359:何分一かを持っていけ!

 彼の生み出している炎は赤。だが、当然、黄色も混じっている。さらに瞬間的には……魔力を込めた瞬間だろうか……白に近付いている……気もする。


 根性入れると強力になるのかな?


 で、こんな訳分からない火、炎に……水を加えればどうなるか。


 はい、そうですね。うん、普通に超瞬間で消滅するだろうね。意味ない。

 さらに。下手すれば水蒸気爆発だ。俺の勘だけど、多分、小規模な爆発になるのは確定じゃ無いかと思う。


 俺が、水生成と、水流操作で、「水壁」を出現させなかったのはそういう理由だ。

 

(というか……迷宮創造主マスター……あまり手を抜くのもどうかと思いますが)


(手は抜いてない……帝国側の情報は本当に不足してるんだ。情報収集大事だろ?)


 こいつだって、もしも、こいつが七番目の神将、十二神将の内の一人だとしたら。相当量な情報を所持しているのは間違い無い。


 ここまで壮大な罠を張り巡らせ、辺境の地と言って良いカンパルラにまでその手を伸ばそうと必死で食いついてくる、偉大なる「蒼の宰相」様の手の内、持ち駒をどうにか、解析したいと思うのは間違っているだろうか?


(間違ってはおりませんが。それにしても。言い訳がスゴイです)


(ちぇ……だってさーもっと上手いことできるとは思うんだけどさ……思いつかなくてさ)


(はい……)


(だってアイツ、薬とか術とか……どんなモノを使っても、有効な情報は引き出せないと思うよ。拷問しても無理じゃないかな)


(それはそうかもしれませんが……)


 なので、こうして、ワザと攻撃を受けて、その力を確認するしかないのである。無いのであるよ!


 それこそ、森の周囲……大きくは……それ以上に被害が広がらない様に絶賛ジャバジャバと雨を降らせている。延焼拡大はこれで防げる。


(この規模の森が焼け落ちた場合、元通りになるまでに百年単位で掛かりますからね……)


 うーん。俺が向こうの世界の砂漠化現象なんかを知ってるからかもしれないけど、こちらの世界で人類の規模拡大を妨げている最大の原因は魔物だ。

 なんだけど、その魔物が跳梁跋扈、人類の天敵として存在し続ける事を許しているのは、この森だ。


 正直、森をもう少し伐採し、開墾して田畑を増加させなければ、人類はじり貧で滅亡の運命から逃れる事は出来ないだろう。


 と。ハイエルフにも関わらず、こんな事を考えている俺が異端なんだろうけど。でもなので。この森が火災によって喪失することくらい、何てことは無い。


 ちゅーか、多分、帝国の強い魔術師が、森を燃やした……っていう感じで言い訳すれば、逆に帝国に対する制裁……は無理だとしても、非難は高まる。正当性はないからね。


 この世界で森を燃やす……という行為がなんとなく禁忌指定されているのは、あれだよな。エルフのせいだよな。多分。森で火魔術を使うのはダメだ……っていうもそこから発生している。

 なので、ハイエルフである俺が率先して「どうでもいい」と言ってるんだから、問題無いよな。うん。そう。問題無い。


グオウ……


 とはいえ。確かにちょっとうざくなってきたな。もう無いのかな? もう、お終いなのかな? これ以上の何かは無いのかな?


 んー。やーめた。とりあえず、これまで必死っぽく展開していた火による盾……を解除した。


「そこだぁぁああ!」


 魔力が尽きた……と思ったのかもしれない。ここぞとばかりに、炎が俺を襲う。凄まじい炎の束が……俺の身体を燃やしてしまおうと複雑に締め付けようと……殺到した。大人気だ。


 煽るか。


「ここまでか?」


「あっ?」


 マスク越しに……声を変え、拡大して……初めて、声を出す。


 グレーリくんがビクッと反応した。


【結界】「正式」で防いでいたのを……発散させるように、魔力を開放する。纏わり付いていた炎が、あっさりと弾け飛ぶ。


 何も……燃えず。何も焦げず。何も変わらずに立っている俺に若干の焦りを感じたのか、反応したまま……動かない。犬も止まっている。


「ああ。君らもいい加減、うざいな」


 犬を。白から青に変わる温度で包み込む。


ギアゲガガガガガガガア!


 断末魔……とはこういう音か……という叫び声を上げながら、三匹の犬が消える。


「なっ……」


「ここまでか?」


「何を……舐めるなよ! 豪炎。爆炎。炎の荒野、荒れ狂う狂乱の炎王。その猛威をここへ。契約セし我が指示するこの狭き地に降臨したマエ。ソレヲナスタメニツイヤスハワガイノチサシダスハソノケツエキ! モヤシツクシコガシツクシタマエ「激炎の大地」」


 うおっ。目の前で、えっと……臭いグレーリくんが……萎んだ。明確に……表面的に乾いてボロボロになっただけでなく、生気自体が失われている。その辺が劇的、一瞬すぎて、最初、小さくなったのか……と思ったくらいだ。


 ああ、アレが……自分の命を捧げる……というさっきの術のキモの部分か。


 そんなまさに命がけの大技が次第に構築されていく。というか、この瞬間に俺が術者を「損なった」場合。展開されている甚大な魔力は……暴走し、荒れ狂い、ここら一帯を吹き飛ばすだろう。


 それでもいいんだけどね。うーん。


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