357:多分臭い
正直近付きたくない。ここは距離を取って、魔術で仕留めたい。
まあ、多分、相手も同じ様な考えだろうけど。
こっちの理由は主に、臭いから、臭いが移りそうだから、だけどさ。
「遠き炎。灼熱の大地。燃えさかるその血に震えるは誓えし下僕共。欠かさずむさぼり、そして消し炭とセヨ。ワレハモトメウッタエル……「来い! ゲランジァ!」」
なんだ? 普通の呪文詠唱じゃ無いな。途中から違う言語になって……最後は、また戻った感じだろうか?
(はい。その様です。
ああ、ハイエルフの残留思念の人は既に俺とシロの間では「AI」となっている。
ということは……結構強力な術っていうことなのかな?
(はい。……とはいえ、顕現するまでにこれだけ時間が掛かっているということは……正直隙だらけなんですが)
そうだよな。この隙に貫いちゃえば……。
獣の皮を被った狩人魔術士の周囲に、三つ。魔法紋が浮かんでいる。ここまで数秒。そして……さらに数秒経過して、次第に魔力が充填され、発動に至った。様だ。
グオウ!
空気が……歪む。熱か。召喚された三匹の黒い犬……魔犬は、黒く見えて、実は薄らと燃えていた。
(アレがゲランジァ……ということでしょうか。魔獣の……炎の番犬、ガルム……に見えるのですが)
そうなの?
(はい。ガルムは地獄の番犬と呼ばれている魔獣で、炎の大地に生息するパイロガルムと、氷の大地に生息するアイスガルムが存在します。あれはその、パイロガルム……かと)
へぇ……。
(というか、属性の無いただの「ガルム」なら、既に深淵の森の中央部へ行った際に何十匹と討伐されてますよ?)
(ん? そんなのいたっけ?)
(はい。ドラゴンの巣窟の遥か手前に、群れていた大きな犬が居たはずです)
(なんとなくしか覚えてないな……犬。でかい犬が結構いたっていうのは覚えてるけどさ。狼と見分けつきにくいしな~)
(ああ、そうですね…無属性のガルムは巨体です。アレの数倍あるかと)
今、目の前に顕現し始めているパイロガルムは大体……人間と同じくらいの大きさだろうか。二メートル弱かな? 背中に乗って……っていうのは無理だよな~っていうサイズ。
(あ。あの大きい犬の亜種がこんなサイズになるんだ。そういえば、顔付きとか似てるや)
(……というか、呪文詠唱、顕現終了まで待ってあげることはないのでは? アレ、顕現中に魔力をぶつければ、消失しましたよ?)
(そうなんだけどさ。とりあえず、どんなことをしてくるのか、確認したいじゃない。帝国の強いヤツの情報、さっぱりないんだから)
(その油断が……命取りとなる可能性もあるのですよ?)
(うわ。なんか、お母さんっぽい発言。シロ。ちょっと歳取った?)
(……がーん……お母さん……も、もう、何も言いません……)
(うそうそ! 嘘だから! シロ! 何時も助かってるから! 俺、他人に何か聞くの下手だからね。うん。ありがたいと思ってるって! ね? 許して。謝るから)
(……ふう……
(お。うおっ)
グアウッ!
三匹の魔物の口から吐き出された咆哮は、炎の形を取って、俺に向かってきた。その規模は……「火球」どころではない。三方向から、俺を逃さない軌道を描いて飛んでくる。速さもかなりのモノだ。
「火壁」
無詠唱で……俺の周囲に火の壁を形成する。
これは単純に、俺がまだ、「水壁」が使えない(存在するかも判らないけど)のと、さらにその上位(であろうハズの)「氷」系の術が使用出来ないのが原因だ。
逆に、【魔術伍】で習得しているこの術であれば、無詠唱、そして無意識レベルのうちに発動し、維持することが出来る。
魔獣から発せられた炎塊は、赤い。ならば、その上……それこそ、炎の色は赤→黄→白→青と高温になっていく。ということは、白い炎で壁を形成すれば……吸収してしまえるはずだ。
ジッ!
案の定、予想通り、犬の口から発した炎塊は、あっさりと消失した。
「なっ!」
狩人の人から驚愕の呟きが漏れる。
「行けっ!」
ああ、彼は自分ではあまり動かないタイプなのかな? ってそれはそうか。そんな話を聞いたわ。
魔術士は高レベル、高ランク、強力な力をふるえる様になるほど、物理的な攻撃方法を取らなくなる。
自分は一点に留まって、強力な術を行使した方が、守る方も楽だし、効率的だからだ。
彼の様に……魔物を召喚するタイプの場合、魔物に自分を守らせて、さらに……自分でも術を行使する方が効率が良い。
「さすが、緋の雑魚共が手も足も出ないはずだ……踊る炎。我が手に宿り宿命を通じて、この地でその舞を披露せん。もて遊び焼きツクセ。ワレノケンゲンヲモッテオソイカカレ!」
お。今度は最後の〆の様なセリフは言わなかったな……。
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