347:疲労軽減

 アーリィがカンパルラに無事到着した。エルフのえーと。ガサツだからメイドはちょっと向いてないと外周り、荒事に回された二人、キルオアとフェリアか。その二人を護衛に帰ってきた。


 これまた、緋の月が絡んできていて、アーリィだけでは危険だったようだ。


 というか、マジデうざいな。優秀すぎて本気でうざい。緋の月。国の内情を探る力に長けている上に、ちょっかいを出す力加減もわきまえている。何よりも自分たちの力は最小限で、最大の効果を生み出そうという、潜入部隊のお仕事を下っ端まで理解している。


 マジ潰す。


 というのは顔に出ないように注意して。


「まあ、まずは休むといいよ」


「はい!」


 冒険者の二人はダッシュで温泉に向かった。


「アーリィも入っておいで」


「ありがとう~」


 二人に守られていたとはいえ、さすがに疲れた様だ。何だかんだで馬などの乗り物を使わなかったみたいだし。


 エルフがなぁ……。風魔術の使用で、高速移動が可能だから、ついつい自分の足で「森」を移動するんだよね……。


 まあ、俺も馬を使うよりも自分の足の方が速いから、走ってるけどね。

 この国、いや、多分この世界は道が悪いからなぁ。馬車、正確にはマール馬車がどんなにスピードを出せても、乗り心地はいまいちだし、限界がある。それに、ルートが確定しているので乗り込んだところを見られた時点で、先回りして襲われやすいのも確かだ。


 なので、走れるのなら……街道を使わずに走る方が何かと融通が効くんだけどね。護衛しているお偉いさんに……「走れ」とは言えないし、現実問題、走れないよね。カンパルラでも有数の能力を誇るアーリィだからどうにかなったんだろうな。

 彼女に風の魔術をかけて、強引に走らせれば、エルフほどとはいかないまでも、そこそこのスピードがキープできたハズだ。


 街道ではなく、その周辺の森を横断するっていうのは、隠密行動を行う場合には非常に有効だと思う。高速移動している姿を見られにくいというのも良い事だと思う。


 でも、なんで森の方がいいんだ? と聞くと全員が全員、「好きだから!」としか答えないのには参った。「速いから」じゃないんだよなぁ。笑。


 全員が全員、感覚に身を任せすぎだろ。エルフ。もっと知性的な種族じゃ無いのか? アレだ、俺のイメージだとINTが高いんだけど。ボーナス64狙ってたな~。

 まあ、実際に、種族への地形効果というヤツで、森だと平原や都市の数倍の力が湧き上がってくるらしい。そういうのちゃんと検証しろよ。人族よりも遥かに長命なのだから。


 まあ、ともかく。移動スピードはとんでもなかったにしても、アーリィは貴族、あ、元貴族だし、姫様のお供をしていた関係で、移動時に馬車以外を使用する機会はなかったんだと思う。 


 アーリィはかなりくたびれた背中を見せながら、風呂場に向かった。

 

「それで? どうしたい? ふざけた提案をしてきた王妃とその取り巻きのバカ共を全部、ぶっ潰す?」


 現在、温泉から上がってきたアーリィの全身をマッサージしている。工房に彼女の部屋は用意させておいた。そこにマッサージ台を持ち込んで寝かせている。


「きもち~いい~です~ん~え~と……どうでもいいです~もう。なんか、もう、本当に~いやになりました」


 ああ、うん。そうだろうね。さすがになぁ。恥知らずというか。

 王族としてチヤホヤとされ、税金で散財してきた……というのであれば、まだ判る。民からの搾取にも関わらず、その義務を放棄する……というのであれば、彼女の我が儘……とたしなめることも必要だろう。


 そうではない。からね。むしろ、彼女は王族としての恩恵など何一つ受けていない。確かに、傷痕があることで少々居心地は悪かったというが、実家はそれほど大きな家では無い。財力も乏しい。彼女にしたことに関しては仕方が無い状況だろう。

 事実、彼女は実家に対してそれほど憤りは感じていない。今回の王都行きも、子どもの頃、何とか傷痕を消せないかと尽力してくれた両親に「治ったよ」と伝えに行きたいと言っていたのだから。

 

 御両親や、兄弟、使用人に至るまで、非常に喜んでくれたそうだ。傷痕に関して誰もが心苦しく感じていたのだろう。


 まあ、大人になってからの不干渉、腫れ物を扱うかの様な対応も許容範囲内だ。


 それを台無しにしたヤツラが居るわけだ。


「どうでも~いいのですけれど~ああ~御主人様~きもち~いいです~そこが~ああ~」


 というか、帰還したら彼女は俺の事をサノブ様……と言い始めた。同行した二人の影響だよねぇ。まあ、サノブ殿っていうのもアレだよなぁ~と思ってたけど。そしたら、「既に私は平民ですから何もおかしいことはありません」、松戸と森下と同じ呼び方にします……と、御主人様に落ち着いてしまった。


「ああ。じゃあ、うん。アーリィは許すってことで、こちらから仕掛けることはしないけれど……カンパルラまでヤツラの手が伸びてきたら……消すよ?」


「お。おまかせ~します……そこが~ああ~とんでもないことに~」


 この世界、ストレッチとかマッサージなんて概念がないからなぁ。何となく準備運動として、ゆっくりと素振りをするくらいだろうか。

 だからなのか、彼女にマッサージしてみたら、効果抜群。感じ過ぎちゃってもう、ダメになり始めている。


 まあ、ね。この世界の人間では無い松戸、森下ですらメロメロだからね。俺のマッサージテクに。


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