333:綺麗になりすぎ
辺境騎士団副団長の傷痕は……施術からたった二日で……ほとんど消えた。まあ、何とかなるとは思っていたけれど、あの分厚かった、トカゲやワニなんかの皮に近かった傷が……見事に消えてしまったのだ。
傷痕が消えた後、本来そこにあったであろう「肉」も追加されているのが、上級回復薬という事なのだろう。
何よりも判りやすかったのは、彼女の、えーっと彼女から見て、左胸か。左胸のおっぱい? あ。いや、乳房、か。が形作られたことだ。傷痕によってひしゃげていた、女性らしい体つきが、治療と共に形成されていくのは、なかなかもの凄い光景だった。
自分の創るポーションが傷を癒やしていくのは、制作者冥利に尽きるんだけど、その効果が凄まじすぎて、正直ちょっと引く。
こんなん、世に広めちゃったら……そりゃなぁ……うん。人の欲望を際限なく刺激してしまうだろう。この後、多分、俺はもっと高効果の薬品も錬金可能になっていくはずだ。
面倒くさいなー。というか、今回なー。成り行きで副団長を治療しちゃったもんな~辺境騎士団の騎士団長であるところの姫様にもその報告もいくわけで。
うーん。お願いはしてますけどね。でもなぁ。アーリィ副団長と騎士団長の関係って結構深いみたいだからなぁ。
最終的に……カンパルラから出て行く、離れる必要があるかもしれないな~この工房の温泉はなぁ~手放すには惜しいけれど。逆に言えば、未練があるのはそれくらいだ。
ああ、そうか。それこそ、深淵の森の俺のダンジョンは別に入口を開かなければいいのか。誰からも干渉されない拠点として考えれば、なかなか便利だしな。
とりあえず、ディーベルス様やリドリス家の人達と敵対したくないからね。
なんてことを考えていたら。
「サノブ殿……あの~今回の~件ですが~当初の~予定通り~言い張れば……よろしいです……か~?」
彼女の方からそう、切り出してくれた。ありがたい。
「ええ。最初の……予定通り。かなり強引な話ですが……可能性が「全く無い」わけではありませんし。というか、それくらいしか……その、言い訳が……」
「ええ~そうで~すよね~。私も……そのぉ~考えました~。けれど、良い案が~思い浮かばず~」
まあ、うん。そうだよね。ちょっと綺麗に成りすぎたよな……。たった三日で、半身に及んでいた大きな傷痕が跡形もなく消えちゃってるんだから。
「あの~サノブ殿の~力のことも~その……そういう関係になったのも~私主導な~感じでしたので~なにも~言うつもりはありません~けれど~また~その~来ても良いでしょうか~」
「え、ええ。あの、ええ。そ、そんな感じで? よろしいので?」
「おいや~では~ない……ですか?」
「いやとか有り得ませんよ」
全く無い。努力できる人、そして……自分の大切な人の身になってモノを考えようとしてくれる人は……好きですから。ああ、俺、そういう部分のある女性に弱いのか。
「……か、可愛がられたい~のです~」
あらやだ。可愛い。照れて顔を伏せるの。
「まだ……いくつか、傷痕が残っていますから。それを癒やす為にも通っていただくのは問題ありません」
「うれしい~です~あの~今後共~よろしく~お願い致します~」
ということで、工房から地下道を経由して……城壁外へ連れて行く。
この地下道は新規で作り出したものだ。工房の地下、数十メートル。四方の壁をイメージできる最上級に固い人工石で構築してある。余程の大地震が直下型で襲いかかってこない限り、大丈夫なはずだ。
便利だから、抜け道として残しておいてもいいかもな。出入り口部分は、土の魔術で完全に埋めてしまえばいい訳だし。
「では……お気を付けて」
既存の迷宮、「英霊の回廊」の2階層目に辿り着いた。
認識阻害系の装備をフルに使って、ここまで誰にも見つからずに来れたと思う。迷宮の管理が甘々で良かった。
ここで彼女とは一旦、お別れだ。
「はい~というか~迎え~来てくださいね~絶対~」
「判ってます」
うーん。なんていうか、図体の大きい、ただの甘えん坊なんだが。これ、戦力補充になるのだろうか?
(なるとは思うのですが……できれば、訓練した方が良いかもしれません。松戸、森下も同様に)
(アレ? 彼女達、ステータス見れないままだよね?)
(ステータスは見れませんが、確実にあるハズです。そして普通に訓練することで、経験値を積み重ねて、階位を上げることが可能なハズです)
(……まあ、それ、普通だけどね)
(はい。ですが、
(ああ。そうか。彼女達はこちらの世界の住人じゃ無いから)
(そうです。そして、さらに、現地人を迷宮で鍛えると、どの程度、強化できるのか? のデータも取得できます)
……確かに。これまで、迷宮探索って、数日、いや、数カ月こもって……っていうパターンしか無かったから忘れてたけど……。一日で……朝潜って、夕方には帰還する……という迷宮、階層を構築すればいいんじゃないだろうか?
それこそ、迷宮の所在、場所は内緒ということにして目隠しさせて、管理室あたりに飛ばしてしまえば……って。あ。
(それもこれも、あのさ、俺のDNAだかを取り込んでないとなんだよな? 確か。管理室の利用ができない、中に入れないって)
(はい。その通りです。ですが、お二人の関係なら、それももう、すぐなのかと愚考いたしましたが……。非常に近しい間柄なのは確かですし)
(ですよね~)
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