346:王都脱出行②
サノブ様の部下が……仕掛けました。多分、エルフでしょう。外見は私達とそう変わりません。森の民らしく、色白で細身……特徴的にはそれくらいでしょうか。人族の冒険者、弓術士と言われれば、信じてしまえる感じです。
放たれた矢は二……いや、四本。二人じゃ無かったのでしょうか? 二本同時に放った? そして、手練の闇の者二名の首辺りを貫いた? とんでもない技量です。
私を始め、ある程度の技量がある者は、放たれた矢を斬り落とすことが可能ですし、最低限、避けることが可能です。
ですが……あの二人の矢は違わず、首を貫いています。確実に何かの技でしょう。
そういえば、矢を放ち、矢が飛ぶ音が……聞こえません。
ああ。それが避けられない理由でしょう。アレは……最初からそういうモノだと判っていれば、どうにかなるかもしれませんが……死角から攻撃されたら、何一つ出来ずに貫かれてしまうでしょう。
北にいた班? の人数は……全部で十名。既に四名が仕留められていますから、残り六名。あ。さらに二名。首と胸に矢が刺さりました。残り四名。
残り……あ。あの冒険者風の男は。私に声を掛けてきた他国の……いえ、帝国の間者、緋の月の者が居ました。
ギィゥン!
既に抜いてあった剣を振り下ろします。短剣で食い止められましたが、お構いなしで踏み込み……肩から血が溢れ出ます。刃を引くように食い込ませて、傷口を深くして離れました。
「ちぃっ! 何故こっちに!」
まあ、うん、そうですよね~私もさっき二人に会わなかったら北へは向かって来なかったんですけどね。
「蒼の宰相に良いように掻き回されるのは、気に食わんからな」
ビクッ……と、顔見知りの者とその隣の冒険者が、ほんの僅かだが反応しました。
「貴様ら二人が緋の月か。我が国でデカいお顔をしてくれたな。貴族共を煽ったのも……お前らだな」
傷を負った、対峙している方じゃないヤツが飛礫を放ちました。
シュガッ!
矢がその飛礫を貫き。向こう側の大木に突き刺さり……。
ドガッンっ!
うおっ! ば、爆発しました。もし、私が剣で切り落としていたら……危なかったかもしれません。
ドヒュッ!
矢が……さっきの飛礫を投げて来た者の首から生えました。
「情報は~? 必要なのかな?」
「必要ありません。障害を排除しましょう」
と、言われたので。血を失いながらも立っていた緋の月の者の首を刎ねました。
「多分、緋の月の監視担当だと思われる者が……奥に居ましたが、それも仕留めておきました。では、カンパルラに急ぎましょうか。サノブ様がお待ちです」
……そうでしょうか? 待っていてくれるのでしょうか? それならば嬉しいのですけれど。
二人は優秀でした。
明らかに……騎士団の周辺警戒では斥候隊のトップよりも、戦闘面では各騎士団の一番隊のメンバーよりも、そして……相手に気付かれずに敵を仕留めるという暗殺面では私の知っているどの闇の者よりも。
この二人をして……サノブ殿は畏怖すべき対象であり、絶対者のようです。私が少々気安く、サノブ殿の事を語ってしまうと、二人は固まってしまうくらい。
「そ、そんなに~その、サノブ~殿は~おそろ……恐ろしいものなの~?」
「……」
「あ。キルオア、帰ってこい……す、すいません。サノブ様の事を思いだしたら、つい、意識が遠くへ……」
「そ、そんなに~?」
「お、お優しい……お優しい方だと思うのです。思うのですが。あの方が率いるようになってから、我が村は……著しく発展しましたし。飢えなくなりましたし……何よりも、美味しいモノが食べられるようになりましたし、その、外へ……強制的にですけれど、外で活動する者も多くなって、様々な情報を得るようになりましたし」
……饒舌です。かつて無いレベルで……フェリアが喋っています。キルオア&フェリアは寡黙な仕事人、仕事の出来る冒険者といった感じで、必要では無いことにほぼしゃべらないフェリアが~。
「あ。ぶーときゃんぷ……がー。あたまのうらがわでー常にくりかえしてーそのーとんでもないことにー」
「キルオア! しっかりしろ」
「う、うん、する。しっかりする。じゃないとうん、ハイオークの群れが……あそこに投げ込まれ……ああ! ああ! 腕が!」
ガスッ!
キルオアのお腹に、フェリアの拳が食い込みました。
ガハッ! と体がくの字に曲がって、嘔吐……はしませんでした。キルオアの表情が普段通りに……戻りました。
騎士団などでもよくあるのですが……今みたいな気合入れ、気付けが普通に行われている……感じがしました。この人達は……一体。
!
その、つい今の瞬間まで呻いていたキルオアが、いつの間にか構えた弓で、矢を放ちました……。
風の魔術の応用で、弓や矢、そして挙動の音を消しているんだそうです。そんなことが……エルフにとっては当たり前の技術らしいのですが。
既に常識が違うのでしょう。我が王国……だけでなく、人族には魔術の使い手がほぼいません。
稀に発見される魔術の使い手は、尽く魔術士団に編入され、様々な要所で活躍する事になっています。
が。
人手が足りないためか、騎士団の幹部ですらその姿を見ることが無いありさまです。噂では、現在王国魔術士団には三十名程度しか在籍していないとか。
そんな稀少な魔術を……まあ、あの、サノブ様ですからね。あそこまで圧倒的に魔術を使う方が率いているのです。生半可な実力では無いのでしょう。
「やはり。斥候です。広範囲に張り巡らされてますね」
「これも緋の月の入れ知恵なのでしょうね~。王権派の貴族にここまで兵を上手く使える者がいるとは思えないので~」
「はい、そのようです。というか、いまの斥候は、純粋に緋の月の者だったようです」
我が国の闇の者よりも遥かに高い実力を持つ緋の月の者達を、何も無かったかの様に次々と仕留めていく二人。
よく考えれば、あの傷痕をたった二日で完治させたのですから、既に恐れ多い状況だったのかもしれません。なので今さら……なのですが、ここに来て、サノブ様のことが若干怖くなってきました。
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