345:王都脱出行①

「ん~しつこいですね~」


 副団長を離職し、爵位を返上しました……そのせいで、まあ、当然ですけれど、王権派に付け狙われているわけです。


 この国の貴族派閥は複雑で、王権派、貴族派、議会派、中立派と多岐に渡ります。


 容姿から特定されないようにと、長かった髪も短くしました。幼い頃から顔を隠していたため愛着もあったのですが、手入れするのが面倒です。特に旅路では致命傷になりえます。


 長年使う事の少なかった給金も冒険者ギルドのギルドカードに移してあります。他には財産らしい財産もなかったので、冒険者装束に身を包み、剣一本と共にコッソリと騎士団宿舎を出ました。


 姫様はムチャをされそうだということで、王城で責務に追われています。私のことを知るのは多分、数日後となるでしょう。そうなるように手配しましたし。


カキッ


 ふう。さっきから……しつこい。離れているから大丈夫だと思っているのでしょうか? 歩みは止めずに周囲を確認します。休むのは王都を離れてからになりますね。


 さっきから数回飛んできてるのの得物は吹矢ですか。毒針による暗殺狙い……。同じ王族同士とはいえ、王妃様の命を拒絶したのですからね。

 王権派にしてみれば許せないのでしょう。相変わらず無駄な事をします……。私に向ける力があるのなら、他国からの防衛に力を尽くせば良いのに。


 それにしても、初手から薄汚い暗殺法を選ぶなんて……。外傷はなるべく少なくして、変死としたいのでしょうね。殺されたという事実すら消し去りたいらしいです。


 毒針、毒礫、吹矢や投石、印字打ちの技で狙ってくる感じでしょうか。間違えて私以外に当たっても……お構いなしっていうことね。


「最低ですわね~」


サクッ


「なっ!」


 身を隠しているからといって安心しているののが悪いのです。さりげなく、刺した傷口に、先ほどいただいた毒針を注入します。この程度の刺客であれば、視界を外すくらいは何でもありません。でも……。


プチッ!


 うん、三方から見張られてしまうと、こうして、攻撃した隙を狙われるわけですね。


 飛んできたモノを剣の柄で払い落とすと、急ぎ王都を外れました。


 とりあえず、直接カンパルラに向かう様な事はせず、幾つかの街道をまたぐように移動します。これである程度は諦める……かと思ったのですが。

 

 彼らは今回、かなり張り込んだ様で、待ち伏せしている者達が居たようです。何班にも分かれて、各街道支道で待機していたなんて……そんなにか……というのが正直な所です。


 ……いえ。どこか……おかしい? そう言えば、数日前に私に接触してきた者達は、かなりの手練でしたが……あの者達が向こうに付いているとすれば、この分厚い陣容も理解できます。


「あれは何者でしょうか……」


「帝国の。緋の月の者達です」


 はっ! とした。というか、私がここまで何一つ感じられなかった? 


「アーリィシュ様。私達はサノブ様にお仕えする者です。マツド様、モリシタ様の部下と言えば理解いただけますでしょうか?」

 

 一瞬、殺意が漏れてしまった。しかし……見事な隠形……だ。愛しき人の名前を伝えられて一気にそれがしぼむ。


「サノブ殿が?」


「はい。アーリィシュ様を無傷でカンパルラにお連れする様にと。私はキルオア。あちらがフェリアです」


 いつの間にか二人の女性冒険者に近付かれていた。


「緋の月……か?」


「アーリィシュ様に先日異国の者が接触してきたはずです」


「ええ~。確か、某国の幹部候補生としてその腕を生かしてみませんか~とかそんな感じだったような~まあ、正直どうでも良かったので即断したのですが~」


「彼らは帝国の暗部ですが、実力者に声をかけて、自国へ勧誘するという任務も請け負っているようです」


「それはそれは……大変なお仕事ね~」

 

 実力を認められたという事で~嬉しい事ですけど~。


「ですが、まあ、なびかずに拒否された場合……キッカケがあれば消す……という任務も」


「あらあら。じゃあ、王権派に便乗して?」


「はい。敵に回ったら厄介だから、ついでに……ということのようです」


「何って……帝国の暗部にいいように暗躍されてるのがもう……」


 うちの暗部は何をしているのかしら~。


「サノブ様が、ぼんくら王族とか貴族だけならどうにでもなるだろうけど、緋の月も便乗してくると面倒かもだから護衛する様に、と」


「判った~。何か……君らを信用するための合い言葉はあるのかな~」


「……あの……アーリィシュ様の左胸の端には小さいホクロがあると……さ、サノブ様が言えって。疑われたら」


「……わ、判った~信じるしか~ないの~」


 傷痕から蘇った乳房にあったホクロの事を知っているのは彼だけだ。あ。マツドにも見られたかもだけど。


「北にいるのが……緋の月のメンバーで構成された班ですね。どうしますか?」


「気に入らないのよね~自国で我が物顔で動き回る、他国の暗部って~」


「判りました。では北を急襲します。仕掛けますので、連動お願い致します」


「え~そうなの~?」


 既に二人は北へ向かっている。即決即行。なんという素早さだろう。サノブ殿の~部下……さすが~。というか、あの人は全部……判っていたんだろうか~。


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