360:くさい臭いは元から断たなきゃ
表情とか顔付きとか、単騎でここまで攻め上がってくる上に、下部組織である緋の月の者達との連携も出来ていない。さっき雑魚とか馬鹿にする発言してたしな。
グレーリくんはどう考えても、話が通じそうなタイプじゃ無い。これは真実だろう。
なので、まあ、後でちょっと説得してみるけれど~心を折っておくのはいいかもしれないな……と。
なので、ちょっと待機。
待った。約十秒ちょっと。
詠唱完了後、御大層な術が発動し、力が顕現するまで待った。なんか、スゴく悠長だよね。この辺。これが上位職の実力なんだとしたら、その力は……かなり限定的だよな。幾ら強力でも使いヅライだろ……。
ちゅーか、臭そうな狩人風体の男と向き合って、何の会話も無いってちょっと変だよね? 向こうはなんか集中して、呟いたりしているから、大変なのかもしれないけど。
(敵とは……前衛……盾役や攻撃役が対峙して、魔術を行使するのが後衛、術士の役割です。
(目の前にいるじゃん)
(
そっか~んじゃ。あ。発動……した? したかな?
劫火。まさに凄まじい火の嵐が……吹き荒れていた。俺を中心に……ああ。森の木々が豊かな大自然の惠(笑)が。失われていく……。
何の予兆もなく出現した現象。火にはちゃんと熱があり、熱さを感じられ……というか、これ、俺が普通の人であれば一瞬で燃え尽きた事案だと思う。
ね。うん。これはアレだ、やっちまったな~って感じだ。最初からこの森を「捨てる」つもりでいたお前が言うな……という気がしないでもないけれど、まあ、うん。実際にやったのはコイツだからね。
本当に、あーあー。もう。しょうがないなぁ。森で火の魔術を使ったら、こうなるよって、エルフのヤツラが散々言ってたでしょうに(知らないけど)!
「運が悪かったな」
「なっ! 何故だ!」
その何故だ……は、俺がこの火の範囲魔術の只中で……何もしてない感じで悠然と立っている……事に関してカナ? まあ、うん、そうだろうねぇ……これ、騎士なんかが密集した戦場でぶちかましたら、一発で数百名の命が奪えるヤツだもんな。
って、そうしてきたか。きたよな。今の術、初めて使いました~って感じじゃなかったし。
とにかく、絶対の信頼を寄せていた術が、何一つ通用していないという恐怖。不安。そして、絶望。
現状でも俺の情報はそれほど渡してないけどさ。それでも、自分の術よりも上の術を使えそうな気配は感じているだろう。天職的にはグレーリくんの方が上位職だから上なんだけどね。
でもなぁ……さっきから彼の犬の放つ火塊や、彼の舞う炎を彼よりも上の火の術で消し去ったし……そもそも、三匹の犬を火力で押し潰している。
気付いていないハズが無い。
「降伏するという選択肢は?」
出会った時から比べると格段に老いた……その顔に驚愕が浮かぶ。俺の言ったセリフは、彼にとっては予想外だったらしい。
「……それだけは……ねぇな。俺はこれまで何百何千っていう敵や敵で無い者や魔獣を燃やし尽くして来た。中には命乞いをしてきたヤツラもいたと思う。だが、見逃したことは一度もねぇ。最後まで燃え尽きるまで、俺は俺で使いきる!」
ああ。この顔は何を聞いても答えないし、教えちゃくれないだろうな。うん。こりゃだめだ。なんか、割り切ったか様に……術を構築し始めている。
あれ? この魔術、魔力は……なんていうか、ヤツの中から……あ。これは命の炎を燃やし尽くすつもり……か? なんとなく判ったぞ?
(自爆覚悟……ということでしょうか?)
(そうじゃないかな? んじゃこちらも付き合ってあげようかな……)
「スベテノマリョクハホノオトナレワガイノチツキヨウトカノチカラノモントナリココニソノチカラヲシメセヨ!!!」
あ。全部古代エルフ御だ。なかなか、発動が早い。そうか。まだまだ改良があるんだろうな。
彼の前に……炎の塊が……発生した。
ブアン!
力ある炎の塊が俺に直撃する。それ目掛けて、こちらも同じくらいの強さの炎の塊を生み出して、それに正面からぶつける。愚直に……正面からぶつけてやる。
拮抗させた。そして少しづつ、魔力を込める。
「な。なんだと……単純な、単純な魔力勝負で……俺が、この俺が負けるだと? 七神将、炎のグレーリオリザラ様がっ! ふざけるな! そんなことがあって!」
「あるんだよなぁ~それじゃ」
燃える。燃える、燃える。俺が放った火塊がグレーリの炎を食い尽くして、さらに燃え上がる。
「うああああぁぁあああああ!」
熱さを感じるのはいつぶりなんだろうか? 自分が火の魔術師だとしたら、火に対して無頓着になるだろうしね。
ヤツぐらいの力量があれば、滅多な炎じゃ熱さを感じないだろうし。
俺、結構自分自身が全ての五感に対して適当になりつつあるからなぁ。その辺注意していかないと、人としての生活ができなくなりそうだ。
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