365:ほぼ全てが初級

「初級」天職の拳闘士のレベルを上げて何か他の条件を満たすと、上級天職の武術師に転職が可能になる。


 というか、これまで普通に言っていた天職は、初級……なのな。


(ああ……そうですね。今回、上級天職……武術師、魔術師。二つ認知されたことによって、その単語が開放された……のでしょうか?)


(疑問形?)


(重ね重ね申し訳ありません……その辺のシステムや情報の開示条件を理解出来ていませんで……)


 まあ、しょうがないよね……俺が無理矢理イロイロと便利に、秘書的なポジションをお願いしているだけで、通常はダンジョンのサポート「のみ」を司るシステムなワケだし。


(そこは気にしてない。とりあえず、初級の天職は出来る限りレベルを上げた方がいいんだろうな……より多くのレベルアップ回数、機会を得ていた方が良いだろうし。そうすれば少なくとも、転職して上級天職に就いたとき、魔力の最大値が大きくなるっていうのが確定な)


(はい)


(それで……サーマラ様は生まれた時から、この上級天職だったということ?)


(はい。そうなると思います)


(そういう……こともあるわけか)


(非常にまれですが。私の知る情報によれば……大抵はその力を使いこなすことが出来ず、大成せずに終わることが多いとか)


(ああ……いきなり上級っていうのは、厳しい?)


(スキル等、使いこなしにくいモノが多いとのことです。初級で慣れているからこそ、使えるのであって、いきなり応用を求められても難しいというか)


 それはそうか。初級天職で慣れになれた後で、上級に転職するのだ。基礎を省いて、いきなり応用からやってみろっていうのはとっかかりがなさ過ぎる。


「まあ、今後もイロイロと顔を合わせる事もあるだろう。サーマラ。サノブからの依頼があったらよろしく頼む。冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドとしても彼は重要人物なのでな」


「判った。サノブ、よろしく頼むよ」


「こちらこそ。よろしくお願い致します」


 積もる話もあるだろう。と思い、挨拶もそこそこに退散。工房に帰ることにした。


「彼女が……常駐してくれればカンパルラの守りは一枚厚くなるな」


(はい。それは確実に。あの……経験に裏打ちされている直勘は侮れないです)


 あれ、多分、師匠と同じ系列だと思うんだよなぁ……。


(味方にすれば力強いですよ?)


(そうだな)


(緋の月のカンパルラ攻略作戦は、完全に練り直しになっているようですし……準備のための時間が増加したと思えば)


(まあなぁ……)


 城砦都市カンパルラには、幾つかの広場が設けられている。中央に城があり、さらにその周辺は貴族の居住区である「上」地域。「中」地域が市民の居住区で、その周囲が「外」地域で各種商業、繁華街、宿屋、職人街等が配置されているのだが、その地域毎に一つの広場が存在する……と言ってもいいくらいだ。城壁の内側は閉塞感があるので、所々にそう言った開けた場所を用意したのかな? とも思える。


 そんな広場は、大抵、日程毎に市場が開催されている。所謂青空市場、泥棒市場、まあ、誰が何を売ろうと咎められない自由市場だ。


 市場開催時は商人ギルドの管轄となっており、金を払えば誰でも露天出店が行えるようになっている。まあ、パッと見で言えば……フリーマーケットで屋台が多め……だろうか? 


 屋台は食べ物屋が多い。市場の開催日に合わせて移動しているのだ。

 つまり、屋台はそれを商いにしているプロということになる。食べ物以外の……中古武器、防具、古着や、穀物、野菜、装飾品を扱っている屋台も似たような感じだろう。


 つまり真の掘り出し物は……草を編んだゴザの様な敷物を置いて、地べたに座って、目の前に幾つかモノを置いている、冒険者が臨時で出店している中にこそ、あるということになる。


 ……何が言いたいかと言えば、イチイチ【鑑定】しながら見て歩くのは、さすがに面倒くさい。


 最初のうちはね。こっちに来たばかりの頃は、ワクワクで何時間もかけてふらふらしたんだけどね。

 まあ、たまに金に困った冒険者が魔石を破格で売っていたりもするので、ついつい細かく見ちゃうというか。


(……)


「これは……どこで手に入れたんだ?」


 衝撃で、心臓がドクン……と血流を多めに流したのを感じた。


 現在も負傷している冒険者の店。怪我をして金に困って、持ち物を売ることにしたのだろう。その中、出していた品の中に……ここにあってはいけないものが……置いてあった。


「あ、ああ。グノンの西の村で会った餓鬼が売りつけてきたんだ。履き心地が良い靴だって。確かに履いてみたらスゲー軽いし、足にくっ付くしで、そいつの言う通りだったんでな。ちょっと高かったが、買ってやったんだ」


「もう片方は?」


「ここに来る途中でハイオークに襲われてこのざまなんだが、その時に脱げてなくなっちまったんだ……片方の靴だけ良い品だと、異和感がスゴくて戦闘にならねぇからな。泣く泣く売るってなもんよ。頼むよ。気に入ったのなら高くかってくれよ。治療費も馬鹿にならねぇからな」




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