350:ハイオーク単騎
「はい、んでは、行きますか」
「はい~」
なんとなくアーリィに説明はしたが、伝わっているかは微妙だ。彼女は片手剣に長盾、全身鎧で完全武装化している。
シロに迷宮……アーリィ用に作成したエリアに移動してもらう。
「ここは……というか、御主人様は~やはり~凄まじい御力を~」
「ただの商人……いやそれはもう、通用しないか。ただの商人兼、錬金術士だよ」
「真の錬金術士~は……多分、大陸中で一人もいません~」
アーリィにはちょっと説明した。昔、追われて隠れ里で暮らしていた錬金術士一族の出身で、「イロイロ」と受け継いでいるのでイロイロと出来る。と。
特製ポーションは自分とエルフ村の融合の産物ってことにしておいた。
アーリィは「判りました~何でも~いいです~」と言っていた。
「このダンジョンを……御主人様が創ったのですね~スゴイです~」
「とりあえず、あの広間にはハイオークが一体。いける?」
「いけ~る~と思います~。この装備~なら~」
スチャっと、腰から剣を抜き、盾を構え直す。アーリィはこれまでに騎士団でのハイオーク戦はかなり経験しているそうだ。
深淵の森周辺の森には、ハイオーク、ハイウルフが生息している。周辺の森は魔力が若干薄いためか、ほぼ単体で活動しているので、騎士が囲んでタコ殴りにするのだという。
ちなみにハイオークやハイウルフが群れで行動しているのと遭遇した場合、基本一旦退いて、罠を仕掛けて討伐、又は追い払う方向で対応するらしい。不意の遭遇戦はまず撤退……ってそれ騎士団としてどうなのよっていうね。
「んじゃ倒そうか」
「女神よ、我に力を」
あ。今、アーリィが魔力を纏った。これは……。
(はい。天職、吟遊詩人の……歌だと思われます)
(ああ。いいね。そうか。アレで魔力を纏えば、あの鎧の魔道具機能が発動するか)
(彼女は力ある言葉を口に出すことで、その力を発動している様です)
(それにしても……歌にしてはかなり短縮形だよね。アレで発動するんだ)
(
(聞いたことないじゃん……)
(いえ、
(つまり、ちゃんとした歌を唄えば、アーリィはもっと強くなるってことね?)
(ええ。ですが、カンパルラに来て、天職、吟遊詩人として活動している冒険者や戦闘曲など聞いたことがありませんね……)
(俺が転職すれば……呪文と一緒で、曲が判る?)
魔術士になって【魔術】スキルを得て、
【魔術壱】
地:大地操作
水:水生成 回復水
火:着火 火球
風:風刃
って感じで呪文が頭に入ってきた。
これと同じ様に歌も使える様になる……んだろうか。
(はい。多分、そうかと思われます)
(了解)
なら後で一度、吟遊詩人になって歌をメモって曲を覚えて……って録音すればいいか。
ハイオークは棍棒を装備している。広間内を一定の範囲で移動している。
そこにアーリィが急襲した。動きはそこまで速いわけではない。歌や魔道具で速度強化してないしね。
グンッ!
空気の圧力が感じられる位に勢いのある一振り。木製の荒削りな太い棍棒が無造作に、アーリィを押し潰そうと襲いかかる。
ゴンムッ!
重い音が。震動として伝わる。果たしてアーリィは長盾を斜め上に振り上げ、振り下ろされた棍棒をその流れのまま、流していた。音は、棍棒がその勢いのまま、広間の床に打ち付けられた音だ。
ザッザッ!
肉が斬り裂かれる音。アーリィの片手剣がハイオークの足に傷を付けていく。
(あれ多分、普通の剣だと達人でも斬れないよね?)
(そうですね。オークではなくハイオークですから。表皮はかなりの硬度ですから、あんな風にズバズバ斬れないハズです)
+2にしたかいがあったって所かな。あ。そうか。さっきアーリィは力を求める言葉を呟いていた。それも関係しているのか。
グビン!
今度は横殴りの棍棒を、長盾が受け止めた。横殴りをほぼ、そのまま、正面から受け止めた。
スゴイ……。巨体がバッドでフルスイングしたのを、女性がパンチングミットで完全に封殺したのだ。
足が広間床をキチンと捉えている。黒鋼の脛当+1が良い仕事をしている様だ。
+1に強化することで、魔力を帯びることになり、足場を安定する効果も向上するらしい。
長盾で受け止めたそのままカウンターポジションに足を踏み込む。剣が反撃に向かう。棍棒を持つ腕を削り取る様に、突き立てる。斜めに突き刺さった剣を途中で回転させ、角度を付けて、そのまま、斜め下に振り抜いた。
ガオッ!
喉鳴りだろうか。ハイオークの口からいかにも痛いといった声、音の塊が漏れた。
そのまま、アーリィが踏み込み、ハイオークの背後にポジションを移動する。
そして……首元に刃一閃。
ガパア
溢れ出る血液。斜めに斬り裂いたその刃は、既に鞘に収まっている。
ハイオークは力が抜ける様に膝を突き、そのまま、前方に倒れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます