353:朗々たる騎士

「ご、御主人様……は……ま、魔王……なのでしょうか……」


 ん? どういうこと?


「魔王に見える?」


「み、見えません~」


「あと、魔王なら、君の傷を治したりすると思う?」


「……ま、魔王でもいいです~」


 アーリィの言う魔王っていうのは、魔族の王ってヤツだ。既に伝説化している魔族。深淵の森の向こう側の世界で生息していると思われる者達。


 その伝説の王は人族の国を征服し、全人族を殲滅、又は奴隷化すると言われているらしい。この魔王の話は、ローレシアだけでなく、各国の上層部、貴族の子ども達はみんな聞かされるらしい。


 あれだ、現代日本でも、言うこと聞かないと鬼が来るよ? っていわれているのと一緒か。


「御主人さま~は、まおう~じゃないです~」


「なら……こっちなら良い?」


 さっきと同じくらいの【結界】「正式」を……白で作成する。


「あああ! し、しろは~聖なるいろ~なので~女神の御使いです~……勇者様です~」


「色で真逆だな」


「ふふ。ふふふ。ごしゅじんさま~が~ゆう、勇者さま~でも魔王様でも~もーどっちでも~! くふふふふふふふ!」


 おお。そんな笑い方は初めて見たな。ああ。そういえば。こっちの世界の人ってあまり笑顔を見せないな。にやりって感じで笑うのは見たことあるけど。


 そう考えれば、お笑いとか、バラエティ番組とか、そもそもTVもラジオも無いもんな。娯楽が少ないのか……。


「うん、笑顔はいいな。やはり」


「え? えう」


 気がついたのか、アーリィが顔を真っ赤にしている。


「そうだな……俺は……魔王でも勇者でもないんだけどさ。この世界に……今のアーリィみたいな笑顔が増えるといいと思っている」


「……そ、それは……ステキです~。そんな目標、これまで一度も聞いたことがありません~」


「まあ、そんなわけで、一度戻るよ?」


(シロ)


(さ、先ほどの御言葉、感銘を受けました。録画の保存を希望します!)


(……そ、そんなに?)


(希望します!)


(え、まあ、い、いいけど……)


 一瞬で管理室に戻る。


「え? あれ?」


名前 アーリィシュ・ケラオ・シャラガ

天職 吟遊詩人

階位 38

体力 81 魔力 56


 ん? あれ? 何となくだけど体力の伸びが悪いな。ちょっと待て、俺。冷静に考えろ……。


 アーリィはこれまで、吟遊詩人にはあり得ない訓練を積んでその結果レベルアップしてきた。【剣術】あたりの天職とは関係無い習得スキルがあるだろう。

 さらに。最初にアーリィを【鑑定】したときに感じた違和感。「吟遊詩人なのに体力あるな……」だ。

 イメージ的に吟遊詩人は、中衛。体力はそこまである天職じゃ無いと思う。この辺、このシステムを作った女神の常識は、俺のゲーム知識に近いのは何となくだが判っている。


 このゲーム……いや、女神の作った「俺が知ってる」ゲームに良く似た成長システムは、


1:経験値によるレベルアップ

2:熟練度による各種パラメータアップ

3:経験によるスキル習得


 なんていう非常に自由度の高い所謂複合型だ。

 

 もしかしたら、もっと違う成長システムも用意されているかもしれないが、現状俺が判っているのはそれくらいだろうか?

 俺と同じシステムが……こちらの世界の人達、それこそアーリィに適用されているかどうかは……本当の所は判らない。作った人、あ。いや神は寝てるし。でも、同じだとして。たぶん同じだろ。うん。


 今回のパワーレベリングでアーリィの体力が上がっていないのは非常に問題だ。


 騎士としての訓練で、レベルアップ時に強引に体力を伸ばしてきたのだとしたら、俺はその体力を伸ばすチャンスを奪ってしまったことになる。


(それは違うかと。多分ですが、彼女は既にレベルが上がりにくくなっていたハズです。この世界の者達のレベルアップのスピードは御主人様と比較してはいけません)


(ああ。数年かけてやっとレベルが1上がる感じだっけ)


(はい。彼女は……ちょっと前にレベルが上がったばかりです。なのでネクストレベルに到達するには数年、いえ十数年かかる可能性がありました。それをパワーレベリングとは言え、迷宮創造主マスターこんな短時間で強引にレベルアップさせてあげたのです。感謝されることはあっても、非難されることは無いでしょう。当然、悲観する必要もありません)


(そうかなぁ)


(これ以上、上がらないと思っていたレベルが、一気に上がるのです。例えそれが吟遊詩人のレベルだとしても、それは有用にしか働きません)


(そういうものか……な)


(はい)


「御主人様、なんか~強く~なった気が~」


「ああ。多分、それなりに強化されたと思うんだけどな」


「はい~なんとなく~「力を、我に。我に力を」」


 多分……歌が本格的に発動した。ん。さすがに寸前よりもかなり強化されてる気がするな。歌うことがかなり重要ってことか。


 なんていうか、俺が吟遊詩人に転職して、歌を調べて教えるつもりだったけれど、このアーリィの独自システムは崩さない方がいいんじゃないだろうか。


 まあでも。


「アーリィ。その鍵言キーワードなんだけどさ」


「あ~おかし~です?」


「いや、もの凄く良いと思う。それには魔力が乗ってるから、もっと使った方がいい。本当ならもっと長めに、ちょっと曲を付けて、歌っぽくしてもいいと思う」


「歌? 曲?」


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