363:弐級
「で、詳細を教えておくれでないかい。アタシが居ない間に何があったんだい?」
「だから、ディーが何とか上手くやったということだ。それよりも、一年以上ダンジョンで行方知れずになっていて、帰ってきたと思ったら、旦那への第一声がそれか?」
「やだねぇ。アタシが死んだとでも思っていたのかい?」
「……まあ、俺達は大丈夫……だと思っていたがな。思ってはいても心配するだろう? そりゃ」
目が大きく、鼻も、口も大きめだろう。ハッキリした顔立ち。ギリギリ美人と言えなくもないだろう。顔だけを見れば。だ。正直、少々目を疑うのは、その大元となっている体つきだ。
女性らしい……くびれた肢体。貴族風のドレスを纏っているので上品な……気品を保っている。
しかし、その全体的な大きさ、ボリュームが……おかしい。現在ハグし合っている……夫である冒険者
が。ギルド長とハグし、キスしている妻らしき彼女は。身長は大体……2メートル半くらいか。全身がしなやかな……筋肉で出来ているかのような身のこなしは、髪の毛の色と相まって、黒豹をイメージさせる。
(シロ……目の前の戦士は……会話からするとギルド長の奥方らしいが……全てにおいて規格外だぞ?)
(彼女は恐らくゲルク・フレーム様の奥様である、サーマラ・フレーム様かと……これは……珍しいですね……巨人種の混血ということでしょうか。巨人種は私の記憶でも既に失われた……神々の戦争時代の人種となります)
(いきなりこの部屋に入ってきたんだけど、なんで気付かなかった?)
現在、俺は商業ギルドの支部長室に通されている。そこで商業ギルドのグロウス支部長と今後について話をしていたのだ。そこに来客でゲルク様が訪れ……しばらくしていきなり、奥様であろうサーマラ様が乱入してきたのだ。
「あ、ああ。サノブ……紹介しよう。我が妻のサーマラだ」
そこで初めて、彼女の目が俺を捕らえた。おおう。こいつは……見た目通りか。冒険者……狩人の目だ。
「サノブ。サーマラは見ての通り少々一般的な貴族夫人とは違うが、カンパルラで唯一の弐級冒険者だ。ディーを含めて我々三人は彼女に何度か命を救われていてな。我々の仲も良く判っている。今まで通りの口調で構わんよ」
俺がどういう口調で話せばいいのか迷っていたのを理解して、グロウス様が先にアドバイスをくれた。ありがたい。さすが商人。
「ありがとうございます。私は商人兼、錬金術士のサノブと申します。冒険者としても登録させていただいている関係上、ギルドマスター閣下には非常にお世話になっております。奥様、今後共よろしくお願い致します」
「……」
目線が。俺を品定めしているのが判る。
「あんた……やるね。というか……この都市の変わりようの大元は……あんたかい?」
……ギクッと。内心、一気にそこまで突っ込まれるとは思っていなかったのでビックリはした。が。まあ、うん。彼女には一切戦う気などないのだろう。怖くは無い。
「いえいえ、私など一介の行商人でして。錬金術士……ということで重宝いただいている次第でございます」
「ん~そりゃ無いだろ」
サーマラの目が旦那であるゲルクと、そしてグロウスに向けられる。
「サノブ。彼女はもの凄く勘が良いんだ。戦士としてだけでなく、迷宮の罠や戦場の動向に至るまで、その勘で切り抜けてきている。正直、我々では太刀打ちできんよ」
ギルドマスターお墨付きか。
「そうだな。ああ、そうだ。サーマラ。彼は……我々三人の隠し札だ。カンパルラが大きく変化したその原因は全て、ディーのせい……今やディーベルス子爵閣下だがな。ということになっているが。まあ、そうだな。その全ては彼にあるな」
グロウズ様が持ち上げる。全てって事はないだろ。この貴族支配の世界で、平民である俺の意見を普通に聞いている領主とその友だちがおかしいのだから。
「ああ、そして……どちらかと言えば、恩人だ。彼が真の錬金術士なのは……本当だ。彼は、クーリアの身体を癒やし、治してみせた。サーマラ。君が無理をして地獄の穴へ向かった、その原因を完治させてしまった。恩人としか言いようがない」
地獄の穴……は確か、カンパルラから領都へ向かう途中……途中と言ってもかなり街道からは外れてしまうが、にあるこの国最大の迷宮と言われている、ローレシア大迷宮の事だ。国名であるローレシアを冠しているだけあって、この迷宮があることからローレシア王国は興ったと言われているくらい、古くから存在しているらしい。
「サーマラ。エリクサーは持ち帰れなかったのだろう?」
「ああ。出なかった。何とか……68階までは降りたんだけどね。そこでライカンスロープの大群に遭遇して……食糧の入った魔術背嚢を奪われてしまったのさ。肉ならその辺の魔物を狩ればどうにかなる。が。持ち歩けない、保存できないのはどうにもならない。帰還せざるを得なかったね」
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