341:+1作業

「これは……御主人様、切れ味がおかしくなっています、とんでもないです」


「この薄鋼の鞭……でしたっけ? これもとんでもないですね……。なんで、アレで首が飛ぶんでしょうか……頸動脈辺りをある程度斬り裂ければ御の字と思って仕掛けたんですが」


「いや……二人ともお見事だったよ。というか、練習はしてたとはいえ、いきなりの強敵、しかも複数の職持ち相手との戦闘で、圧倒っていうのは……凄まじいと思うんだけど」


「全ては武器の性能のおかげじゃないでしょうか?」


「いやいやいや。使いこなせなければ、ただの固い両手剣と……そっちなんて、薄い金属の鞭……ちょっと力の入れ方を間違えれば、折れ曲がって満足に敵を傷付ける事も出来ない代物のハズだぞ?」


「まあ、確かに……この鞭が扱いづらいのは確かなのですが……なんとなく……その、鞭の先の方の刃の感覚が伝わってくるというか」


「そんなスキル……あるんだろうな……多分。鞭が向いてたのかもしれないし……それにしてもスゴいな……」


 ちなみに、彼女達の来ているメイド服の防御力は低い。…厚手の布の服と同程度でしかない。正直、ハイオークの攻撃を受けたら、一撃で吹っ飛ばされるだろう。


 あれ?


 メイド服……【鑑定】。


メイド服


 ああ。そうか。簡略化してたな……そういえば。全部【鑑定】。


メイド服:中級品:主に女性使用人、側仕えの着用する服。様々なデザインが存在する。


 アイテムの説明文があまりにもそのままで、あまり面白い物でも無いから非表示にしてたんだった。


 うん、何も……他愛も無い装備品だ。


 このメイド服を+1に出来ないだろうか……。


(出来ますが……本来あまりやらない……分野……いえ。見つけました。錬金術による素材錬成。それを装備品に仕立てるというのは、比較的普通の事だったようです。ですが既製品をそのまま強化……というのは……)


 そうか。というか、出来るならやっておくか。


(そもそも、装備品の+1という形の強化は……鍛冶士の能力、効果範疇だったハズです)


(錬金盾ってあったからなぁ~。アレの応用なんだからしょうがないだろう?)


(はい……その通りなのですが……ですが、錬金盾を他のアイテム、装備に施すなど……)


 出来てしまったんだから仕方がない。


(鱗の素材を……このメイド服に練り込むというか、混在させることで、強化となりそうだ)

 

 自分が所持している鱗の中で一番ランクが低いのが、ロックリザードから取れた蜥蜴の鱗……か。これは普通にいける。あ。いや、今は天職が魔術士だ。


「ちょっと待ってて」


 制御室へ移動する。錬金術士に天職変更する。


「戻して」


 先ほどの場所に転移する。その場で確認。


 お。火蜥蜴の鱗、氷蜥蜴の鱗っていう、ファイア&アイスリザードのドロップアイテムがあるな。これも……使えるか。というか、これ二つとも使用すれば……できるかな。


 まずは……鱗を砕く。粉末として認識できる物よりもさらに細かくなれと願う。まあ、どこまで細かくなっているのか? は良く判らないけれど。


 これに触媒として、触媒水と名付けた、水生成で生み出した水と、魔力を混ぜた物を混ぜていく。


 出来上がった砕き鱗を、この塗料の様なイメージでメイド服に塗り込んでいく。定着……する。させる。多分、魔力がそれを可能にしてくれているのだろう。


 メイド服を構成している布の構造に、食い込ませて行く。これはもう……イメージだ。布を顕微鏡で見たことがあるかないかで大きく違うかもしれない。毛羽だった糸が複雑に交差しているそのさらに先端、さらに、その先端の分岐……そこに食い込ませて、さらに浸透させ、定着させる。


 自分の中では簡単に……染まれ……なんて感じでイメージしていたが、結構細かく想像しているな……。


「二人とも、ちょっとここに立っててくれる? 着ているメイド服をどうにか強化できないか、試してみるから」


 メイド服を……いや、この服の素材を強化しようと考える。お。んーと。出来る……か。ちょい面倒だけど。行程多い。


 それに……疲れるな。魔力消費が大きいって感じかな。


(当然です。本来の錬金術には無い作業をされています)


 が。苦労したかいあって。


メイド服→メイド服+2


 と無事に強化に成功した。あれ? 一気に+2なのは……うん?


(予想ですが……火と、氷の素材を使用したことに原因があるかと……)


メイド服+2:中級品:強化により物理&魔力耐性がUPしている。火耐性+1、氷耐性+1。主に女性使用人、側仕えの着用する服。様々なデザインが存在する。


 ううん? なんか説明増えたね。


(はい……増やさざるを得なかったのかと……。ちなみに、+効果は鍛冶士と言いましたが、属性耐性の恒久的な付与は確か、付与術の使い手の……高レベルで入手するものです)


 とにかく、強化されたのは確かだ。これってどれくらい強くなってるのかな?


(正直、分かりません……ですが、素材として使用した、火蜥蜴の鱗、氷蜥蜴の鱗を使用した鎧……と同程度の防御力では無いでしょうか?)


 実験は後でやろう。とりあえず……森下のメイド服も+2にしておいた。


「とりあえず、メイド服を強化したよ。ダメージ受けないに越したことないけど、万が一にちょっと耐えられるかな。細かい検証は後でやろう」


「ありがとうございます」


「ありがつございます!」


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