366:メイド服に魔法背嚢

(シロ。街道沿いでハイオークが? それとグノンっていうのは?)


(数日前に……深淵の森から溢れたのか、はぐれハイオークが一匹大暴れした様です。領主による緊急依頼が発生、冒険者によって解決済みです。グノンは領都リドリスから、かなり王都側、さらに北にある村だったハズです。街道から離れているために発展していませんが、グノンの迷宮という小規模なダンジョンの攻略のために作られたとか。アンテナチップの範囲外です)


「いくらだ?」


「銀貨5……いや、金貨1だ」


「お前はこれをその餓鬼から幾らで買った?」


「な、なんだ、根切るのかよ……そ、そりゃ銀貨5枚だけどよ……い、色が綺麗だろ? 珍しいだろ?」


 五千円程度……か。


「買ったのはいつだ?」


「え、あ、あっと……七日前……くらいか、いや、六日か」


「判った。これでいいか」


 俺は金貨1枚を出した。


「あ、ああ。あ、いや、もうちょっ……」


「俺は今から忙しい。次に会うことがあって、機嫌が良かったら、さらに金貨1枚やろう。お前は、これをグノンのダンジョンの側で、子供から購入した。それでいいか? 他に知ってる事は? 思い出せ」


「お? え? ど、ういう……」


「思い出せ」


「ダンジョン帰り、布を被った餓鬼に、い、いきなり、声を掛けられて、持ちかけられたんだ。特殊効果は無いけど、軽くて歩きやすい、そして何より色が綺麗だから買わないか、と。貴方なら使いこなせるって。こんな形と色の靴は見たこと無かったからな。ダンジョン産なのは間違い無い。それだけで買い手が付くはずだ。さらに、履いてみたら言われたとおり、スゴイ履き心地だ。な、なので買ったんだ。これ以上は……し、知らねぇ」


「あまり、欲を張ると良い事は無いぞ?」


 何となく少し、魔力を向ける。圧力を感じたのか、冒険者は挙動不審になりながら、汗を拭った。


「あ、あああ。判った。判ったよ。毎度あり、だ」


(シロ。これ、サイズは23センチ。色から考えて、レディース……だと思う)


(はい)


(今の冒険者、嘘はついてないと思う。ということは。なので、まずは確認か……)


 急いで工房に戻り、メイド二人に見せた。


「さすがに……この歳でファンシーデザインなペパーミントグリーンのスニーカーは……そもそもサイズが合いませんよ~」


 判ってるって。念のためだって。


「そうですね。我々二人がこちらの世界に持ち込んだ靴類は……革靴とコンバットブーツ数点、そして内履きのみです。それも数を確認してございます。紛失した、または盗難にあったということもございません」


「ということは、だ」


「比較的新しく、綺麗なんですが……これはいつ頃、本来の持ち主の手を離れたのでしょうか?」


 森下がその深刻度を察知したのか、真面目に話し始めた。


「今から六日前だそうだ。場所は、グノンという村の近辺で餓鬼……子供から交渉を持ちかけられたらしい。売っていたのは体つきの小さい冒険者だ。多分……足のサイズが同じくらいではないか? と予想して交渉したんじゃないかな?」


「いくらで?」


「銀貨を5。グノンはダンジョン攻略のために作られた簡易な村らしい。それほど大きく無いし、他に産業は無いだろうから、金を得ようとしたらダンジョン攻略に乗り出す可能性もある」


「急いで向かった方がよろしいでしょう……」


「ああ。とりあえず、この場合の対処人員としては……」


「確かに御主人様お一人よりも、女手があった方がいいかと。森下が適任かと思われます。私はこちらで待機しておきます」


 まあ、そうだろうな。この大きさ、デザイン。色。子供向け。さらに、小さいハートの模様。女児……だろうな。保護するにしても接触する際には森下の方が「判りやすい」か。


「よし。なら。行こう」


「畏まりました」


 森下……というか、森下、松戸共用で、いくつか魔法鞄を渡してある。大きいやつはいざという時に全てを持ち抱けるようにかなりの容量だ。まあ、この大きさだと魔術背嚢に見せかける必要があるので、ちょいゴツめのリュック、名付けるならば魔法背嚢なんだけどね。

 材料が結構レアなので大量生産は不可能だ。ドラゴンの内蔵をいくつか使用している。もっと簡単に入手出来る素材でも作れるんだけど……対象モンスターを見かけた事が無い。


 メイド服にデカいリュック。なんか異和感があるけど、本人が頑固にそれが良いと言うので、どうにもならない。

 特別仕様なのはせめても……ということで、メイド服の茶色に合わせて、焦げ茶色にしたくらいか。

 色の変更は錬金術の基本に近い。シロによればそんな簡単な物では無いらしいけど。触媒になる茶色いモノから派生させて、色を定着させれば変更が可能だった。


 改めて眺めると……それにしてもゴツイ。俺の様な肩掛け鞄よりもリュックの方が良いのは、激しく動いても密着して、両手が完全に空いているのが理想だからだそうだ。まあ、彼女達……スカートの中にもイロイロ隠し持ってるからね……。


 領都リドリスまでは、約一時間。後ろを追ってくる森下を意識しながらなので、ある程度、速度はセーブしたのだが、普通に着いてくる。大丈夫のようだ。


「この速度で問題は?」


「警戒臨戦行軍としては限界です。これ以上を求められますと、行軍に集中するあまり、周囲警戒が疎かになります」


「そうか。ならばいい。現在の疲労は?」


「無理はしていませんからそこまででは」


「なら。急ぐぞ?」


「はい」


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