361:対魔術

「それなりにデータは取れた……よな」


 さすがに何となく疲れた……ので、お茶を入れてもらって、ベッドに横になった。


「シロ」


「はい。まずは。現在の……強力な術士の魔力に在り方です。あのクラスの魔術師……自らの身体から発している魔力はとんでもなく膨大でしたが、それはあらゆる部分で制御できていないからだということが判明しました。上級職であること、階位が高かったことから、私の所持している過去の情報と照らし合わせた場合、危険度が高いと判断したのですが……」


 シロは既にこの工房内であればどこででも出現できるようになっている。神出鬼没というか、まあ、便利だ。


 ぶっちゃけ、知らないで今の光景を見たら、座敷童とか、家妖怪なんていう感じだけど。


 さすがにダンジョンクリエイトや【倉庫】なんかは白い管理室まで降りなければ操作できないんだけどね。


「シロは慎重に、警戒してしかるべきだと思うよ。俺がそれをどう判断するかなんだから。確かに、とんでもなく魔力がだだ漏れだったもんなぁ」


「はい。今後もデータ収集は行いますが……複数の類似データが入手出来次第、その辺訂正します」


「まあでも、グレーリくんの……ギャップ……魔力反応と実力に差を感じたのは、ひとえに一つの属性しか操れないことなんじゃないかと思う」


 そうなんだよなぁ……俺自身が四属性を操れてしまうからなぁ……。

 正直、全属性を操れると、その複合から様々な術が用意出来る。当然、各種対応も可能だ。余裕も生まれる。

 あと、俺の魔術は……呪文を必要とせず、無詠唱な上に発動までが異様に速い。比較すると、これも大きいだろう。


「私の情報と比較しても、迷宮創造主マスターの術はおかしいです」


 しょうがないじゃん。それが当たり前だったんだから。


 そもそも、シロが言っていた様に魔術の行使は中遠距離から初見上等で、ドカンとぶちかますのが普通なのだ。狙撃みたいなもんだ。

 それこそ、一騎打ちが如く対峙して、対応策を考えながら戦う……なんてそうそう無いだろう。無いよな?


 結論として、今回【結界】は範囲魔術を防ぐ際に一回使用しただけだ。それで勝ったし、向こうに何もさせなかった。のだが、かなり行き当たりばったりで、ドキドキな展開だった。


 正直、相手よりも高温な火の術を使用して「潰す」ことが可能だったが、魔術の仕組み的に相殺することが不可能だった場合、すかさず、【結界】で動きを拘束して仕留めるつもりだったし。


 それにしても。


「なんにせよ……初めて……本格的に魔術を使う敵と相対できたのは大きいな」


「はい。非常に有効なデータでした。ですが……彼の口から緋の月や宰相関係等の帝国の実情を……引き出すことは出来そうになかったですか?」


「ああ。精神を操って……っていう魔術でもあれば別だろうけど……彼の様な……いや、この世界の戦闘職に就く者は、懐柔は当然、拷問か何かで「心を折る」のも難しいと思う」


「折れませんか」


「ああ。折れるっていうのは、他に自分の戻れる場所が……心の拠り所があるから、折れて楽になりたいと思えるんだよね。この世界の人達はそんな楽で平和で幸せな瞬間や場所をあまり知らないからなぁ」


「命が売り買いされる事も多いようですし」


「熟練の戦士は大抵、孤児だっていう事からも判る。それこそ貴族令嬢のアーリィも幼少期に必死で訓練するしかなかったからこそ、そこまで追い込まれたからこそ、戦って生き抜くための術を身に付けられた感じみたいだし」


「こちらの命が軽いのは確かですしね……」


「等価交換……にしてはキツイよな。年齢的に子どもの頃から過酷な環境に置かれて訓練されないと、強くなれないなんて」


「はい……」


「ああ。そうだ。それでさ。イロイロと見せてもらったけどさ、アレ、上位職である魔術師の使う通常の術よりも……高度だよね?」


「はい。確実に。そもそも……複合言語を使用した呪文なんて存在するのですね」


「知らなかった?」


「はい。私のデータにはございません」


 うちの……エルフ村のエルフ達も知らないんだろうな。


「古代エルフ語ですし。元ハイエルフの残留思念である、AIくらいでしょう。何とか理解出来るのは」


「というかさ。古代エルフは……火の術を使えたのかな?」


「使える者も居たようですよ。特にハイエルフには二属性、三属性を使いこなせる者が多かったですし」


 それも失われたモノのひとつか……。


「はい。魔力が関わるシステムの劣化具合は凄まじいですから」


 広域範囲魔術……を見たのも初めてだったしな。


「最後のアレ、広域範囲魔術でいいんだよな?」


「はい。それで間違い無いかと思われます。あの一帯……しばらく……草一本生えぬ荒野と化しました」


 それにしても……術の単純火力で言えば、俺なんかよりも遥かに強力なハズなのに、そこまででも無かったよな……。


迷宮創造主マスターがおかしいのです。やはり。火の魔術一つにしても、温度差で使い分けるなんて聞いたことがありません」


「錬金術もそうだけどさ。向こうの世界の知識と、こちらの世界のシステムの組み合わせがおかしくなるんじゃないかな? うちのメイドも変に強いと思うんだよなぁ……」


「そう言われてみれば……松戸、森下も……」


 そうなんだよな。あの二人って【鑑定】出来ないから良く判らないけど、アーリィよりも確実に、数段強いんだよな……。最近、ダンジョンで訓練してるから余計に。

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