354:真の力


「歌~でしょうか~ん……」


♪ちか~らを~われに~すばやきてきを~とらえる~ちか~らを~ねじふせる~ちから~を~♪


 何か有名なメロディなのだろうか? 結構勇壮で格好良い。歌詞だけだとちょいバカっぽいが、歌になるとストレートにくるものがある。しかし……いきなりで良く歌えるな。


ブワン……


 そんな音と共に、柔らかな光がアーリィを包み込んだ。これは……あきらかに強化する効果が強くなっている。ちゅーか、これが真の吟遊詩人の力か……。


「あ。ああ……こ、これは~」


「これがアーリィの本当の力だよ」


「わた、私の……ちから?」


「多分、君は。騎士としての能力に加えて、歌を歌うことで様々な強化を行える。詩歌騎士……「朗々たる騎士」って感じかな」


「詩歌騎士……ですか~」


 何だか……もの凄く納得した様な顔をしている。


「そうですか~私は……そんな~だったのですね~何となく納得しました~。幼い頃から……戦いの前に願いを……宣誓すると強くなった気がしていたのです~なのでクセになっていたのですが~さらに戦っている最中、常に、頭の中で歌が鳴っていたのです~今の曲も~何度も聞いていました~」


 ああ、だからなんか慣れた感じだったのか。


「それはいつの間にか、自分なりの最強を求めて、本能でそうしていたんじゃないかな?」


「ええ。歌いながら……戦うのは慣れるまで難しいかもしれませんが~戦う前に歌うことは簡単ですから~」


「うん。なら……再戦してみようか」

 

「はい~なんとなくですけど~イケる気がします~」


(再度、ライカンスロープフロアへ)


(了解。先ほどの「笑顔」のシーン、永久保存しました。バッチリです。女神が目覚めたら絶対に見せねば! さらに……これはという同志で閲覧させていただきます)


 なんだよ……同志って。


(松戸、森下だろ?)


(イエス! オフコース!)


 なんで英語なんだよ……。大した事言ってないからいいけどさ……。


 最初の広間のハイオークはほとんどなにもさせずに討伐に成功した。まあ、さっきもそこまで苦労してなかったしね。


 そして、ライカンスロープの広間だ。


 前回と同じ様に立っているライカンスロープ。今回も最初は人型だ。


♪ちか~らを~われに~すばやきてきを~とらえる~ちか~らを~ねじふせる~ちから~を~うちたおす~ちから~を~♪


 光る。アーリィが発光した。魔力による強化が……身体中を駆け巡っている感じだ。


グバッ!


 ライカンスロープが襲いかかった。


ブバン


 狼男の片手剣が、アーリィの長盾に停止させられる。それでもなお、強引に振り抜こうとする剣を、追随するように盾の面がそれを抑え込む。


 うまい。あれでは多分、何も出来ない。


 形勢逆転と踏んだか、一気に距離を取った。


「見えますね~バッチリと見えます。もう翻弄されることはないと思います」


「それは良かった。再度……来るぞ」


 そこからはもう、アーリィの独壇場であった。


 見えているというのはここまで差が出るのかというくらい、渾身の一撃が叩き込まれていく。

 逆に、ライカンスロープの剣は尽く、アーリィの長盾に吸い込まれる。まるで自分から盾を斬りにいっているかのように、盾で剣が止まるのだ。


 ああ、そうか。レベルが上がったのも関係しているのかな? どうなんだろうか。


グゴウ! 


 咆哮と共に、ライカンスロープが……本来の姿である、獣に近い姿に変化した。前回は、こうなってからの動きに全く付いていけなくなって、最終的に追い詰められてしまった。



ギギギギギッギギッギ!


 長く伸びた爪が……長盾の表面に引っかかり、異様な音を立てる。今の一撃……確実に受け止めて、流し、さらに、一撃をカウンターで返している。


 この姿になってからのライカンスロープは、両手の爪と、牙が武器となる。素早さが大幅にアップするのだが、片手剣は投げ捨ててしまっている。攻撃可能距離は確実に狭まっているのだ。

 

 なので、アーリィはこれまでよりも、至近距離で攻撃を受け止めている。長盾が左右に。そして、上下に。角度を変えて移動する。


 両手の爪が確実に流されていく。さらに、鋭利な牙は……そもそもアーリィに届かない。半身の体が隠している死角から、食い込もうと近付いて来た顔に向かって、丁度、刃が突き出されるのだ。


(圧倒的じゃないか)


(そもそも、吟遊詩人の力を使いこなしておりませんでしたから。それが迷宮創造主マスターのアドバイスで、ある程度完全なモノになりました)


 まだまだ、こんなもんじゃないんじゃないだろうか? 吟遊詩人といえば、周囲の者、パーティを組んでいる者の強化も有名だ。

 そういえば……アーリィの率いる隊は一度も死者を出したことがない……とか言ってたな……。それ、もしかして、彼女の歌で守られたってことなんじゃないかな?


(そうかもしれません。ということは……これまで以上に……)

 

(今戦ってるあそこに行けば、俺も強化されるのかな? まあ、後でいいか。それは)


ザブッ……


 アーリィの剣が……ライカンスロープの首を跳ねた。なんというか……目の前で人が覚醒するのを初めて見た気がする。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る