351:記憶の扉

 うん。見事だ。この場で戦うのは初見なのに、安定感すら感じられた。多分騎士団で単騎討伐出来る者は彼女以外にいないだろう。


 とはいえ。このレベルで満足していてもらっては困る。


「よし。では、次」


「え? まだ〜続きが〜?」


「最初の大広間だからね。次はスピードタイプとの対戦かな」


 この部屋は松戸、森下フロアでお馴染み。ライカンスロープを一体配置してみた。ちょっと強い……かな。ハイオークよりも。


レベル51 ハイオーク M 獣族

レベル64 ライカンスロープ S 獣人族


 レベルが13も違うからなぁ……。でも、このレベル帯で人間と同じ様な体格でスピードのある……ってなると、コイツしか選択肢がないんだよなぁ。

 と、いうか、魔物、モンスターはレベルが上がるにつれて、体が大きくなる傾向にある。強大な膂力や、破壊力ある技、魔力を使いこなすには仕方ないのかもしれないけど、対人戦を前提にした訓練の場合、いまいちそぐわないのだ。


 俺が経験値欲しい時にビジュアルが選べるのはちょっと嬉しいんだけどね。


 しかも……。


「あれは……冒険者……いえ……獣人?」


 ライカンスロープの特殊能力に、「人型から獣型」への変化っていうのを発見したのだ。戦闘中など途中でコントロールすることができないが、初期配置時には人型か獣型かを選ぶ事が可能だ。


 ということで、現在、広間の中央に立っているのは人型のライカンスロープ♀。貫頭衣……の様な服を頭から被っている。片手には抜き身の片手剣。


 雰囲気だけで獣人と判ったのはスゴイな。


 アーリィも剣を抜き。間合いを詰める。


 ライカンスロープの顔が上がった。目立つのは犬歯。そして……赤く光る瞳だ。魔物となった獣人は、赤くなる……のだそうだ。そう言われてみれば、ライカンスロープタイプの狼男系の獣人には会ったことがなかった。


「……魔物か」


 なんでも、狼男系の獣人は、一部が遙か北西の方の国で生活しているらしい。さらに、通常は人型で生活しているため、ぱっと見は判らないそうだ。

 獣化した姿は戦闘時くらいにしか見せないんだそうで、切り札……ということもあるが、シロが知っている記録でもかなり古い時代に、外見的な事で迫害を受けたのが原因らしい。

 

 というか、そんな狼男系を中心とする獣人は、魔族の生息域では普通に「魔人」の一員として生活し、国を形成していた……様だ。これも現在ではどうなのかは判らない情報だけど。


 人族と魔族の違いは、魔物化するかしないか? の差だという。そのため、世界は、一番最初に、人とそれ以外で分かれたのだそうだ。


(女神は、人とそれ以外の種族……魔族の生息域を、深淵の森で区切りました。それは今でも続いています)


(深淵の森の向こうには魔人達がいるハズなのね?)


(はい。カンパルラ……いえ、ローデシア王国で様々な情報収集を行っても、魔人達の情報が全く無いことから、その分断は完璧だった……様です)


(それさ。今、どうなってるのか、不安じゃ無い?)


(そうなのですが……文明サイクルが人族よりも魔族の方が長い=長寿命の種族が多いので、こちら側よりも遥かに古い生活様式を維持している可能性が高いです)


(つまりは、シロの情報で予測可能だと?)


(はい。正直、あまり……その……人族の道徳、倫理、風俗、と相容れない部分が多く、予想ですが、迷宮創造主マスターにとって不快な相手となる可能性が高いです)


(ふーん)


(何しろ……自分たちの事を、魔人ではなく、真人、真実の人族と呼称していますし。世界は真人が支配し、それ以外の種族はすべからく奴隷化されるのが当然と……いう考えが主流でした)


 というかさ。


(世界の半分以上はその魔族、魔人の生息域……なんだよね? なんで今、このタイミングでそんな情報をぶっ込んできたの?)


(申し訳ありません。ライカンスロープの解説を行っているうちに、連鎖して、獣人の情報、そして、獣人は魔人の生息域に多いという情報、さらに、魔人の情報……が、当時の今となっては……な情報となりますが、追加されました)


(それは思い出した……ってこと?)


(はい。人族でいえばそうなるのかもしれません。私のアクセス権限がワンランク上がった……いいえ、その辺の情報が詰め込まれている「新」フロアにアクセス出来るようになった……感じでしょうか)


 正直、今からアーリィがライカンスロープと戦うわけなんだけど……それどこじゃない気がするんだけど。深淵の森の向こう側ってイロイロと探らないと、何かあったときにやばいんじゃないか?


(畏まりました。どこまでやれるか判りませんが、スカート(母艦)を増産し、アンテナチップをばらまいていく方向で情報収集を開始します)


(お願い……それにしても……ああ、そうか……もしかして女神の神力が回復しつつあって、それに伴って魔力とか、様々なシステムが復旧し始めていて。シロ自身が気付いてなかった機能が目覚めたりしている……って感じかな?)


(そう……なのでしょうか? ですが、女神の休息の単位は千年程度だったハズです。そう簡単に復旧するとは……)


(確かに。なら、何か理由があるのかな……)


 なんていう会話があったりして。


「あ。ごめん、良いよ。戦っちゃって」


 ハイオークの時と違い、剣を抜き、盾を構えたアーリィが……ジリジリと慎重に近づいて行った。


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