367:ダンジョン村

 リドリスから北へ。林道を急ぐ。大体、一時間程度だろうか……見慣れぬ道、さらに林道沿いの山道は、非常に移動しにくい。距離的にはそう大したことはないハズだが思ったよりも時間がかかった。


「あれが……グノンの村、かな。ああ、向こうに魔力が溜まってる……のがダンジョンか」


 眼下に見える……谷間に作られた村に、近づいて行く。ここからだと全貌が見渡せる。規模としては……住民五百人ちょいといった感じだろうか? 


 さらに北にダンジョンらしき魔力。難易度は低く、初級~中級冒険者向けのダンジョンだそうだ。

 村には、それほどスゴイ魔力は感じない。凄腕の冒険者は……ああ、ダンジョン内ってことなのかな。


 中央に冒険者ギルドのグノン迷宮支部。あとは……ああ。宿屋兼酒場の様な建物が見える。その北側に屋敷がいくつか。

 それ以外は、バラック……木を打ち合わせただけの簡単に雨を凌ぐためだけの小屋が多い。天幕や冒険者の野営用のテントもかなりの数、見える。


 村の中央を川が流れている。これを利用するために、ここに村が出来たのだろう。

 近づいて行くと、村の中を流れる川の上流部分に屋敷がある。アレが多分、権力者の生活空間だろう。冒険者ギルドの支部長か、ここを治める領主代官か。


 その権力者の屋敷の脇の方に……多分、色……風俗関係の施設が構築されている。良い趣味だな……。

 この世界にネオンサインは無いのだが、派手な色の看板や、布を使った旗竿など、遠目からも「それ」と一目で判る様になっている。


 簡素な城壁はあるものの、村に入るのに門番からの誰何などはなかった。

 

 それにしても……視線が痛い。森下は……というか、メイド服はこちらの世界でもメイド服だ。貴族などの上流階級に仕える女性のユニフォームというのが定番だ。


 この様な冒険者中心で構成されている村ではどうしても目立つ。


 出来ればその辺の女冒険者の格好に着替えて欲しかったのだが、どうにも二人とも、この衣装に拘りがあるのか、メイド服を着替えるという命令には従ってくれない。


 アレな一角があるのだがら、その手の女性も多く暮らしているハズだ。まあ、つまり、この村の冒険者、男達がとにかくイロイロと溜まっている……というわけではないだろう。

 迷宮で稼いで、すぐにここで散財させる。どうやっても胴元である親方、領主が儲かるようになっている。賢いやり方だ。


 だが、そんなよく出来た村だが、大きく欠けているモノがある。「品」だ。


 ここは領都でなく、夜光都市カンパルラでもなく。場末のダンジョン村だ。普通の村、都市に比べれば、その格は数段堕ちる。

 ダンジョンで稼ぐ冒険者以外で、そんな場所で働いている者達には大抵事情があるし、一筋縄ではいかない状況に追い込まれている事が多い。


 大抵の者は背を丸めて歩いているし、着ている服はうす汚れている。女達の化粧も適当になるし、着飾るにしても限度がある。


 そんな中を……背筋を伸ばし、髪を束ね、清潔な白いシャツ、汚れの無いメイド服に身を固めた美人が、悠然と歩いて行くのだ。大きな背嚢を背負っているものの、武器も携帯していない。俺の僅かに後ろをきっちり着いてくる。


 そりゃ……目立つよな……。


「よ、よう、姉ちゃん、ダンジョン村なんかに、なんの様だい。なんなら、俺が案内しようか」


「そ、それなら、俺が」


 俺を完全に無視した形で早速何人もの冒険者らしき男が、近付いて来た。この場合……どうするのが一番面倒くさくないか……な? と思って森下を見ると「問題ありません……」という目でこちらを見た。


 なら任せよう。


「あら。私、御主人様のお供で、この村に人捜しをしに参りました。子供……を見かけませんでしたか?」


 予想として、あの靴を売ったのは子供。そして女児のハズだが、少々知恵があれば自分が女である事は隠そうとするだろう。平和な向こうの世界から……のほほんとしたままの思考であればヤバいのだが、既に冒険者にアレを売った際に「餓鬼」と思われている時点で、それなりに賢い相手だと想像出来る。


「餓……あ、いや、子供かい。子供……な。うーん。一緒に酒でも飲んでくれれば思い出せるかもしれねぇなぁ」


「ああ。そうだな。そうだよな。な、な、一緒に酒でも飲もうぜ? ここの酒場それなりに良い酒を飲めるんだ」


 さらに数名の冒険者が加わった。なんていうか、逃がさないぞ……という意気込みが感じられる。野蛮な……ああ、それ目的のサークルの男子が少々酔って標的を見定めた……といった感じか。


「御主人様、よろしいでしょうか?」


 森下がわざと聞いてくる。おもむろに頷く。


「では、参りましょうか」


 なお一層、お上品な仕草、動きで森下が……冒険者達を従えて、酒場に向かう。残された俺は……冒険者ギルドに足を向けた。


「子供……か。この村だと、見慣れない子供は珍しいからな……もしも見かけていれば、何らかの噂になっていると思うんだが」


 ギルドの受付で、ギルドカードを見せてから問いかけた。


「誘拐された子供に似た浮浪児……がこの村にいた……という情報を得たんですよ。親御さんはそれなりに裕福な商人でしてね。少しでも情報があれば確認しませんと」


「それは大変な依頼だな……誘拐なんて大きな都市ならいくらでも発生してるし……」


「ええ」


 カンパルラではほぼゼロになりつつあるけどね。何一つ告知されてないから、体感できるようになるまで、まだまだ時間はかかるだろうけど。


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