。靴は間違い無く迷宮品だったからな」


「その、迷宮品の靴を持っていそうな冒険者が……ダンジョンで死んだということはあるのでしょうか?」


「……級の高い冒険者がここで死亡……か。最近はないな。そういえば。グノンのダンジョンは安定しているし、そこまで強い敵が出る場所までジャズが行けるワケが無い。浅い階層では特に事故は起きていないしな」


「そうですか……そうなると謎は残りますね」


「確かに……」


「まあ、二人とも、ありがとうございます。とても参考になりました。とりあえず、無駄だとしてもダンジョンに向かってみます」


「判った……えーとサノブは……陸級だったか。なら、五層あたりまでは問題無いとは思うが。気をつけろよ? ダンジョンは何があるか判らないからな」


「ご忠告ありがとうございます」


 冒険者ギルドを出て、酒場を覗く。


 人だかり……にまあ、いいか。そのうち追いついてくるだろう……と、後ろを向いて歩き始めた……と思ったら、既に右後ろに森下が追いついていた。


「速いね」


「残念ながら、誰一人、ダンジョンやダンジョン近辺で子供を見かけた者は居ませんでしたので。御主人様は?」


「俺に靴を売った冒険者がチャズって名前だってこと。後、ヤツが嘘はついていない様だということが判ったかな」


「さすがです。ではこのまま、ダンジョンへ?」


「ああ。ギルドの受付の人に問題無いと許可をもらったしな」


 それにしても……森下は……アレだけの人だかり……人垣をどうやってあのスピードですり抜けたのだろうか。うーん。まあ、いいか。気にしたら負けか。


「なんていうか……小さい……ですね」


 ギルド受付に聞いた情報通りに、村を出て北に。細い道を走って、辿り着いたのは小さな洞窟……だった。小さな広場に山があって、そこに穴が空いている感じだ。昔のアニメで空き地に小山があって、ドカンが横に突き刺さってる……のに似てる。


 洞窟の入口、穴の高さは140センチ程度だろうか? 横幅が80センチくらい? 俺も森下も屈まないと入れない。狭いのでちょっと怖い気もするけれど……うん。まあ、入るしかない。


 腰を屈めて先へ進む。しばらく……数分、狭い通路を歩いて行くと、いきなり開けた場所に辿り着いた。


「おお。……なんとなくですけど……何時も訓練してるダンジョンに似てますね……なんていうか、匂いが」


「ああ、そう言われてみればそうだな……というか、空調ちゃんとしてるんだよな……ダンジョンって」


「……そう言われてみれば。いつも入ってる広間……温度とか一定ですよね」


「そうだな。火山エリアとか、氷原エリアとかも常に一定の気温みたいだったな。そういえば」


「それ……凄いですね。室内栽培とかしたら無敵じゃないですか」


 うん、ごめん、森下。もう既にあるわ。収穫エリア。元森林エリアな。ポーションの素材とか栽培しているし。薬草ことホルベ草に~モモ(のようなもの)とかもいつでも収穫可能にしてあるし。


 ん……ちょっと待て。これは……。


「森下。気配とか……何か感じるか?」


「いえ……何も……少なくとも周辺に敵はいないと思うんですが」


 判らないか。ということは……確実に魔力だな……これ。それにしても……なんだ? 

 今まであまり感じたことが無いというか……。ここに入るまで判らなかったけど……異和感バリバリだな。周囲に馴染んで無い気がする。


 俺が感じているのは、魔力だ。それは確実だ。多分、人だろう。そこまでは確かなのだが……それこそ、こないだ潰した帝国の魔術師とは似て非なる者というか。何かが違う。


 あの靴の持ち主……向こうの……日本からの転移者……だと思ってここまで急いで来た。

 接触、もしも相手が子供なら保護しなければ……と思っていたのだが……何か勘違いをしていたのだろうか?


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