356:接触
「特異対象……異常です。
「というか……それさ、一人で攻め込んで来てるってことだよな?」
「はい。ついてこれる者がいないのでしょう。あ。ここまで直線的に移動出来ているということは……空を飛んでいるのかもしれません」
まあ、まだ、俺自身の「魔力感知」では何も感じない。シロがそこまでいうのだから、膨大な魔力を撒き散らかしているのだろう。遙か彼方でも感じることが出来ないかと思って、頑張っているのだけれど、さすがに範囲外の様だ。
「いま、どの辺?」
「既に領都を越えました」
「領都にも寄らず?」
「……はい。そういえば。領都の緋の月の者達と連絡を取ったりしない様ですね……」
「仲悪いんじゃない?」
「そうで……しょうか……」
「それにしても……いくら帝国は人材が豊富とはいえ、そこまで強力な魔力持ちが溢れてる……んだろうか?」
「それは無いかと思われます。御主人様と同等の魔術士が何十人といるのであれば、全方向に攻め込めんで、正面から打ち破れる気がするのですが」
「そうか。ってことは、なんだっけ、緋の月の十本、トップの十人ってことだと思うんだよな。つまり、あの……」
「アクリセですね。十本の伍と名乗っていたということは、あの実力で五番目と。そうなると……十本の壱だとしても、ここまで強くはない……様な」
「つまり、今、こっちに向かってるヤツは緋の月の十本ではない。それ以上の存在……俺がさ、帝国について知ってるのは、蒼の宰相、緋の月。そして……十二神将」
「十二神将……そういえば……領都の緋の月の連絡員が、ナナシ……ナナシに首輪を付けろ……と。多分、こちら側、
「ああ。そのナナシが……七番目の神将、七神将のナナシだったら?」
「
「無いんだよね……。ドノバン様に聞こうと思って忘れちゃった」
「忘れちゃったなら仕方ありませんね……」
「ということで、俺が出るから。この速さは魔術士なんだよな?」
「はい。戦士だとしても、かなりの身体強化術の使い手かと」
まあ、素直に考えて、空を飛んでるとしたら確実に魔術士だろ。
「魔術士だとしたらさ。範囲系の術を使われてカンパルラの住人に被害が出る可能性がある。手前でやるよ……」
「了解致しました。お気を付けて」
シロが……とても綺麗に頭を下げた。
「既に領都とカンパルラの中間地点手前……でしょうか」
「ああ」
完全戦闘装備は久々だ。強化済みで良かった。
「黒のマスク+2」「強化革の服+2」「強化革のズボン+2」はそれなりに役立ってくれるだろう。「帳の外套」「疾走の靴」は俺のレベルではまだ、強化出来なかった。というか、そもそも、最初から魔道具だもんな。まだ、いじれるはずがないか。
「んじゃいってくる」
着替えてそのまま、窓から飛び出した。
俺の執務室にはカーテンで隠しているが、窓が設置してある。この世界、城砦都市であるカンパルラの城壁に窓なんてありえないし、人が出入り出来るような大きなサッシ系の窓なんて、常識外だったのだ。
何かの拍子にバレたらヤバいので、完全に潰してしまおうかと思ったのだが、昼間の採光が気持ち良かったので最終的には外側に石壁を増設して隠蔽したのだ。
城壁と同じ高さの石壁は、遠目には変形していることに気付けない様になっている。
そこから風の魔術で自らの身体を後ろから押して、大きく跳躍。弾けるように飛び出した。
ホンの少し……とはいえ、数㎞は移動したか。その時点で、シロが指定した方向に、確かに強大な魔力の反応を感じた。
「アレか……確かにデカいな」
(はい。大丈夫だと思いますが、お気を付けて)
「おう」
力を感じる方へ。いや、魔力のある方へ。感じるままに足を向ける。うん、楽で良いな。立ち塞がる木々の合間を抜けて、急接近する。
……向こうもこちらに気がついた様だ。それまで猛スピードでこちらに向かっていたのが……動かなくなった。
(気付いた様です)
「みたいだね」
しばらく。停滞した魔力反応はそのままの位置から動かなかった。回復でもしているのかもしているのかもしれない。
「おうおうおうおう……まさか本当に……居るとはなっ!」
大きいガラガラ声。乱暴な言葉使い。
待ち構えていたのだろう。対峙したのは薄汚れた……野蛮な……とは少々よく言いすぎか。純粋に獣の様な男。ああ、はるか昔、熊や鹿の革を剥いで被り、山に入った狩人の様な……と言えばいいのだろうか。
現実に、仕留めたばかりなのだろうか? 血の滴る獣を引き摺ってここまで走って来たらしい。傍らに、そこそこ大きい鹿が身体を半分削られた状態で投げ出されていた。
(シロ。空は飛んで来て無かった様だぞ……)
(はい。御主人様と同じ様に、魔術的な強化を施して走って来たのでしょう……それにしても汚いです)
うん。汚いし……俺は今マスクに施した防臭機能が効いているので判らないのだが……かなり臭いだろう。
松戸の、もの凄く嫌がっている顔が思い浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます